火野正平さん、“本妻”と“内縁の妻”…昭和のプレイボーイの相続はどうなる?

弁護士JP編集部

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火野正平さん、“本妻”と“内縁の妻”…昭和のプレイボーイの相続はどうなる?
モテ男の代名詞だった火野さん。旅人として多くの視聴者からも愛された(所属事務所「シーズ・マネージメント」HPより)

俳優の火野正平さんが、11月20日、75歳で亡くなった。

近年は相棒の自転車「チャリオ」とともに全国各地をめぐる旅番組『にっぽん縦断 こころ旅』(NHKBS)が人気を集めていた火野さんだが、若いころは多くの浮名を流し、“昭和のプレイボーイ”と呼ばれた。

火野さんの半生記『火野正平 若くなるには、時間がかかる』(講談社)によれば、プライベートでは一般女性と1971年に結婚。その女性と離婚しないまま、1982年からは別の一般女性と事実婚状態にあったという。

つまり、火野さんには“本妻”と、未入籍の“内縁の妻”がいた。本妻との間には息子と娘が、内縁の妻にも火野さんが認知している2人の娘がいるという。

複雑な家族関係だが、遺産相続はどのように行われるのだろうか。

火野さんの遺産はどう相続される?

男女問題・遺産相続の対応を多く手掛ける安達里美弁護士はこう説明する。

「被相続人(亡くなった方)に配偶者がいる場合は必ず相続人となります。そのため、まず戸籍上の妻は相続人です。

配偶者に加え、子が存在する場合は子も相続人になります。その際の法定相続分は配偶者が2分の1、残りの2分の1を子が均等に分けますので、子が4人であれば8分の1ずつ分割します。

一方で、事実婚の相手方には相続権はありません。

また、生前、被相続人が所有し、事実婚の相手方と居住していた自宅についても、事実婚の相手方には相続権がありません。被相続人としてそのような事態を避けたいと思うのであれば、当該自宅は事実婚の相手方に遺贈すると遺言しておく必要があります。

なお、この例では、被相続人が存命のうちに自宅を事実婚の相手方へ生前贈与するという手段もありますが、贈与税が高額であることや、時期によっては戸籍上の配偶者の遺留分(相続人の最低限の取り分)の対象となるため、あまり有効な手段とはいえません」

火野さんは、生前ハワイでの散骨を希望していたという。自分の死後について家族で話し合う機会を持っていたのであれば、遺言が用意されていた可能性も十分にあるだろう。

遺言があれば、その内容が尊重され、記載された通りに遺産分割がなされる。しかし、「遺言がある=トラブルゼロが確定するわけではありません」と安達弁護士は注意を呼びかける。

遺言があってもトラブルになるケース

「相続人の間で相続割合についての争いがない場合でも、被相続人の遺産に不動産や株式などの現金(預貯金)ではないものが含まれている際は、『誰がどの遺産を取得するのか』で調整が難航することはままあります。

また、遺言があっても、特定の相続人が持つ『遺留分』が立ちはだかることもあるでしょう。つまり、遺言に沿って分割した結果、誰かの取り分が遺留分に満たなければ、その相続人は他の相続人らに対して『足りない分を補填(ほてん)して』と請求する権利(遺留分侵害額請求権)があります」(安達弁護士)

それでも遺言は“うまく”作成しておけば、残された家族の争いを防止する手段となり得る。

「火野さんほどのプレイボーイはなかなかおられないと思いますが、家族関係が複雑でトラブルが予想される方こそ、専門家に相談するなどして遺言を作成しておくべきだと思います」(安達弁護士)

遺言は「決めてしまうこと」が重要

遺産相続は、火野さんのような複雑な家族関係でなくとも、多くの人にとって無関係ではない。

「最終的には、自分が自分の人生で積み上げた財産(遺産)を誰にどう分けるかは、遺留分の問題を除けば本人の自由です」(安達弁護士)

遺言の内容によっては、相続人がショックを受けることもあるだろう。しかし、「それが被相続人の選んだ『自分の財産の最後の使い道』なので、遺留分の点を除いては受け入れるしかないのです」と安達弁護士。

「極端な例ではありますが、『身内に相続させずにすべてを寄付する』という遺言を残される方も、それなりの割合で存在します。

どんな内容にするにせよ、ご自身が亡くなった後、残された人の苦労が少なくなるよう、遺言は中途半端ではなく、しっかり作成して『決めてしまう』ことが何より大切です。そして、紛争性を低くするためには『公正証書遺言』として作成することをおすすめします」

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