「キャンセルは“電話一本”のみ、補償もない」 11月施行“フリーランス法”に関する報告会で「クリエイターの実情」が明らかに

弁護士JP編集部

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「キャンセルは“電話一本”のみ、補償もない」 11月施行“フリーランス法”に関する報告会で「クリエイターの実情」が明らかに
「フリーランスリーグ」理事長の西野ゆかり氏(中央)(11月14日都内/弁護士JP編集部)

11月14日、一般社団法人「日本フリーランスリーグ」が、フリーランス法に関する調査研究報告会を都内で開催。フリーランス法の施行に関する発信・提言がなされ、1200人以上が回答したアンケートによる調査結果も発表されたほか、クリエイターたちが日本におけるフリーランスの境遇について語った。

「覚書フォーマット」「フリーランスGメン」を提言

「日本フリーランスリーグ」(以下FLJ)は今年4月1日に発足。「これまでにはなかったフリーランスで働く人の状況を精緻に調査し、正しい実像を世間に届けていく」ことを目標に掲げる。

11月1日から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス法」が施行された。FLJ理事長の西野ゆかり氏は「大きな第一歩。ようやく、フリーランスにとっての『よりどころ』ができた」と評価しながらも、各業界に法律を浸透させ、適切な契約を交わす文化を根付かせる必要があると指摘。

現状、企業などの発注事業者と、受注するフリーランスとの間には力や立場に大きな差があり、対等な関係とは言い難い。FLJは、フリーランス法の浸透を早め、業界構造を改善するために、以下の発信・提言を行った。

ひとつめは「クリエイター発の共有知として覚書フォーマットの無償配布」。クリエイターと発注事業者双方に向けて、必要な契約項目と条件をチェック形式で提示したフォーマットを、2024年に配布する予定。

ふたつめは「悪質な発注主を指導するプッシュ型支援として、フリーランスGメンの創設を求めるオンライン署名を開始」。現状、関係省庁は取り引きなどに関して問題が起こった際に通報を待つという「プル型」の仕組みは拡充しているが、省庁の側から積極的に違反行為を監視する「プッシュ型」の対応には乏しい。

FLJは、総務省が悪質な荷主・元請事業者等の是正指導を行うため2023年7月に「トラック・物流Gメン」(全国360名規模)を発足させたのと同様に、「フリーランスGメン」を創設することを関係省庁に提言した。

FLJ名誉会長で漫画家のやくみつる氏は「フリーランス法が『仏』だとすれば、FLJの活動や今回の提言・発信はフリーランス法に『魂』を入れるためのもの」と表現する。

クリエイターらが希望する契約条件とは

FLJは文化芸能芸術分野のクリエイターを対象に、発注事業者との取り引きにおいてフリーランス側が望む契約条件の基準値を明らかにするための意識調査(アンケート)を実施。報告会では、クリエイター1236人による回答結果が発表された。

アンケート回答者の職種は多い順にイラストレーター(22.8%)、漫画家(16.3%)、映像系スペシャリスト(9.2%)、執筆業(8.8%)など。

「契約書に入れるべきと考える条件」(複数回答)の質問に対する回答では「キャンセルフィー(発注側都合で発生したキャンセル代)」が最多の87%。次いで「著作権・著作隣接権の取り扱いについて」(78.2%)、「著作者人格権について」(69.2%)、「リテイク(作業のやり直し)の上限について」(69.2%)と続いた。

また、韓国では公正取引委員会がフリーランス向けに業種ごとの標準契約書を作成している。これを念頭に、アンケートでは、日本型の標準契約書を作成する際、韓国の標準契約書からフリーランスらが取り入れを希望する項目についても質問(複数回答)。

最多の回答は「二次利用の明確化と書面での合意」(80.2%)で、以下「ハラスメントの明確な禁止」(72.9%)、「著作権の帰属は最終的にフリーランスに戻る」(71.4%)、「仮に著作権の譲渡を行う場合、その対価に総収入の一定割合(ロイヤリティ)を提供」(71.2%)、「孫請け(多重下請け)契約での未払い防止」(70.6%)と続いた。

韓国ではクリエイターを保護することでコンテンツ産業が成長

アンケートの自由回答では、「正当な報酬を得ていない」「発注事業者により値下げを要求される」など、報酬の低さに対する不満が目立った。また、業務内容に不透明さや長時間労働、関係の対等性がなく発注事業者側が高圧的に出る・ハラスメントを行う事態について、多くのクリエイターが問題視している。

そして、フリーランスは現在の生活を維持するため仕事に追われ、生成AIなど技術革新に対応するための余裕を持てない事態も、浮き彫りとなった。

日本と韓国のコンテンツ産業における過去10年間の年平均成長率を比較すると、日本は約0.4%であるのに対し、韓国は約5.5%という。FLJの高田正行氏(紀尾井町戦略研究所コンサルタント)は「韓国はクリエイターの心理的安全性を保つことで生産性を最大化するための環境を15年以上整備してきた」と指摘し、日本でも生産性・国際競争力向上のために更なる取り組みが必要であると語った。

権利を行使すると周囲との軋轢が生まれる現状

一般社団法人「日本ベリーダンス連盟」理事の山本和泉氏は、アンケート結果でも問題視された「キャンセルフィー」について、フリーランス側からの実情を語った。

山本和泉氏(左)と小泉なつみ氏(右)

「イベントへの出演が予定されていても、『集客ができなかった』『客の評価が低かった』などの理由から、電話一本でキャンセルされることがある。キャンセル代などの補償もない。それでも、次から仕事がもらえなくなるおそれがあるために、クレームを入れることもできない」(山本氏)

今年1月、ベリーダンスを題材にした漫画『セクシー田中さん』の作者であった芦原妃名子さんが死去した。山本氏は「芦原さんは著作者人格権について深く理解しており、その権利を行使したからこそ、周囲との軋轢(あつれき)が生じていた」と指摘。

「このような痛ましいことが、またあってはならない。法律は、全員が守らなければ効果を発揮しない」(山本氏)

「フリーランスは生活を人質に取られている」

イラストレーターの小池アミイゴ氏は「自身も周囲のイラストレーターも、自分たちが『労働』を行っていることに無自覚になりがちだ」と語る。

「周囲から『好きなことを仕事にできていいですね』と言われるが、社会から切り離されているように感じて不安を抱くこともある。フリーランス法ができたのはありがたい」(小池氏)

一般社団法人「日本音楽著作権協会(JASRAC)」の理事も務める、ミュージシャンのエンドウ.氏は「音楽業界は非常に前時代的」と指摘。

「楽曲を発注されたので、リテイクを経て複数パターンを作った末にリリースできる状態の曲を作ってもキャンセルされてお蔵入り、ということはよくある。クライアント側の圧倒的な地位の優越により、望まぬ契約をさせられる問題が残っている」(エンドウ.氏)

エンドウ.氏

フリーライターの小泉なつみ氏は、ライター業は先輩ライターとの「師弟関係」や担当編集者との「一対一の関係」という閉塞(へいそく)的な環境に取り囲まれているため、ハラスメントなどの問題が発生しやすい、と述べた。

「フリーランスは目の前の生活を人質に取られている状態。たとえば編集者に対して疑問や不満を抱いても、なかなか口に出せない」(小泉氏)

また、現状、日本のフリーランスは契約や取り引きに関する法務作業や確定申告に代表されるような経理作業を自分自身で担う必要がある。小泉氏は、多くのフリーランスが法務や経理に追われて創造性・生産性が下がっているために、韓国のような法律が日本でも必要にされていると指摘しする。

FLJの専務理事と日本俳優連合の代表理事・副理事長を務める清水道洋氏は「アンケートを通じて、多くの俳優たちが最低賃金を下回る状態で働いていることが明らかになった」と語った。

「外国では作品がソフト化するなど二次利用された際にも俳優に支払いが行われるが、日本では出演料の一回きり。その出演料の金額も、どんどん下がってきている」(清水氏)

ハリウッドでは労働組合が活性化

日本では労働組合は「企業別」が一般的であり、欧米で一般的な「産業別」または「職種別」の組合は少ない。

西野氏によると、フリーランスのクリエイターらでも、「労働組合」という言葉に抵抗感を抱く人は多い。しかし、2023年7月に「全米映画俳優組合」が43年ぶりのストライキを実施、同月に全米脚本家組合もストライキを実施したことなど、昨年からハリウッドで組合運動が盛んになっている風潮を受け、日本のクリエイターも労働組合の必要性を理解するようになってきたという。

日本では珍しい職種別組合の「日本音楽家ユニオン」代表理事運営員とFLJの専務理事を兼任する、音楽家の土屋学氏は「組合に加入していない音楽家に仕事が流れていく事態などもあったが、事業者側との話し合いを続けて、労働者の権利を守ってきた」と、自身の活動を振り返った。

「FLJが労働組合に発展するかどうかはまだわからないが、これからも、フリーランスの権利を守るための活動をできるだけ続けていきたい」(土屋氏)

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