フルーツ“盗難”「誰がどのような目的で…」実態把握の難しさ “外国人が大量窃盗”の真相は?

弁護士JP編集部

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フルーツ“盗難”「誰がどのような目的で…」実態把握の難しさ “外国人が大量窃盗”の真相は?
高級ブドウのシャインマスカットも窃盗犯の“標的”に(WWT撮影 / PIXTA)

ここ数年、果物の盗難被害が目立つと感じている人もいるのではないだろうか。8月には、茨城県笠間市で収穫前の梨およそ3200個を盗んだとして、ベトナム国籍の男が逮捕された。

盗難被害に遭っている農作物は果物だけではない。8月末頃からは、米の価格高騰の影響か、倉庫などに保管されていた新米が盗難される被害が全国各地で相次いでいる。

“実態把握”農作物ならではの難しさ

農水省では果物に限らず、農作物全般の盗難被害に課題意識を持っており、2018年度には実態調査を実施している。

その結果、盗難被害はさまざまな品目で発生しているが、中でもモモ、ブドウ、キャベツ、白菜、リンゴ、サクランボ、イチゴの被害が多いことが分かった。また、被害金額については把握できた事案の約9割が50万円以下だったことや、ほ場(田んぼや畑など農産物を育てる場所)から盗まれた事案が多いことも明らかになっている。

一方、これらの調査では「不明」の回答割合も高い(図1、2参照)。さらに事案解決の有無では「解決済み」の割合がわずか11%にとどまるなど、実態把握の難しさも浮かび上がっている。

【図1】農水省「農作物の盗難の実態と対応策」より
【図2】農水省「農作物の盗難の実態と対応策」より

農水省の担当者は「トラクターなどと違い、農作物は消費されれば(証拠が)なくなってしまうため、トレースがしづらい。それだけに、盗難被害に遭う前の対策が重要であるとして、当省でも防犯カメラの設置や見回りの徹底といった防犯啓発を続けていく」と話した。

“フルーツ王国”の取り組み

農作物の産地ではどのような対策が行われているのだろうか。全国有数の“フルーツ王国”として知られる山梨県の日下部警察署(山梨市、甲州市を管轄)では、防犯カメラ・センサーの設置といった自主防犯の呼びかけや、民間と協同したパトロールのほか、2年前(2022年)から情報提供フォーム「果実泥棒情報提供BOX」を設置して不審情報の収集にも努めている。

情報提供フォームを設置した経緯について、県警担当者は「きっかけは2年前に発生した『青いモモ』の大量盗難事件でした」と話す。

2022年、山梨県の峡東地域(山梨市、笛吹市、甲州市)で、収穫期を迎える前の青みがかったモモが1回に何千個と盗まれる事件が相次いだ。果物の盗難被害そのものは昔からゼロではなかったというが、収穫するには早すぎるモモが大量に盗まれるという衝撃は大きく、広く対策を講じることはできないかと検討した結果、情報提供フォームの設置に至ったという。

「初年度には『畑の周りで不審車両を見た』『どのあたりの畑がこれから収穫期を迎える』といった情報が16件寄せられました。

翌年は、“青いモモ事件”のインパクトからか96件の情報が集まっています。ただし、前年の被害を受けて警察や農協がパトロールを強化していたためか、畑に関する情報はあまり見られず、そのほとんどが『東京近郊で山梨県産のモモやブドウが路上販売されている』『フリマサイトで販売されている』といったものでした。

そして、今年6~9月に集まった情報は6件。かなり少なくなった背景には、昨年、大規模な事件が起きなかったことがあるのではないかと考えています」(県警担当者)

「外国人が大量窃盗」の真相は?

近年は外国人による農作物の盗難が報じられることが多く、“青いモモ事件”でも最終的にベトナム人2人が検挙されている。

山梨県警の担当者は「検挙実績から見ると、必ずしも外国人が多いとは言えない」としながらも、「その可能性も完全には否定できない」と言う。

日下部警察署管内で過去5年に発生した果実盗難の認知件数は年間10件程度で、うち検挙できているのは3割ほど。

「これらは、あくまで警察が被害届を受け取った件数なので、実際にはもっと多くの被害があると思われます。農家のみなさんも収穫期は忙しくて、多少の被害を受けても収穫作業を優先せざるを得ないのが現状です。

さらに、果実盗難は広大な畑の中で行われ、消費されればものが消えてしまうことから検挙の難しさもあります。誰がどのような目的で盗んでいるのか、正確には分かっていないことも少なくありません。

ただし、農家のみなさんが丹精込めて育てた果物の“一番おいしいところ”を持って行ってしまうのは許しがたいことですし、地域全体としては観光・産業の打撃にもなります。われわれ警察も、引き続き警戒を強化して、検挙に努めていく所存です」(同前)

窃盗犯への“裁き”

果実盗難は窃盗罪(刑法235条)にあたり、その罰則は「10年以下の懲役、または50万円以下の罰金」と定められている。しかし、被疑者(容疑者)が逮捕されたときは大きな話題になる一方、「有罪判決が出た」との報道を見聞きする機会が少ないように思えるが、不起訴になっているケースが多いのだろうか(※)。

※ 日本の刑事裁判では、起訴されれば99.9%の確率で有罪判決が出ると言われている

山梨県甲府市を拠点とする後藤文哉弁護士は、「何を盗もうがあくまで窃盗罪であり、対象が果実だからといって不起訴になりやすいということはないと思います」として、考えられる“背景”を以下のように話す。

「果実盗難にかかわらず、被疑者の名前などが報道されるのは一部であり、多くの場合は報道されていないのではないでしょうか」

なお一般的に、不起訴になるかは「被害額にもよるが、示談が成立し、被害弁償ができているかなどが考慮される」(後藤弁護士)とのことだ。

農家にとって、農作物を盗まれることは収入源を奪われるに等しい。ただし、盗んだ相手に損害賠償請求することについて、後藤弁護士は「意味がないわけではありませんが、費用対効果を検討する必要はあるかと思います」と指摘する。

「たしかに、刑事事件の示談として被疑者から被害弁償を受けることができれば問題解決までの時間が短くて済みますし、弁護士に依頼する必要がないこともあるので、理想ではあります。

しかし、示談が成立しない場合は被疑者に資力がないことも多く、損害賠償請求をしても被害総額を回収できない可能性が否定できません。そして、もし訴訟で損害賠償請求するとなると弁護士に依頼するのが一般的なので、費用も時間もかかる上、賠償額が低くなったり、判決を得ていざ強制執行をしても、回収額が低かったりすることが考えられます」

農作物の盗難は、事件が発生してしまってからではできることが限られる。当事者の農家だけでなく、消費者一人ひとりが「情報に関心を持つ」ことも、被害発生の抑制につながるのではないだろうか。

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