「医療崩壊起こりはじめている」 3労組、ケア労働者への“速やかな処遇改善”求め厚労相に要請
看護師や介護士など医療・介護現場で働くケア労働者の低い賃金水準の見直しを国に求め、医療系の三つの産業別単一労働組合(単産)でつくる医療三単産共闘会議は11月1日、東京・霞が関の厚生労働省を訪れ、厚生労働大臣宛てにすべてのケア労働者の賃上げや人員配置増を求める要請書を提出。その後都内で会見を開き、「(現場では)医療崩壊も起こり始めている」と危機感を訴えた。
「あまりにも低い賃上げで終わっている」
「国民のいのちと健康を守るため」。そう題された要請書は、切迫した現場の実情を伝えた。
進まないケア労働者の処遇改善を求める要請書を提出したのは、医科系大学や自治体病院、病院、診療所などの各組合がそれぞれ加盟する全国大学高専教職員組合(全大教)、日本自治体労働組合総連合(自治労連)、日本医療労働組合連合会(医労連)の三単産。
政府は令和6年度診療報酬・介護報酬改定で、新たに「ベースアップ評価料(※)」や「新介護加算」を盛り込んだが、2.5%のベア目標に対し、医労連加盟の医療機関や介護施設で1.42%(9月末時点、98組合平均)にとどまった。三単産は要請書で、他産業の今年の春闘賃上げ平均5.0%程度と比べても、「あまりにも低い賃上げで終わっている」と指摘した。
※看護職員などの医療従事者の賃上げのために今年6月にスタート。診療費に上乗せされ、患者が負担。そのすべてを賃上げに充てる。
新商品や新しいサービスの販売などで収益を上げられる民間企業などとは異なり、収入を診療報酬に頼る医療機関。現状は深刻だ。
医労連の発表によると、24年春闘は歴史的な物価高騰を背景に、数十年ぶりという高い水準の賃上げとなった。全労連・国民春闘共闘の賃上げ平均額は1万163円(3.49%)、連合は1万5281円(5.10%)と、5桁を超えた。
一方で医労連加盟の労働組合の平均額は8238円(3.18%)にとどまり、産業間の格差が拡大。低賃金による慢性的な人手不足も加わり、医労連は「理不尽としか言いようのない」労働環境となっていると訴える。
7割近くの病院「看護職員が充足していない」
会見では、医療・介護現場が抱える危機的な窮状が伝えられた。
全大教の長谷川信氏(群馬大学医学部附属病院リハビリテーション部、療法士長)は、「(大学病院などは)診療に加えて医療者を育てることにもエネルギー、時間を費やす。研究もしていかなければならない。人員、財源が十分でなければ、診療はもちろんのこと、医療者育成や先進医療研究にも影響が出てくる」と語った。
鮫島彰自治労連医療部会議長は、「すべての病院で経営的に赤字が出ていると言ってもいい。特に専門治療、高度治療、へき地の地域医療も行っている(都道府県立病院などの)自治体病院は赤字幅が大きくなっている」と述べた。さらに「看護師のなり手がいない。閉鎖する看護専門学校も出ている。今後の看護師確保が非常に危惧されている。ベースアップ評価料は人材を確保することにも着目しているが、(ベア目標の)2.5%では全く足りない」と訴えた。
医療機関や介護・福祉施設では新型コロナウイルス感染症への対応が今も続き人員不足に拍車を掛けている。
米沢哲医労連書記長は、「介護(の現場)では以前から人員が足りない、有効求人倍率も相当高くなっている、と周知されてきたが、医療(の現場)でも看護師が集まらない状況が出ており、辞めた看護師を補えない状況が起き始めている。医労連が行った『看護職員の入退職に関する実態調査』(今年4~5月)では、7割近くの病院で看護職員が充足していないことが明らかになった」と話し、「こうした事態が進めば、患者や利用者に影響が出ることは明らかだ」と危機感を示した。
患者が必要な医療を受けられない状態も…?
佐々木悦子医労連委員長は人員不足を解決するためには財政措置など政府の支援策が必要不可欠だとして、次のように話した。
「看護師の退職が増え続け、医療機関への入職数も減り、医療現場は深刻な人員不足に陥っている。人手不足によって、病床を閉鎖する、あるいは病床数を削減しなければならないなど、患者が必要なときに必要な医療を受けられない状態にもなっている。
地域医療、介護を守るためにもすべてのケア労働者の賃金の引き上げは喫緊の課題。政府は全額公費による追加の支援策を講じるべきだ」。
また、医療機関や介護事業所に対しても、「物価高騰や人件費の増加分を補うことができるだけの診療報酬、介護報酬を抜本的に引き上げる臨時改定を実施してほしい」と求めた。
ケア労働者の労働環境改善は、国民の命と健康を守るためにも急務と言えるだろう。三単産は11月7日、大幅賃上げの実現などを求め、全国一斉ストライキも予定している。昨年の秋闘では282支部(労組)から9295人が参加した。
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