楳図かずおさん「まことちゃんハウス」でも注目…独身者の遺産相続、誰に? 起きやすい“トラブル”と“2つの回避術”とは
漫画家の楳図かずおさんが10月28日に亡くなった。88歳だった。
追悼の声が多く聞かれる中、生前の功績とともに改めて注目されたのは、東京・吉祥寺にある「まことちゃんハウス」。楳図さんのトレードマークだった赤白ストライプのTシャツと同じ柄の外壁を持つ建物だが、その奇抜さゆえに、外壁の撤去や景観利益の侵害による損害賠償請求などをめぐって、近隣住民らに裁判を起こされたこともある(東京地裁は2009年1月28日、近隣住民らの請求を棄却し、判決が確定した)。
楳図さんの訃報に触れて、当時大きな話題となったこの裁判を懐かしむ声のほか、まことちゃんハウスの“今後”を心配する声も多く見受けられた。法律上、配偶者や子どもがいれば双方が相続人となるが、楳図さんは独身。この場合、誰が相続することになるのだろうか。
近年増加の「空き家問題」背景に法定相続人の“不存在”?
「独身で子どもがいない場合、法定相続人は両親(一方が亡くなっている場合は存命の一方)、両親が亡くなっていれば祖父母(同)、祖父母がいずれも亡くなっている場合は兄弟姉妹が引き受けることになります」
こう説明するのは、遺産相続に詳しい安達里美弁護士。
楳図さんのように高齢の場合、両親や祖父母はすでに亡くなっており、兄弟姉妹が相続人となる可能性は高い。なお、楳図さんには弟がいるとの情報もある。
内閣府が公表した「令和6年版高齢社会白書」によれば、65歳以上のひとり暮らし高齢者は男女とも増加傾向にあり、それぞれの人口に占める割合は2020年時点で男性15.0%、女性22.1%。2050年には男性26.1%、女性29.3%になると見込まれている。
もし法定相続人がおらず、遺言もなかった場合、被相続人の財産はどのように扱われるのか。
「単純化して言えば、裁判所が特別縁故者と認めた方がいればその方に分与されますし、特別縁故者がいない、または裁判所に特別縁故者と認められた方がいない場合は、国庫帰属になります」(安達弁護士)
ただし、そもそも特別縁故者や、そのほか被相続人の遺産に利害関係のある人がいなければ、誰もこれらの手続きを進めないまま、財産が長年放置されてしまうことが多いという。近年問題となっている空き家問題も、「原因の一部はここにある」と安達弁護士は指摘する。
兄弟姉妹による相続「トラブルに発展しやすい」
前述のように、ひとり暮らしの高齢者は今後も増加し続けていくと見られている。高齢であればあるほど、両親や祖父母といった「直系尊属」が亡くなっている可能性は高く、配偶者や子どもがいなければ、存命の兄弟姉妹が法定相続人となるケースも多くなっていくだろう。安達弁護士によると、このような場合「トラブルに発展しやすい」そうだ。
「兄弟姉妹が全員存命なケース、被相続人が死亡する前にすでに兄弟姉妹の全員または一部が亡くなっていて、その子(被相続人から見ると甥・姪)が相続人となっているケース(代襲相続という)のどちらにおいても、トラブルが起こりがちです。
特に、普段の被相続人との関わり度合いに差があると、財産を平等に分配することに対して『不公平だ』と感じる人が出てきます。実務経験上、『相続人らに被相続人と親戚付き合いがあったのか、あったとして相続人間で同程度であったのか』などが不満の遠因になることが多いように思います」
トラブル回避のためにやるべきこと
死後にトラブルを残さないよう、やっておけることのひとつとして、安達弁護士はまず「遺言の作成」を挙げる。
「たとえば、独身、子なし、兄弟姉妹なし、父母も祖父母もすでに他界という境遇であっても、『自分より若い従弟(いとこ)が普段から病院に付き添ってくれるなど兄弟同然の付き合いをしている』といったケースは少なくありません。
この場合、被相続人(になる予定の人)と従弟の双方で『死後の後始末も遺産も従弟に託すね。よろしく』『自分が遺産を引き継ぎ、葬儀やお墓の手配、そのほか死後のいろいろな事務手続きの対応、その後の供養も含めてやっていくつもりだよ』と話していたとしても、法律上、従弟は相続人ではありません。
『従弟に全財産を遺贈する』と遺言していればそれで解決するはずが、遺言がない場合、従弟はいわば“部外者”となってしまいます。被相続人の生前の意思に合致していても、死後のさまざまな手続きがスムーズにいかないことが多くあるでしょう」
遺言がない中、従弟に財産を正式に引き継いでもらうには、裁判所に「特別縁故者」と認めてもらうための手続きをしなければならないが、時間もお金もかかる上、確実に財産を渡せるかも不透明だという。
「また、『推定相続人として甥姪が合計4人いるが、そのうちの姪1人が子ども同然に世話してくれており、被相続人(になる予定の人)も姪1人だけに財産を渡したいと思っている』ということもあるかと思います。
しかし、これも遺言がなければ甥姪4人で平等に分けなくてはいけません。その結果、世話をしていた姪に不満が生じやすく、争いになるケースが多く見られます」
遺言を作成しておけば血族関係にない人にも自分の財産を渡すことができるため、誰に何を残すのか、自分の意思をしっかり示しておくことは非常に重要だ。安達弁護士は、「この場合、公証役場で作成する『公正証書遺言』が一番いいでしょう」とアドバイスする。
死後のことを頼れる人が誰もいない場合は…
もし、死後のいろいろな手続きを頼める人が誰もいない場合には、親族や知人に限らず、弁護士などの第三者に事務処理を任せられる「死後事務委任契約」を締結しておくことも有効だという。
「契約の内容として『自宅の後片付け』などを含めることも可能であり、うまく利用すればとても有効な制度だと思います。
たとえば、『推し活グッズは大事にしてくれる人に引き取ってほしいので、廉価でいいので捨てずにメルカリに出品してほしい』といったことを依頼するのもありです。
ただ、誰に委任するのかは慎重に検討すべきですし、れっきとした『契約』ですので、トラブルを避けるためにも公正証書にしておくことをおすすめします。
遺産相続は、自身が人生をかけて築き上げた財産のゆくえを決めるだけに、人によってニーズも違うと思います。専門家に相談しながら、元気なうちに自分にとって一番いい選択をしておくことが大切なのではないでしょうか」
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