「国民を不幸にしているのでは」マイナ保険証のトラブル、7割の医療機関が経験 医師らの団体が調査結果を発表

弁護士JP編集部

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「国民を不幸にしているのでは」マイナ保険証のトラブル、7割の医療機関が経験 医師らの団体が調査結果を発表
会見を開いた全国保険医団体連合会の竹田智雄会長(左から2人目)ら(10月17日 都内/弁護士JP編集部)

現行の健康保険証の新規発行停止が12月2日に迫っている。

政府はマイナンバーカードと保険証を一体化した「マイナ保険証」への移行を促進しているものの、厚生労働省によると、8月時点でのマイナ保険証の利用件数は2436万件で、利用率は12.43%と、いまだに普及は進んでいない。

回答した医療機関のうち、7割がトラブルがあったと回答

そうしたなか、10月17日、全国の医師・歯科医師10万7000人で構成される全国保険医団体連合会(保団連)が都内で会見を行い、医療機関を対象にした、マイナ保険証に関するアンケート調査の結果を発表した。

調査には約1万3000の医療機関が回答。政府がマイナ保険証の利用促進キャンペーンを始めた今年5月以降、約7割の医療機関でマイナ保険証、オンライン資格確認に関するトラブルが発生していることがわかったという。

政府は「不安払しょく」説明も、前回調査からトラブル増

保団連では今年1月にも同様の調査結果を発表しており、このときは8672の医療機関が回答し、そのうち59.8%(5188医療機関)でトラブルがあったと回答。

前回調査から今回調査までの間、政府は「不安払しょく」の措置をとったと説明していたものの、トラブルが発生したと回答した医療機関の割合は約10%増加した。

今回の調査ではトラブル事例の選択肢に、新たに「マイナ保険証の有効期限切れ」を追加。

この選択肢のトラブル有無について回答した医療機関のうち、約2割で同様のトラブルがあったという。

マイナ保険証を利用するには、マイナンバーカードのICチップ内に保存される「電子証明書」が有効期限内でなければならない。

総務省が5月に公表した資料によると、今年更新が必要となる電子証明書の件数は1076万人分で、さらに、2025年には2768万人が更新の対象となるため、今後さらに同様のトラブルが増加する恐れがある。

さらに、トラブルの種類別では「名前や住所などが●で表示される」との回答がもっとも多く、発生頻度も高いとの報告が数多く寄せられたという。

マイナ保険証では、システムの都合上、文字化けが発生する場合があるといい、その際に「●(黒丸※編集部注)」が表示されるという。

河野太郎前デジタル担当相は在任中、「●はトラブルではなく、システムの仕様」であると会見で発言。厚労省も「」が表示されたままでも、問題はないと説明していた。

これに対し、保団連側は「はしごだかの『髙橋』など旧字が表示できない。死亡診断書でトラブルになる恐れがある」「名前が●になっているため、再来の人が “新患”の扱いになる」といった医療現場の回答を紹介。

保団連の山崎利彦理事は「●表記以外にも、マンション名や番地の表記揺れの問題もある」と指摘し、次のように訴えた。

「マイナ保険証のシステムでは、こうした細かい表記が完全一致しなければ、別人だと判定されてしまいます。

受付のところではそのぐらい無視すればいいだろうという風に河野大臣は思っていたのかもしれませんが、 請求書や領収書、あるいは検査データや他の医療機関への紹介状など、全部のデータに関わりますから、現場で修正しなければなりません。

こうしたトラブルが改善されない限り、『スタッフの作業を減らせる』というマイナ保険証のメリットは失われたままです」(山崎理事)

これらのトラブルに遭遇した医療機関のうち、78%が紙の健康保険証を代用し、無保険扱いを回避したと回答。

竹田会長は「このまま現行の健康保険証が廃止となれば、(マイナ保険証でトラブルが発生した場合)患者を無保険扱いとし、10割負担を請求せざるを得ないケースが増加する懸念がある」と話した。

費用的・精神的にも負担、閉院検討する医療機関も

さらに、保団連の副会長で歯科代表の宇佐美宏氏はマイナ保険証には構造上の問題があると指摘する。

「今回の調査結果ではマイナ保険証対応によってさまざまなトラブルが発生していると判明しました。

一番の問題は、デジタル弱者でもある高齢の医者や、経済的に弱く、設備投資が負担となる歯科の場合には、そこにたどり着くことすらできないことです。

現在調査中ですが閉院を検討している歯科もあり、今後歯科医療難民が増えるのではないかと危惧しています」(宇佐美副会長)

保団連の杉山正隆理事も、歯科医師としての立場から次のように述べる。

「マイナ保険証を読み込むためのカードリーダーなどを購入し、導入するだけでも相当な費用の負担が必要になります。

私は町の狭い医院を経営していますので、そうした機器を置くスペースを確保するだけでも大変です。

そんな中で、厚労省からは定期的に、脅すかのように『あなたの病院のマイナ利用率は何パーセントです』とまるで行政指導かのような連絡が来るので精神的にもプレッシャーを感じています」(杉山理事)

「資格確認証ではダメ」な理由とは

政府は今後、マイナ保険証を所持していない人に向けて、「資格確認書」を無償交付する予定で、資格確認書を提示すれば、引き続き、一定の窓口負担で医療を受けられると説明している。

これに対し、山崎理事は次のように訴えた。

「資格確認書は、マイナ保険証を利用している人には送られてきません。ですので、マイナ保険証を持っている人と持っていない人を分けて、そのうえで交付する必要があるため、膨大な予算と手間がかかります。

さらに、もともと健康保険証は法令で、被保険者全員への発行公布が義務づけられていました(編注:健康保険法施行規則第47条の2)。

政府は“当面の間”マイナ保険証を持っていない人に、資格確認書を送付するとしていますが、原則としては資格確認書の発行は義務付けられておらず、被保険者による保険者への申請が必要となります。

ですから“当面の間”の措置が終われば、目の見えない方や認知症の方など、資格確認書が必要な方に、届かなくなる恐れがあります。

保険を証明するものが、突然手に入らなくなるとなれば、それは国民皆保険制度を根本から破壊することにつながります。

こうした懸念があるので、資格確認書ではダメだと主張していますし、(システムの不備が改善されるまでは)現在の健康保険証が必要なのです」(山崎理事)

杉山理事も、「保険証は『証』ですので、証明に使えるものですが、資格確認書は書いてあるだけで、何かを公的に証明してるものではありません。健康保険証と資格確認書類には、そういう違いがあると思います」と付け加えた。

「ほとんどの国民を不幸にしている」

会見の最後に、山崎理事は「デジタル化に反対しているわけではない」と念を押した。そのうえで、現状のマイナ保険証の問題点を指摘した。

「保険証の資格確認ができなければ、われわれは患者を治療できません。ですが、資格確認は医療の出入り口であって、医療そのものではありません。

マイナンバーカードの利用率は低いですが、オンライン資格確認の制度を使って、患者さんの資格の確認を行っているという病院は結構あります。

このように、デジタル化で本来求められるものは、医療を受けるまでの手続きをスムーズにして、治療を受けやすくすることです。

ですが、現状のマイナ保険証は治療と関係ないところでトラブルを起こしているだけです。

にもかかわらず、マイナ保険証の制度が進められているのは、ほとんどの国民を不幸にしているのではないかと思います」(山崎理事)

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