知られざる貧困家庭の“103万円の壁” NPO法人が「子どもの受験費用支援」や「所得要件の見直し」を国・自治体に要望

弁護士JP編集部

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知られざる貧困家庭の“103万円の壁” NPO法人が「子どもの受験費用支援」や「所得要件の見直し」を国・自治体に要望
会見を開いた渡辺氏(左)、田中氏(12月3日都内/弁護士JPニュース編集部)

12月3日、NPO法人「キッズドア」の理事長らが、困窮(こんきゅう)子育て世代を対象にしたアンケート結果の報告と政府・自治体への要望、ならびに食料・学習支援のためのクラウドファンディングについて発表する記者会見を開いた。

困窮家庭の保護者1160名を対象に実施

「キッズドア」は、日本国内の子ども支援に特化した認定NPO法人。会見を開いたのは理事長の渡辺由美子氏と、執行役員の田中博子氏だ。

2020年から、キッズドアは経済的な問題で苦しむ「困窮子育て家庭」の保護者を対象に物資・情報・就労支援を提供する「ファミリーサポート」を実施している。

今回の会見では、10月29日から11月9日にかけて「ファミリーサポート」登録世帯を対象に実施された、困窮子育て家庭が抱える課題や求める支援、子どもの大学受験に関する保護者の意識などを把握するためのアンケート調査(回答数は1160件)の結果を報告。また、同アンケート結果に基づく「困窮家庭の子どもの進路を閉ざさない社会の実現に向けた要望」も発表された。

収入を上げると支援から外れる…「住民税非課税要件」の見直しを要望

第一の要望は「困窮子育て家庭支援施策における、住民税非課税要件の見直しを!103万円の壁・住民税非課税の上限引き上げで、支援からの排除をなくしてください」。

現行の困窮支援施策や児童扶養手当などでは、受給に関して「住民税が非課税であること」などの所得・収入に関する要件が定められている。そのため、保護者の収入がわずかでも受給基準を上回ると要件に抵触し、支援を受けられなくなる事態が生じている。

アンケートでは、収入を上げようとすると支援から外れてしまい、結果的に困窮が続く状況に苦しむ保護者の声が多数見受けられた。また、最低賃金が上がったことや、やむを得ず残業したことが原因で受給基準をわずかに上回ってしまう事例も多くあるという。

「総所得を上げても、増税と社会保険料の増額で手取り額が増えない。児童扶養手当も減額され、一生懸命働いても報われない世の中。所得制限額から、支援を受けられないことが多い。非課税世帯ばかり支援があり、ギリギリ中間層のひとり親も生活困窮していることをわかってもらいたい」(アンケートより)

渡辺氏は所得税が非課税となる上限の「103万円」や住民税非課税の上限について見直すことを国や自治体に要望。また、保護者が勤勉に働く困窮子育て家庭も必要な支援を受けられるよう、子育て家庭については「住民税が非課税であること」を要件としないように訴えた。

子どもの受験費用を捻出するために借金する保護者も

第二の要望は「貧困の連鎖を断ち切るために困窮家庭の子どもへの大学等受験への公的な支援を!特定扶養控除の年収要件引き上げや、高等教育の修学支援制度の要件緩和も」。

アンケート結果によると、半数以上の保護者が大学などの受験費用(塾・予備校などの費用も含む)の見積もりを「100万円以上」と回答。一方で、世帯所得が200万円を下回る回答者も半数以上だった。約6割の回答者は、受験費用を準備するために、家族や知人、または銀行やクレジットカード、消費者金融から借り入れを行うことを検討している。

さらに、75%の保護者が「受験や進路に関して子どもが家計の状況を気にしていることが精神的に負担である」と回答した。困窮が原因で子どもを塾や予備校に通わせられない家庭、受験料を抑えるために受験校数を絞る家庭、進学先が自宅から通える範囲の学校や国公立の学校に限定される家庭、受験や進学のために子どもがアルバイトをする家庭、子どもが進学をあきらめて就職を選ぶ家庭も多々あった。

渡辺氏は、高等教育に関しては授業料・入学金の免除または減額や給付型奨学金といった「進学後の支援制度」に比べて、受験段階での支援が不足していると指摘。

家庭の経済状況に関係なくすべての子どもが安心して大学受験などに挑戦できるようにするため、受験への公的支援を拡大することを、国や自治体に要望した。

コロナ禍「特例貸付」の返済は、現在でも大きな負担に

第三の要望は「コロナ禍における特例貸付(緊急小口資金等)全ての子育て家庭の返済免除の実現」。

アンケート回答者の約2割は、2020年以降のコロナ禍の際に「緊急小口資金」や「総合支援資金」などの公的な貸し付け制度を利用した。

利用者のうち、約4割は80万円以上を借り入れた。また、8割以上は「住民税が非課税であること」などの要件により返済免除となっている一方、免除とならなかった家庭では返済が家計の大きな負担になっている。

渡辺氏は、特例貸付を利用した子育て世帯はそもそも貯蓄などがなく、日々の生活費にも困っていると指摘して、子育て家庭は全件返済免除とするように要望した。

受験生を持つ家庭など対象にした食料支援を実施

キッズドアは11月12日から12月27日にかけて「冬休み 緊急食料支援」を実施するためのクラウドファンディングを行っている。目標金額は2000万円、3日時点での寄付総額は約720万円。

支援の内訳は、困窮度の高い状態にある「進学を控える学年の子どもを持つ世帯(現:入学前・小6・中3・高3)」を主な対象とした食料支援、⼩学⽣〜⾼校⽣世代の子どもたちを対象とした完全無料の学習会、および乳児のいる世帯を対象にした粉ミルクの提供。

とくに受験を控えた子どもがいる困窮世帯では、十分な栄養のある食事を取れないために日々の勉強や試験当日にも影響が生じ、進学面での不利が生じているという。

渡辺氏は「困窮子育て世帯は本当に苦しい状況に置かれている。アンケートでは『生きているのをつらいと感じている』『死を考えている』と回答した保護者たちもいた」と訴え、寄付を呼びかけた。

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