“文字起こしネタバレサイト”で逮捕者…「タダ見」したユーザーが”無関係”とはいえない違法コンテンツの根深い問題【弁護士解説】
KADOKAWAは10月30日、同社らが著作権を有するアニメについて、ストーリー全体の克明な内容を権利者に無断で文字起こしするなどで関連画像と合わせ掲載していたサイトの運営者らが著作権法違反の疑いで逮捕されたことを発表した。「文字起こしサイト」の運営者らが逮捕されたのは初めてという。
さまざまなメディアを通じ、違法アップロード・ダウンロードが犯罪になると広報される中で、違法サイトの運営者らが逮捕されるケースも珍しくなくなっている。それでも今回の様な違法コンテンツのアップロードは後を絶たない。
違法コンテンツが後を絶たない背景
「収益につながる仕組みがあることが一番の要因でしょう。今回のケースはアニメの多くの部分を文字起こししたようですが、そのまま手作業でやるのは非常に労力がかかります。おそらく、AIを活用し、アニメの文字起こしをしたのだと推測されます。そうなれば手間は大幅に軽減されますから、効率もいいと考えたのかもしれません」
犯行の背景をこう推察するのは著作権問題に詳しい前原一輝弁護士だ。デジタル化の浸透で、動画や漫画などのコンテンツの違法アップロードが加速した。AI等のツールによって、より容易にオリジナル“複製”できる環境が醸成されるとなれば、由々しき事態だ。
「これまでにコンテンツを有する企業は違法アップロードに対し、厳しい姿勢を打ち出しています。一方で、ネット上にあふれる違法なコンテンツのコピーをしらみつぶしに訴えていくのは手間とコストを考えても現実的ではありません。
とはいえ、野放しにするわけにもいきません。得るべき収益を不当に奪われるわけですから」(前原弁護士)
過去には、映画を短く編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画の違法アップロードで逮捕者が出ている。今回のKADOKAWAの件と類似する、漫画のセリフや情景をほぼそのまま抜き出した”ネタバレサイト”も大手出版社が訴訟提起し、運営者の逮捕や書類送検 に至っている。
コンテンツ産業に充満する危機感
今回の件に対し、KADOKAWAが表明したコメントには止むことのない違法コンテンツアップロードへの怒りと併せ、業界の一員としての危機感もにじんでいる。
<本件のように適法な引用の範囲を超えて映像作品を文字で書き起こし公開することは、正規版の消費、利用に伴うクリエイターに対する適切な対価還元を阻害し、将来の作品創作環境を悪化させることにつながることから看過することはできません。
今後も不正な行為を行う者から、利用者がコンテンツから享受する楽しみ、およびクリエイターをはじめとする権利者の経済的利益を守るとともに、国際的に評価の高い日本のコンテンツを創出する環境や産業としての競争力を維持・強化し、文化の普及と発展に持続的に貢献してまいります。>(KADOKAWA公式サイトより)
膨大な資金と労力をかけたコンテンツを無断で利用され、不当に利益を吸いあげられ、オリジナル作品を視聴する閲覧者の楽しみまで収奪している。違法であることが「悪」なのは当然として、それに伴い、コンテンツ産業の環境悪化をもたらしていることがなによりの問題なのだ。
“タダ見”に罰則はないが、しっぺ返しはある
前原弁護士が補足する。
「昨今、コンテンツ産業とりわけ出版社などは厳しい環境にあります。そこへ違法ダウンロードによって、本来得るべき利益を奪われるとなれば、死活問題にもなりかねません。違法ダウンロードに対し、厳格な姿勢を打ち出し続けることが抑止力につながることは間違いありません。
一方でサーバーを海外に設置されている場合にはやはり、訴訟を起こすにしても、一筋縄ではいかない側面があることは否めません。
また、罰則が行為の悪質さに比べ、軽いことも気になるところではあります」
違法なコンテンツに対し、大きな需要があることも問題だ。本来は、コンテンツに対する対価を支払って閲覧するべきところを、ネット上では簡単に違法コンテンツにアクセスし、”無料視聴”できてしまう。動画コンテンツの場合は、基本、ストリーミングなら、「セーフ」ともいわれている。
「繰り返しになりますが、ネット上に違法なコンテンツが掲載されるのは、それが収益につながるからです。その意味では、そうしたコンテンツに広告を掲載する代理店やプラットフォーム等も審査を厳格にしていかなければ、今後も違法コンテンツは掲載され続けるでしょう。
また、閲覧者も基本、ダウンロードしなければ罰則はないと気軽に”タダ見”するのではなく、違法コンテンツの視聴が、コンテンツ産業を弱体化させ、ひいては良質なコンテンツを生み出す環境が先細りしていき、自分に跳ね返ってくるということに危機感を持ってほしいと思います」(前原弁護士)
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