ふるさと納税「1万円」を「60円」と誤表示で寄付殺到も、法的には“不成立”…一般売買契約との決定的な違い【弁護士解説】

弁護士JP編集部

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ふるさと納税「1万円」を「60円」と誤表示で寄付殺到も、法的には“不成立”…一般売買契約との決定的な違い【弁護士解説】
誤表記があった楽天のふるさと納税サイト(楽天ふるさと納税より)

愛知県南知多町は9月25日に、ふるさと納税の大手仲介サイト「楽天ふるさと納税」に、寄付額の誤記入があったとして、町のHP上に「お詫び」を掲載した。寄付金額1万円の返礼品「ひもの5種セット」が「寄付額60円」と誤表示されていた。

同町によると、9月24日18時30分ごろ、委託業者が寄付金額を誤記入のまま表示。翌25日の7時30分ごろに間違いに気づいた委託業者がページを非公開にしたという。その際、異常な件数の寄付が寄せられていたことから、誤表示が判明した。

町はキャンセルとお詫びで対応

寄付は約13時間で1332人になり、計6892件も集まっていた。原因は「サイトの管理委託業者の単純な入力ミス」だったという。町は対応として、対象の寄付をキャンセルしてもらい、申し込んだ人にお詫びの連絡を入れるとしている。

そのうえで、「委託事業者に対し確認を徹底するなど再発防止に向け万全を期してまいります。」と表明した。

一連の流れについて、ネット上では「委託業者のミスだが、行政側のチェック体制ができていないのもの問題」「冷静に考えたら間違えとわかっての寄付なんだろうね、面白いから60円寄付する人もいるかもだけど60円だから寄付したのにって人もいるんだろうね」「ミスって分かってて寄付が殺到してしまう民度がちょっと悲しい…」などの冷ややかな声が大半を占めた。

過去には誤記入で400億円の損害も

ネット上の取引における「誤発注トラブル」で有名なものには、東証マザーズに新規株式公開した「ジェイコム株事件」(2005年12月8日)がある。

この事件では、取引開始から約30分後に発行済み株式数の42倍という大量の売り注文が入りストップ安を付けた。その後、今度は逆にストップ高まで上昇する乱高下が発生した。

証券会社の担当者が「1株で61万円の売り」とするところを「1円で61万株の売り」と間違って入力し注文したことが原因だった。この誤発注では約400億円の損失額が発生したといわれるが、その中には一瞬で約6億円弱を得た24歳の会社員、20億円超を手中にした27歳の無職男性がいたという。

ふるさと納税と一般の売買契約の違い

こうしたミスによる“お買い得品”でも構わず、情報を拡散するSNSコミュニティーもあるといわれる中で、今回の南知多のケースは、約13時間も誤記入を放置。責任問題はどうなるのか。消費者トラブルにも詳しい杉山大介弁護士に聞いた。

「まず一般論で言うと、売買契約は双方の合意によって成立するという点から考えることになります。売主が○○円でXを売ると表示して、買主が『買います』と伝えれば、合意により売買契約は有効に成立します。

もっとも、今回はふるさと納税という寄付金に対して返礼品が生まれるという特別な制度下の話であって、売買契約ではありません」

杉山弁護士が続ける。

「ふるさと納税は、寄付金の一定割合以下の金額で返礼品を受け取れ、一定割合を超える返礼品を渡すことは制度上できません。そのため、60円の寄付金で何かを渡すことはできず、ふるさと納税という制度下でのやり取りであったことから、商品を引き渡す義務も生じていないと考えられます。

行政法規との関係での適法性と、私法上の契約の有効無効は全く同じには考えられないのですが、今回は一般企業と違って取り返しがきく理屈がそれなりにちゃんと立つので『良かったですね』と思います」

つまり、町が対応策として示した「対象の寄付をキャンセルしてもらい、申し込んだ人にお詫びの連絡を入れる」で、一定の責任を果たすことができるということだ。

一般的には「間違いだった」で済まない場合も多い

ふるさと納税ではそもそも、実質負担額として2000円の費用がかかる。自治体からの返礼品によって、それ以上のリターンがあるため、得する制度として定着している。今回のケースでは、そうした知識があれば、「60円」という表示も含め、「おかしい」と気づけたと考えられる。

とはいえ、今回のケースで1300人以上が「60円」に群がったように、世の中は世知辛い状況だ。南知多町は制度に救われた形といえるが、杉山弁護士は次のように注意を促す。

「法律家としてコメントできるとすれば、合意に基づく拘束力というのは民事的な関係における基本になることなので、『間違いだった』ではすまなくなる場合も一般的には多いことは肝に銘じておいた方がいいですね」

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