“闇バイト”の連絡に悪用の通信アプリ「シグナル」本当の実力 知るほどに“ヤバい”非道な使い方

弁護士JP編集部

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“闇バイト”の連絡に悪用の通信アプリ「シグナル」本当の実力 知るほどに“ヤバい”非道な使い方
“ホワイト案件”の先にあるのは地獄の入り口だ(nonpii / PIXT)

首都圏で相次ぐ強盗事件で、犯人らの連絡手段として使われていた通信アプリ「シグナル」。その秘匿性から足がつきづらいと、指示役と実行役をつなぐツールとして犯行グループに重宝されている。

実行役にシグナル利用者が多いわけでは決してない。実行役はSNSを通じ、「闇バイト」として募集されるが、その過程で「シグナル」の利用を“強要”されるのだ。

シグナルはなぜ犯罪に悪用されるのか

シグナルでは、LINEなどのように、間にサービス事業者が介入せず、直接、相手とやり取りできる。加えて、メッセージも設定した時間が経過すると消せるため、データが残りづらい。犯罪に利用するにはなにかと好都合なのだ。

本来は、エンドツーエンドの暗号化によって通信内容を保護し、ユーザーのプライバシーを最優先する通信ツールで「最も安全なメッセンジャーアプリのひとつ」とも評される。LINEなどの多数とのやり取りに疲れた人やセキュリティの高さを求める人などに有用な通信手段として注目され、じわじわと広がっていた。

ところが、「闇バイト」では、その秘匿性の高さがまんまと悪用された。指示役から実行役へシグナル等の通信アプリを通じて発せられる残虐な指示。いわれるがままに実行された犯行は、報道によれば8月以降、18件におよぶ。1人が死亡、10人以上がけがをしている。

現在までに一連の事件関連の逮捕者は計40人近くとなっているが、“実行役”ばかり。指示役には辿り着けていないのが実状だ。利用する通信アプリの秘匿性の高さがやはりハードルとなっているのか。

デジタル解析に詳しい専門家が明かす実状

パソコンやスマートフォン、HDDなどのデジタルデータを解析し、証拠を収集する技術のデジタルフォレンジックに精通する、さっぽろ探偵事務所代表の和泉慎一氏に実状を聞いた。

現在、首都圏で相次ぐ強盗事件では連絡手段としてシグナルが使われているようですが、やはり犯罪に使うには都合のいいツールなのでしょうか。

和泉氏: 一般にもなじみのあるLINEとの比較でいえば、LINEでは間に会社が入りますからデータも残りますし、開示請求をすればIPも辿れます。一方、シグナルのような秘匿性の高い通信アプリは、間に会社を挟まず、ダイレクトにユーザー間で通信できます。

加えて、データも暗号化されるので証拠は残りづらいといえます。

また、同様に秘匿性の高い通信アプリに「テレグラム」があり、こちらはこれまでによく犯罪等にも使われていました。仕組みは基本的にシグナルと同じですが、メッセージの消去機能がデフォルトでオフになっているのに対し、シグナルではオンになっています。オンにするにはユーザーが自分でするしかなく、オンにし忘れるというリスクがあります。小さな違いですが、そうした懸念もあり最近ではシグナルが主流になっているようです。

通信ツールとしてはやはり犯罪に都合がよさそうです。捜査機関にとっても、証拠集めを手間取らせる厄介なツールといえるのでしょうか。

和泉氏: 半分はその通りといえます。しかし、完全にお手上げということではありません。なぜなら、アプリですからスマホに紐づきます。メッセージは消えてしまっていても、スマホにGPSなどの情報は残っていますし、所有者情報等もつかめます。そうした断片データをつなぎ合わせることで、足取りなどの手がかかりをつかむことは可能です。

少し手間取るものの、手掛かりがつかめないわけではないということですね。

和泉氏: ただし、ネックがあります。実行役を捕まえてスマホを押収すれば、上記の情報は収集できますが、相手側、つまり、指示役の手がかりはつかめません。

確かにこれまでに指示役が捕まったという報道はないですね。

和泉氏: 指示役は安全な場所で、足取りをつかまれにくいツールを使い、残虐な犯罪を実行役にさせている。実行役は捨て駒であり、もしも失敗しても指示役にはリスクはないわけです。

こうしたいわゆる「闇バイト」は「ルフィ」の事件で名が知られるようになったかと思いますが、いまも拠点を東南アジア等にしているという話は聞きますね。

犯罪に絡んで動くお金の中で、デジタル関連の被害額が膨大に膨れ上がっています。デジタルフォレンジックはデジタルの進化に追随できているのでしょうか。

和泉氏: デジタルフォレンジックは一度技術を確立したからといってずっと使えるものではないんです。対象の機器の仕様が変われば、全てをそれに合わせていく必要があります。大変な手間と資金を要します。

したがって、そこそこの規模感がないとタイムリーに追随していくのは難しい現実があります。そうしたこともあり、分野が細分化していっているというのが、最近の傾向といえるかもしれません。

一方で、デジタルツールを犯罪に利用する側は、最新ツールや機器をいかに自分たちに有利に活用できるかを見極める目が研ぎ澄まされており、厄介です。

いまも首都圏で強盗が続発しています。少しでも抑止につながる方策があれば教えてください。

和泉氏: 実行役がシグナルを使えば捕まりにくいと考えているとすれば、それは違いますよと。それ以前になによりも、簡単に大金を稼げるバイトなどありません。

これだけ頻繁に「闇バイト」の事件が報道され、実行役の逮捕者も続いています。声を大にしていいたいのは、バイト関連で「シグナル」や「テレグラム」の単語が出てきたら、その時点で「怪しい」と感じて、絶対に関わらないようにしてほしいということです。

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