札幌市内の病院でストライキ実施、“賃金支払い”めぐり裁判など騒動続く…何が起きているのか

小林 英介

小林 英介

札幌市内の病院でストライキ実施、“賃金支払い”めぐり裁判など騒動続く…何が起きているのか
札幌地方裁判所(PIXSTAR/PIXTA)

札幌市清田区にある美しが丘病院で、立て続けに騒動が発生している。

労組病院支部長の看護師長が雇い止めに

札幌美しが丘病院は、札幌市豊平区に本部を置く医療法人北武会が運営する病院。北武会は札幌美しが丘病院のほかにいくつかの病院や介護老人保健施設、認知症に対応した介護グループホームなども運営している。

同病院をめぐって一体何が起きているのか。

端的にいえば、定年後のフルタイムで有期再雇用されている看護師長が、合理的な説明がされないまま雇い止めにされたという労働問題である。雇い止めされた看護師長は、これを不服として雇い止めを撤回するよう求めている。

なお看護師長は、札幌地域労働組合美しが丘病院支部の支部長を務めている人物でもある。同病院支部に所属する看護師らは、看護師長の雇い止めを受けて10月2日にストライキを決行した。

病院では今年8月に未払い賃金めぐり訴訟開始

札幌美しが丘病院をめぐっては、過去にも裁判沙汰になるほどの騒動が起きている。

今年8月15日、美しが丘病院で働く介護士ら16人は、賃金未払いを理由に北武会を相手取り約4600万円の損害賠償を求め、札幌地方裁判所に訴訟を提起した。通常、介護士らは私服で仕事を行うわけではなく、必ず仕事が始まる前に制服へ着替える時間が必要となる。また、病院の診察が始まる前には薬などを準備しなければならない。しかし、その時間の賃金は支払われていなかったのだ。

厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月策定)によると、労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいう。そのうえで、以下のような時間が労働時間にあたるとした。

(1)使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

(2)使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

(3)参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

このように、国が示しているガイドラインでは、(1)のように着替えをする時間も労働時間に含まれるとされている。

親睦会の支出にも不正がある?

9月13日に北海道病院支部が公表した文書によると、9月24日から事件の完全解決までを期間とし、組合員が従事する札幌美しが丘病院内でストライキを含むあらゆる形の争議行為を病院全体か一部で実施するとしている。その上で、支部長の雇用問題など不当労働行為への謝罪と是正を求めた。

さらに、病院支部は病院の親睦会の支出にも不正があるとも指摘。親睦会費として毎月500円が給与控除されているが、それがどう使われているかは報告されていないという。一連の問題についての本稿記者の取材に対し、病院の担当者は未だ回答を寄せていない(10月11日現在)。

「不当解雇とも呼べる雇い止め撤回していただき、戻していただきたい」

10月2日のストライキで、解雇された看護師長はこうコメント。このまま事態が進展しなければ、10月中旬には訴訟を起こす考えを明らかにしている。

22年6月に新しく院長に就任した小原雅人氏のあいさつ文には「患者さんの権利を護り、安らぎを提供する病院(原文ママ)」の文字が躍っている。最悪の事態は避けたいところだが、果たしてこのまま「安らぎを提供する」ことはできるのだろうか。

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