「配り切れない量の荷物の配達を指示される」 “アマゾン配達員”が行う労働訴訟の第4回期日、会社側は「就業規則」を裁判所に提出せず

弁護士JP編集部

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「配り切れない量の荷物の配達を指示される」 “アマゾン配達員”が行う労働訴訟の第4回期日、会社側は「就業規則」を裁判所に提出せず
原告の荷物配達員ら(11月12日横浜市内/弁護士JP編集部)

11月12日、アマゾンの荷物配達員2名が「配送会社による業務委託契約解除は違法な解雇にあたる」として労働者としての地位確認と未払い賃金を請求している訴訟の第4回期日が行われた(横浜地裁)。

訴訟の概要

本訴訟の被告はアマゾンジャパン合同会社の下請けをしている「株式会社若葉ネットワーク」(横浜市)。なお、同社は2024年4月に「株式会社アイメスト」に商号変更。また、吸収分割の方法によって、アマゾンとの間の配送受託事業を「株式会社Gopal」に承継している。

原告は、若葉ネットワークと業務委託契約を締結していた男性2名。横須賀市内の倉庫を拠点にアマゾンの商品を配達していたが、2023年4月、配達先とのトラブルなどを理由に契約解除を通知された。

原告らは加入している労働組合を通じて会社側に契約解除の撤回を申し入れたが、会社側は「業務委託契約は自由に解除できる」などと主張し申し入れに応じなかったため、2023年12月、提訴に至った。

争点は「労働者性」や「解雇の有効性」、賃金額など

原告側の弁護団は期日の終了後に記者懇談会を開催し、本訴訟や今回の期日の概要を説明した。

菅俊治弁護士や有野優太弁護士によると、本訴訟の争点は下記の6点。

(1)原告らに「労働者性」が認められるか否か(仕事の依頼に対する諾否の自由があったか否か、使用者による指揮監督下にあったか否か、など)

(2) 労働者制が認められた場合、解雇が有効であったか否か

(3) 解雇が無効であった場合、未払い賃金をどれだけ請求できるか

(4)「ブラックフライデー」や年末年始の際、賃金に追加して支払われていたインセンティブも請求できるか

(5)会社側が勝手に行っていたとされる「経費控除」によって引かれた賃金も請求できるか

(6)請求の相手は「アイメスト(旧:若葉ネットワーク)」か「Gopal」か

今回の期日では(2)と(3)、および(6)の問題が扱われた。

通常、就業規則は裁判の初期段階で提出されるが…

(2)の「解雇の有効性」に関しては、通常、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること」が要件となる。

本件では、会社側は「就業規則に定められた『特定の専門技術』を原告らが満たしておらず、今後も改善の見込みがないこと」を理由にした普通解雇であるとして、有効性を主張している。なお、この「特定の専門技術」とは「決められた時間に決められた荷物を運ぶ技術」を意味する。

しかし、会社側は上記の旨を定めた就業規則の「第20条」を証拠として裁判所に提出しているが、裁判所から要望されているにもかかわらず、第19条以前や第21条以降の就業規則を提出していない。

通常、労働事件において就業規則は雇用契約書と合わせて契約関係を示すための基礎的な資料となり、裁判の初期段階ですべて提出されるものだという。

(3)の未払い賃金に関しては、原告らに対してシフトカットが行われたか否かが争われている。

原告側は、原告と会社との間で「最低でも月間17日間は勤務する」という「黙示の合意」が成立していたにも関わらず、勤務日数が16日以下になった(シフトカットが行われた)月があるとして、バックペイを請求している。

(6)の請求先について、原告は、事業承継した「Gopal」は会社としての実体性が疑わしいとして、アイメストへの請求を主張している。

今回の期日では「Gopal」の財務状況について質問が行われたが、被告側は「守秘義務」を理由に回答を拒否した。

次回の期日は12月12日(木)に予定されており、(1)の「労働者性」について扱われるが、非公開。公開の期日は次々回、2025年2月13日(木)に予定されている。

複数の配達員らが労働環境の悪質さを訴える

解雇の有効性に関する会社側の主張は「指定された時間に誤配なく商品を届けられなかったことは、解雇事由にあたる」と要約できる。

一方で、「配達員らはアマゾンが開発したアプリの指示に従わされていた」「そもそも配り切ることが不可能な量の荷物の配達を指示されていた」と弁護士らは指摘する。

若葉ネットワークに対しては、今年5月、配達員ら16人があわせて1億円以上の残業代の支払いを請求する訴訟も提訴されている。

今回の記者懇談会では、原告の男性2名や、原告らと同様に横須賀市内のセンターで勤務している配達員らがコメントを述べた。

「裁判は昨年末から始まっている。残業代請求訴訟も始まったので、先は長いが、めげずにがんばっていきたい」(原告Aさん)

「なんとかがんばって勝てるように、先生たちにお願いしたい」(原告Bさん)

「配達中に足を滑らせて転倒し、頭から流血するケガと片足の肉離れを起こした。現場の救急士の判断によって労災病院に運ばれたにもかかわらず、会社側は労災と認めるのを拒む。

身を粉にしてがんばっても報われない努力、報われない給料。働き方や会社のあり方、配達員に対する配慮を見つめ直してもらいたい」(配達員Cさん)

「アマゾンに限らず、軽貨物配達に関わる会社の大半が、実質は雇用契約であるにもかかわらず、請負契約を偽装していると思う。ネットスーパーやルート配送は、宅配よりも裁量がないため、労働環境はさらに悪質。個人事業主としての労働裁量の自由は、何一つない。

配達員は長時間労働をしており、疲労により休みの日は寝て過ごすしかない状態だが、十分な給料を得られない。搾取が続いている現状を報道してほしい」(配達員Dさん)

20日にドキュメンタリー映画が上映

11月20日、東京都・千代田区の連合会館で、ドキュメンタリー映画『Amazon配達員 送料無料の裏で』(土屋トカチ監督)が上映される。同作は、オンラインでの閲覧も可能になる予定。懇談会では、製作に関わったジャーナリストの浦田誠氏が、同作の内容を紹介した。

「アマゾンに関わる労働組合については、海外では倉庫労働者によるものが主なのに対して、日本では配達員が先に組合を作った点に特徴がある。

世界を広く見ても、『アマゾンフレックス』や『デリバリープロバイダ』などの働かせ方が偽装請負であることは間違いない。どちらの労働者も、アプリによりアルゴリズムの支配下に置かれている。

アメリカではドナルド・トランプ氏が大統領に当選したことにより、これから労働運動は『冬の時代』を迎えてしまう。アメリカの仲間を応援するためにも、日本の労働者も声を上げていることを伝えたい」(浦田氏)

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