“有明のり”生産者への不当な取引拘束「やっていない」…漁業団体が公取委「排除措置命令」の“取消”求め訴訟提起

弁護士JP編集部

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“有明のり”生産者への不当な取引拘束「やっていない」…漁業団体が公取委「排除措置命令」の“取消”求め訴訟提起
会見を開いた平山賢太郎弁護士(中央)ら(11月13日 都内/弁護士JP編集部)

有明のりの出荷を巡り、公正取引委員会(公取委)から独占禁止法に基づく排除措置命令を受けた佐賀県有明海漁業協同組合(佐賀県佐賀市)と熊本県漁業協同組合連合会(熊本県熊本市)が11月7日、命令の取り消しを求める訴訟を提起した。

両漁業団体側の代理人が13日、都内で会見。これまでの経緯や訴訟の争点について語った。

今年5月、公取委が「全量出荷」巡り排除措置命令

公取委は今年5月、熊本県漁業協同組合連合会と佐賀県有明海漁業協同組合が、有明のりの生産者に対し「誓約書」を提出させ、製品であるのりを全て組合に出荷させる「全量出荷」を求めており、それによって生産者の出荷取引を不当に拘束しているとして、排除措置命令を出していた。

これに対し、筑波大学大学院准教授で、公取委案件を数多く取り扱ってきた、漁業団体側代理人の平山賢太郎弁護士は会見で、「のりの全量出荷は義務ではなく、罰則もない。生産者の目から見ても、生産者は自由にのりを販売できる状態であり、拘束はなかった」と団体側の主張を述べた。

公取委幹部が“傍聴席から”不規則発言

処分を巡っては、公取委が2022年6月、両団体への立ち入り検査を実施。

その後、同年の夏ごろ、公取委は団体側への事情聴取の場で「弁護士をつければ金がかかる」「公取委専門の弁護士は日本のどこにもいない」などと説明したという。

平山弁護士は、こうした公取委側の手続きについて、「弁護人の選任を妨害する違法な行為だ」と主張。

「本件ではほかにも、弁護士が団体に対して行った助言のメモについて、公取委に提出するよう報告命令が出されるなど、違法で不当な調査手続きが行われていました。

こうした公取委の手続きについては、すでに訴訟を起こしています。そちらの裁判では、公取委の幹部職員が傍聴席から不規則発言を行い、手続きを混乱させるということがありました。

私はこれまで24年間、弁護士をやっていますが、このような異常な出来事は初めてですし、後日、裁判官が国側代理人である法務局に対し、『今後このようなことがないように』と申し入れを行う事態に発展しています。

こうした公取委側の態度は裁判制度に対する挑戦、冒瀆(ぼうとく)であり許されるものではありません」(平山弁護士)

「拘束・排除の事実なし」と主張

今回新たに提起された取消訴訟で両漁業団体側の代理人側は、排除措置命令の根拠となった「拘束条件付取引」について、その要件を満たしていないと主張する。

「拘束条件付取引には、所定の行為類型にあたるかという『行為要件』と、その行為が市場から他者を排除する等の効果をもたらすおそれがあるかという『効果要件』の2つの要件があります。

本件では漁業団体が生産者に対し、のりを全て出荷するよう求め、生産者を拘束していたというのが『行為要件』にあてはまるとされました。

両漁業団体では、毎年漁期のころに、のりの生産者から誓約書を預かっています。今回公取委が主張しているのは、この誓約書によって全量出荷が強制されていたというものです。

しかし、この誓約書はそもそも、全量出荷の強制を目的としたものではなく、のりの生産に使われる『活性処理剤』という薬剤を、過剰に使用しないことを求めるもので、違反した場合には厳しい制裁を行うことも明記しています。

たしかに、誓約書には生産したのりについて、『全量組合に出荷するよう努めます』といった文言が含まれています。ですが、こうした文言は、全量出荷を明確に拘束・強制するものではなく、罰則も設けられておらず、何らかの制裁が行われたという事実もありません。

そして、『効果要件』では、市場から他者を排除するおそれがあるのかどうかが問われますが、本件の場合は拘束がない以上、他者を排除する効果はないものと考えられます。

また、漁業団体が集めたのりは、入札会を経て商社に渡り、そこから消費者に届けられていますが、漁業団体は入札会の運営を行っているだけです。

さらに、生産者が自ら、のりをふるさと納税の返礼品として出品するなど、堂々と平穏に販売されていることからも、両漁業団体による他者の排除は生じえません」(平山弁護士)

「やっていないことはやっていない」

また、平山弁護士は本件を通じて、両漁業団体の取り組みの正当性を主張していきたいと話す。

「入札会では、のりの厳格な品質検査や、正確な等級付けが行われており、そのことが公正な価格形成につながっています。

また、代金清算や事務作業を漁業団体が行うことで、生産者側がのりの養殖作業に専念できるという側面もあり、こうした正当性は十分に評価されるべきではないでしょうか」

排除措置命令の取消訴訟の第一回期日は未定。

「全量出荷を強制した事実などないのに、公取委は『強制を認めればすぐに調査を終わらせる』などと漁業団体側に迫りました。

しかし『やっていないことはやっていない』のですから、取消訴訟を通じて、裁判所に事実関係を説明し、公正な判断をいただければと思います」(平山弁護士)

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