障害者向け施設の不正請求「背景に国や自治体の責任放棄」労組が制度改善を要請

弁護士JP編集部

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障害者向け施設の不正請求「背景に国や自治体の責任放棄」労組が制度改善を要請
会見を開いた福祉保育労東海地方本部の西田知也書記次長(中央)ら(10月30日 都内/弁護士JP編集部)

障害者向けグループホーム(GH)を運営していた株式会社恵(めぐみ)による、食材費の過大請求などの不正問題を受け、社会福祉の現場で働く労働者で構成される労働組合、「全国福祉保育労働組合」(福祉保育労)が10月30日に会見を開いた。

出席者からは、恵による問題の実態と、背景にある国や自治体の責任放棄について語られた。

全国のGHで2億9926万円の食材費を過大徴収

株式会社恵の問題では、まず2023年に、同社が愛知県内で運営していたGHで、利用者に対して食材費の過大徴収が行われていたことが発覚。

その後、愛知県などが実施した調査で、自治体に対する、障害福祉サービス報酬の不正請求も判明した。

過大徴収された食材費の総額は、愛知県内だけで約2億1800万円、全国では2億9926万9487円にのぼり、愛知県と名古屋市は今年6月、同社が運営する県内5か所のGHに対し、指定取り消しを決定した。

また、厚労省は、食材費の過大徴収について、恵による組織的な関与を認定。

障害者総合支援法第36条第3項第6号では、指定取り消しの理由となった事実について、事業者の組織的な関与が認められる場合、その事業者の他の事業所についても、指定・更新を認めない「連座制」を規定しており、厚労省は恵に対する連座制の適用を決定した。

全国99か所のGHが2029年度までに更新期限を迎えることになり、今後は事業の譲渡が行われる予定だ。

「ありえない数字」愛知県内だけで約8億円返還へ

この日の会見では、福祉保育労東海地方本部の西田知也書記次長が、恵問題の概要とこれまでの福祉保育労による対応について説明した。

「食材費の過大請求という経済的虐待が報じられ、その後も不正請求の問題や労務管理のずさんな実態が明らかになっていく中で、問題が大きくなるのではと危惧し、愛知県や名古屋市に対する要請行動を開始しました。

過大請求、不正請求による自治体への返還額は愛知県内の分だけで約6億円になり、さらに、愛知県内では恵が運営していた放課後等デイサービスでも、指定が取り消されたことからさらに2億円が追加され、返還額は約8億円になりました。

通常の場合、多少の過誤があったとしても、返還額がここまでの数字に膨れ上がることはありえません」

「問題の背景に国や自治体の責任丸投げ」

より実態を知り行政への要請につなげるため、西田書記次長らは昨年11月から、職員や元職員、利用者家族らを対象にした投稿フォームを開設。

「寄せられた声の中には『何も指導がないまま現場の支援請求業務をやらされる』といった不正の実態を表すものや、利用者家族からの『今の施設は熱心に対応してくれるが、今後は行き場がなくなるのでは』と不安を訴えるものもありました。

障害のある人の支援を熱心に考えている施設であれば、このような問題はありえなかったと思います。

ですが、恵は1年間で30か所ずつ施設を建てる一方、職員の確保や育成に関しては、場当たり的な対応をとっていました。

にもかかわらず、恵では、国からの補助金を増やすため、知識の少ない職員では対応の難しい、重たい障害を持つ人をどんどん受け入れるなど利益を追求しており、結果として経済的虐待や不正請求にもつながったのではと考えられます。

このように、2005年の自立支援法の成立以降、国や自治体が「障害者ビジネス」を容認し、民間企業に福祉に関する責任を丸投げしてきたことも、今回の問題の背景にはあるのではないでしょうか」

愛知県以外でも施設運用に問題「30人以上の職員が離職」

会見では続けて、神奈川県で恵問題の対応にあたった、福祉保育労神奈川県本部の寺田典子氏が事例共有を行った。

「聞き取り調査をしたところ、利用者に対する暴言や、本来、障害福祉の現場では避けるべき、異性介護などが確認されました。

また、働いている職員についても、残業代の未払いや16時間の1人夜勤、なかには約1年半で30人以上が離職している施設もありました。

利用者はこのような環境の中でも、施設で毎日暮らしています。ですから今後も行政に対する働きかけなどを通じて、よりよい施設に変えていきたいと思います」

国に制度改善を要請も「積極的な対応は得られず」

この日、福祉保育労は厚労省に対する要請行動を実施。恵のGHが今後他の事業者に譲渡される際に、利用者や職員への不利益がないよう対応することや、監査の充実、障害福祉施設の指定基準見直しなど制度改善を求めた。

福祉保育労の清水俊朗副委員長は、厚労省側の受け止めについて「誠実に対応してくれたものの、現状制度の説明に終始していて、より踏み込んだ積極的な対応は得られなかった」と評価した。

会見の最後に、西田書記次長は自治体と恵の責任について、以下のように訴えた。

「本来福祉は公的なものであり、障害福祉施設への指定を行っている以上、自治体は責任を負うべきで、仮に責任を持てないのであれば、安易に指定するべきではありません。

また、恵も今回の問題について、組織的に問題に関与していたのだから、会見で説明し謝罪するなど、社会的な責任を果たしてほしい」

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