北海道・恵庭市遠藤牧場訴訟「自分たちで買い物もできなかった」原告のひとりが初出廷 今後は協議のうえ本人が陳述の可能性も

小林 英介

小林 英介

北海道・恵庭市遠藤牧場訴訟「自分たちで買い物もできなかった」原告のひとりが初出廷 今後は協議のうえ本人が陳述の可能性も
裁判に出廷した佐藤さん(仮名、写真左から4人目 11月18日札幌市内/小林英介)

北海道恵庭市にある牧場「遠藤牧場」で働いていた障害者3人が、「障害者年金を搾取され、牧場主が元市議会議長だったことから市は搾取の事実を隠ぺいした」などとして市と牧場側を訴えている裁判。その第6回口頭弁論が11月18日、札幌地裁であった。

原告のひとりが初めて出廷、裁判見守る

これまでの裁判では、市側が牧場主でもあった故・遠藤昭雄氏(元恵庭市議会議員、元市議会議長)らは「『職親』ではないため使用者にはあたらない。いわば『里親』だ」などと主張。虐待を疑う通報についても「また聞きであって、原告のひとりに凍傷があったというのもうわさ話だ」などと一貫して虐待の隠ぺいを否定している。

今回の弁論では初めて原告のひとり、佐藤さん(仮名)が当事者として出廷。被告側の主張に対して反論を行った。

弁論では、原告側弁護団の中島哲弁護士が「仮に牧場主側が使用者ではなく養護者だったとしても、市側には牧場での虐待、またはその疑いを認識しながら何もしなかった」などと陳述。

また、障害者虐待防止法に定められている虐待通報に触れ、「通報があった場合、安全や事実確認などをするかしないかではなく、絶対に行うと規定している。しかし、市はそれを行わずに対応を協議することもしなかった。『虐待案件として扱うのであれば、このケースには関わってもらわず恵庭市単独で扱っていく』と、積極的に虐待の隠ぺいを図った」と指摘した。

「市側の認識は、数十年単位で時代遅れだ」

そして中島弁護士は、市側は遠藤牧場関係者をいわば「里親」としているが、もしそれがあり得るのなら「原告らは遠藤家の子どもとして他の子どもたちと同様、母屋で生活し、同じ食事を食べ、同じようにお風呂に入り、お小遣いをもらい、独り立ちの支援を受けるのが当然。しかし、原告らは最低限の住居や食事のみ与えられ、労働をしなければ追い出されてしまうとの黙示の脅迫や精神不自由を不当に拘束する手段のもと、ひどい環境での労働を強制させられた」と主張。

さらに、「まっとうな職親のもとで生活し、数年後には通常の雇用契約に移行することもできたと考えられる。それを美談仕立てにする恵庭市の行為は極めて罪深い。こういった主張を堂々と裁判で主張する恵庭市の認識は、数十年単位で時代遅れなものだと言わざるを得ない」と批判した。

自由なき生活...「ディズニーランドに行きたい」

弁論の終了後に開かれた報告集会。弁護団とともに、出廷した佐藤さんも同席した。佐藤さんは2001年から22年末までの約20年間にわたり、牧場の仕事に従事していた。

佐藤さんは「(出廷は)緊張した。(牧場側から)『悪いことをされた』と知ってほしかった。初めの頃は顔を出したいとは考えていなかったが、裁判が続く中で激励の言葉をかけられることもあり、皆の前に出る決意をした。(これまでの裁判はすべて傍聴席から見ていたが)何とも言えない感情になった」と話し、「自分たちで買い物もできなかった。自由がなかったことが一番つらかった。被告側は正直に話してほしい」と心情を明らかにした。

続いて中島弁護士は、裁判が始まってから1年となり「『弁護士だから正義を振りかざしている』などの意見も見かけないわけではなかった。でも、実際は本人が『自分から伝えたい』と言い出してこのように面前に出ている。これはとてもありがたいことで、1年を通じてさまざまな方と対話する中で、本人がそう考えた。そこに対して感激しているし、これからも一緒に頑張っていければ」と振り返った。

なお佐藤さんは、記者からの質疑応答で裁判に勝ったら何をしたいかを聞かれた際、「東京ディズニーランドに行きたい」と答えていたのが印象的だった。

次回の裁判期日は、来年2月21日となった。記者団の取材に中島弁護士は「本人と協議のうえ、(可能であれば)佐藤さんや近隣の方で協力していただける方のほか、事業所、市に近い人の陳述ができれば」との考えを明らかにした。仮定の話だが、佐藤さんが自らの思いを述べる日も近いかもしれない。

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