過労死防止法制定から10年、労災件数は“増加傾向” 「夫の死むだにしないで」遺族らシンポジウムで講演

榎園 哲哉

榎園 哲哉

過労死防止法制定から10年、労災件数は“増加傾向” 「夫の死むだにしないで」遺族らシンポジウムで講演
過労死で夫を亡くした大泉さん(11月6日 都内/榎園哲哉)

本人や遺族のみならず、社会にとっても大きな損失である過労死等を防止するために過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が2014年11月に制定されてから10年となった今月6日、「過労死等防止対策推進シンポジウム」(厚生労働省主催、東京都後援)が、東京都千代田区で開かれた。

厚生労働大臣や厚生労働省から過労死等をめぐる現状が報告されたほか、シンポジウムには長年対策に取り組んできた弁護士や過労死遺族らも登壇。今後の“課題”も語られた。

厚労相「命を落とすこと決してあってはならない」

「ぼくはタイムマシーンにのって お父さんの死んでしまう まえの日に行く そして『仕事に行ったらあかん』ていうんや」

2000年3月に過労自死で父を亡くした小学1年生(当時)の男子が書いた詩「ぼくの夢」。開会に先立ち、その詩を基に作られた歌が、3人組の歌手グループ、ダ・カーポによって演奏された。

過労死防止法が制定された11月は「過労死等防止啓発月間」とされ、その一環として毎年11月中に全国47都道府県・48会場でシンポジウムが開催されている。

6日に行われた東京中央会場では冒頭、福岡資麿(たかまろ)厚生労働大臣があいさつ。

「本年4月から時間外労働の上限規制が建設業、自動車運転者、医師等にも適用されるなど、過労死等防止の制度が整ってきた。他方、過労死等に関する労災補償の支給件数は増加傾向にある。長時間労働対策に加え、メンタルヘルス対策や、ハラスメント防止対策の重要性が一層増してきている。働き方の多様化が進む中、フリーランス等の就業実態にも着目し、対策を進めていく必要がある」と語った。

また、そうした課題への対応を記した新たな政府指針「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(今年8月閣議決定)に触れ、「本大綱に基づき、強い使命感をもって過労死等のない社会の実現を目指していく。『しごとより、いのち。』が過労死等防止啓発月間のキーフレーズ。働き過ぎにより健康を損なうこと、命を落とすことは決してあってはならない」と述べた。

労働時間減少傾向も労災件数は増加

厚生労働省からは佐々木菜々子労働基準局総務課長が登壇し、令和6年版「過労死等防止対策白書」を基に、過労死等をめぐる現状などを報告した。

まず労働時間について、週労働時間が40時間以上の雇用者のうち、60時間以上の雇用者の割合は減少傾向にあるといい、「業種別の状況では、一部に増加している業種もあるが、多くの業種が横ばい、あるいは減少している」と説明。

勤務間インターバル制度(1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を設ける)の導入割合や、年次有給休暇の取得率が増加するなど、企業においての対策は拡大しているという。

しかし、「脳・心臓疾患は前年度より増加し、令和5年度は216件と4年ぶりに200件を超えた。死亡件数も前年度より増加し58件だった。精神障害は令和元年度以降増加傾向にあり令和5年度は883件。自殺・自殺未遂も4年ぶりに増加し79件あった」として、民間雇用労働者の労災件数がいずれも増加傾向にある現状を伝えた。

弁護士「あしき習慣続く企業も」

過労死等防止対策推進全国センター・共同代表の川人博弁護士は、一部には対策が行き届いていない現状があるとして、次のように述べた。

「働き方改革によって長時間労働の規制が行われるようになった。それにより、労働時間短縮や職場改善が行われているところももちろんあるが、一方で、実際よりも少ない、過小な労働時間数を公式的な労働時間数として装う傾向も後を絶たない。

たとえば、労使間の協定により時間外労働規制の上限を月に50時間と設定した場合に、50時間を超える時間外労働があっても上司が部下に申告させない、というような“あしき慣習”が続いている企業もあるのが実情だ」

また、移動を伴う勤務や出張の多い勤務について、移動時間を労働時間に認定しないケースなどもあると指摘した。

「過労死等を減らすには、労働時間数の正確な把握、適切な認定がとても大切だ」(川人弁護士)

労働時間数を装う問題も語った川人弁護士(11月6日 都内/榎園哲哉)

「夫の死を教訓とし、むだにしないでほしい」

シンポジウムには、家族を過労死で亡くした4人の遺族も登壇し、切実な思いを語った。

宮城県在住の大泉淳子さんの夫は中学教諭として「担当教科の英語の楽しさを伝えたい、部活動で得意のバレーボールを教えたいと、生徒と真正面から向き合い、体当たりで取り組んでいた」という。

しかし、休日も出勤せざるを得ない多忙さや、生徒による授業妨害、給食に睡眠薬を入れられるなどの嫌がらせもあり、うつ病を発症。帰らぬ人となった。

大泉さんは「教師の多くは、日常的に多岐にわたる業務を行っている。多忙で過重な勤務を抜本的に見直してほしい。夫の死を教訓とし、むだにしないでください」と訴えた。

また、海外(タイ)に赴任していた息子が自死した富山県在住の上田直美さんは、自死の原因が過重労働などによるものでありながら、会社からは「転落事故として労災申請をしたい」と申し出があったといい、「息子にうそをつくことができるはずがない」と断ったことを振り返った。

「海外で働く日本人にも関心を寄せていただければ幸いです」(上田さん)

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