「国籍選択の機会の不平等」問う違憲訴訟で請求棄却 原告男性は“1歳”で日本国籍を喪失も…「手続き“前”までは保障あった」
10月17日、出生後に英国国籍を取得したため日本国籍を喪失した子の両親が、国籍法11条は憲法14条の「平等原則」に違反して無効であると主張し、子が日本国籍を有することの確認を求めた訴訟で、東京地裁は原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。
親の「かん違い」で1歳の時に日本国籍を喪失
本訴訟の原告は2010年生まれ、現在14歳の男性。
原告は日本人の子として出生し、その時点で日本国籍を取得。その後、英国人男性と日本人女性の夫婦と特別養子縁組を結び、夫婦の子となった。
原告は日本旅券(パスポート)を持っていたが、両親は「子(原告)は特別養子縁組によって実子と同じ立場になったから、父の国籍である英国籍も得たはずだ」と考え、原告が1歳の時に在日英国領事館で英国旅券を申請しようとした。これに対し、領事館の担当者は「旅券申請の前に英国の市民登録をする必要がある」と説明。
両親は「子はすでに英国籍を持っているが、英国政府に届を提出していないから政府側は子を英国国民として把握しておらず、そのために市民登録が求められている」と考えて、旅券の申請と共に市民登録を行う。その後、原告の旅券が発行された。
ところが、実際には「英国への市民登録」が「英国籍の取得手続き」を兼ねていた。
この事実を両親が知ったタイミングは、原告と両親が2010年代後半に英国に移住し、期限を迎えた原告の日本旅券の再発行を申請しようとしたところ、在英日本領事館の担当者に「国籍法11条1項によって原告は日本国籍を喪失している」と告げられた際であった。
「複数国籍者」間の「不平等」を問う
原告らは、国籍法11条1項は憲法14条1項の「平等原則」違反であると主張している。それぞれの条文は下記の通り。
国籍法11条1項「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」
憲法14条1項「すべて日本国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
本訴訟で問題となっているのは、外国籍を「志望取得」した人と「当然取得」した人との間の不平等だ。
通常、日本人と外国人の夫婦の子や、日本人父から認知されて日本国籍を取得した外国人、外国人と養子縁組した日本人などは外国籍を「当然取得」して「複数国籍」となる。
そして、未成年の場合には成人してから2年以内に、成人の場合には複数国籍になった時点から2年以内に、国籍選択届を提出することが制度上は求められている。ただし、期限を過ぎても、原則として罰則はない。
逆にいえば、当然取得によって複数国籍になった人には、自分の国籍を日本にするか外国にするか、最低でも2年間は熟慮したうえで選択するという「機会」が与えられる。
一方で、外国の市民権を登録するなどして外国籍を「志望取得」した人は、その時点で日本国籍を失う。つまり、その後に国籍を選択する機会はない。 原告らは、このような「国籍選択の『機会』の有無」の不平等は平等原則違反であると主張する。
さらに、未成年者の場合には、原告の事例のように、法定代理人である親権者が志望取得の手続きを行った時点で、その後に本人が国籍を選択する機会が失われてしまう。一方で、当然取得による未成年の複数国籍者は20歳まで国籍選択を猶予されているため、熟慮の末に選択する機会が保障されている。
原告らは「未成年者間における国籍選択の『機会の保障』の有無」の不平等も平等原則違反であると主張している。
「事前」に保障されていたから「事後」の保障は必要ない?
今回の判決で、裁判所は「原告は親が英国籍を志望取得したことで国籍選択の機会を『事後』に失ったが、その志望取得手続きの『事前』までは原告にも機会は保障されていたのだから、本件は平等原則違反には当たらない」との論理で、原告の請求を棄却した。
判決後の会見で、原告代理人の近藤博徳弁護士は2021年や2023年にも類似の事例で東京地裁や福岡地裁が同様の判断をしたことを指摘しつつ、「裁判所の論理はレトリック、ごまかしに過ぎない」と批判した。
「原告は、日本国籍を喪失した時点では1歳の子どもだ。それなのに『事前に機会があった』という理屈はおかしいのではないか。このことを裁判所が疑問にも思っていない様子なのが残念だ」(近藤弁護士)
前述したように、当然取得による複数国籍者が日本か外国かの国籍を選択して単一国籍になる際には、国籍選択届の提出という手続きが必要になる。逆にいえば、届を提出しなくても、それによってどちらかの国籍を失うことはない。
近藤弁護士によると、このような国籍選択制度の運用について、国会では「本人による選択の機会を保障しなければならないため」と判断されたという。
「裁判所は、選択の機会の保障を重視する国籍選択制度に無理解だ。法律の条文によって『事前に保障されていた』と主張するだけでなく、機会を実質的に保障する必要がある」(近藤弁護士)
国籍は「選挙権」にも関連する
原告の代理人の仲晃生弁護士は、国籍は選挙権に関わる点を指摘した。
過去、最高裁は「選挙権の制約が許されるのは、きわめて限定的な、やむを得ない場合に限られる」と判断している。選挙権は国民主権の原則に関わる、重大な権利であるためだ。
「しかし、今回のような判決では、日本国籍の地位を本人の意思に反して喪失させることが、容易に認められてしまっている。
制度上、国籍を喪失させる根拠は『複数国籍による弊害のおそれ』だが、その『おそれ』が実現したことはこれまでにない。それなのに、日本国籍を持つことができたはずの子どもたちを、日本から追放していくのが良いことだと思うのか」(仲弁護士)
また、近藤弁護士は「今回の裁判は『複数国籍を認めよ』と主張するのではなく、『選択の機会を与えよ』と求めるための裁判に過ぎない」と語った。
原告側は控訴を検討している。
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