子どもの自殺、2年連続500人超の“異常事態”…識者「支援が不足している」
政府は令和6年版「自殺対策白書」を10月29日に公表した。これによると、近年は「こどもの自殺」が増加傾向にあり、特に小中高の児童生徒の自殺者数は2年連続で500人台に上った。
統計を開始して以降、400人を超えたのは4年連続、500人台は初めて2年連続となった。
さらに、同じ時期に発表になった文部科学省の「問題行動・不登校等調査」からは、自殺した小中高生のうち、女子中学生が男子を上回ったことも明らかになった。
女子学生の自殺率増加は「異常事態」
近年、小中高生の自殺者数は特異な現象を示している。2019年度以降、女子学生の自殺者数が、男子学生の自殺者数に迫っていたのだ。そして昨年、ついに中学生女子の自殺者は男子より多い結果になった。
他の年齢では通常、自殺者は男性の方が多く、自殺予防教育に詳しい中央大学客員研究員の高橋聡美氏は「異常事態」と指摘する。
なぜ、このような結果になったのか。
その理由について白書では取り上げられていないが、高橋氏は「女子は自殺未遂も多い」とした上で、「未遂をした子の自殺リスクが上がることは以前から指摘されていました。しかし、学校現場では未遂をした子のケアについて、どうしたらよいのか対処できず、苦慮しています」と話し、自殺リスクが顕在化している子どもと学校に対する支援が不足していると分析した。
こどもの自殺死亡率が上昇した都道府県が公表
また、同白書では今回初めて「都道府県別の5〜19歳の自殺死亡率の推移」が示され、2019~2023年の年間平均自殺者数が「30人以上」の都道府県と、「10人以上30人未満」の府県が公表された。
年間平均自殺者数が「30人以上」の都道府県は福岡県、北海道、千葉県、埼玉県、東京都、愛知県。「10人以上30人未満」の府県は、京都府、栃木県、長野県など7府県。これら13都道府県では、5年間の子どもの自殺死亡率で全国値(約1%)を上回る上昇が見られた。
一方で、大阪府、広島県、三重県、鹿児島県では自殺死亡率が低下したと示された。しかし、実際にグラフを見ると、5年前の数値と比べて低下はしているものの、5年間での変動が激しく、必ずしも減少傾向とは言えない。
また、同白書によっては、2018年から「未成年者の自殺対策の強化」を県の自殺対策推進計画の“重点施策”にするなどいち早く子どもの自殺対策に取り組んでいた長野県でも、子どもの自殺死亡率が下がっていないことが判明した。
もちろん長野県だけでなく、子どもの自殺死亡率上昇の背景・要因の分析や対策が国全体として進んでいないことを統計が示していると言えるだろう。
警察庁統計と文科省調査「差異」のナゾ
そんな中で、国が「こどもの自殺」について白書で大きく取り上げたこと自体は評価できる。一方、白書の基となっている警察庁統計と、文科省の「問題行動・不登校等調査」の差は気になるところだ。
文科省調査は年度ごとの統計であり、警察庁統計は年ごとの統計であるため、元よりズレが生じることは仕方ない。しかし、白書で昨年度の小中高生の自殺者数は513人。一方、文科省調査では397人で、その差は116人にも上る。
なぜ、100人を超える大きな差が生じるのか。
そもそも文科省調査は、学校が認知した自殺を集計する。学校は生徒の自殺を認知した場合、原則として文科省が策定した「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」に基づき、「基本調査」を行い文科省に報告する。
警察庁統計と文科省統計の差が大きいということは、学校による「基本調査」さえ行われていない、ともすれば学校は認知すらしていないこどもの自殺者がいるかもしれないということだ。これでは、実態にあっていない自殺対策が実行されかねない。
原因改善のため実態把握したいが…
自殺対策のための実態把握という意味では、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の調査も重要だ。
「自殺した児童生徒が置かれていた状況」についてはここ数年、自殺の原因を推察できない「不明」数が60%前後で推移していたが、昨年度は46.9%で「不明」数が減った。
分析する上で、重要な成果があったかのように見えるが、それでも「不明」は186人で、先に「基本調査」が行われていない可能性を指摘した警察庁統計との差分を合わせれば300人を超える。
学校現場で、生徒の自殺原因が“事実上”不明である率は依然として高いままだと言えるだろう。
実態に即した統計結果も
ただ、調査が実態に近づいたと感じられる統計結果もある。
もともと夏休み明けは、児童生徒の自殺が増えると言われていたが、8月末から9月初めの自殺者数について、全国と「北海道・東北」を比較したところ、「北海道・東北」では8月20日前後にピークを迎えていた。
全国平均よりも10日ほど早いピークだが、「北海道・東北」地域では夏休みが全国より早く終わるのだ。
ここからもわかる通り、こどもの自殺対策は、地域や学校それぞれの予定を踏まえ、実態を把握し、要因を分析した上で行うことが効果的なのではないだろうか。
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