「国は明らかな差別と深刻な不条理を放置」戦争被害者4団体“残された戦後処理”の立法解決訴え集会 石破茂首相に要請書
アジア太平洋戦争の開戦から今月8日で83年が経過し、来年には戦争終結80年を迎える。
そうした中、戦争被害者4団体は3日、都内で集会を開き、“残された戦後処理”の立法解決を訴えた。
「戦後処理は終わった」国の姿勢へ疑問
4団体は同日付で、石破茂首相への要請書を提出。
民間の戦争被害者や、外国籍の元BC級戦犯などへの補償を行わないまま、「戦後処理は終わった」とする国の姿勢に対し、「深い疑問と失望を禁じ得ない。明らかな差別と深刻な不条理が放置されている」と批判した。
名古屋では独自の見舞金給付を実現
集会に参加した4団体のうち、戦時中の空襲などによる、民間戦争被害者の人権回復を求める「全国空襲被害者連絡協議会(空襲連)」からは、被害者へ一時金を支給するための立法作業に関する報告が行われた。
空襲連の運営委員長を務める黒岩哲彦弁護士は「内容についてはもっと議論をしたいが、とにかく法案成立を目指したい」として、次のようにコメントした。
「法律の内容は、空襲などにより心身に障害や傷を受けた人に対し、生存者に限って一時金50万円を支給するとともに、空襲被害の実態調査や、平和を祈念する事業を実施するというものです。
すでに名古屋市では、河村たかし衆院議員が市長を務めていた時に、独自の見舞金の給付を実現しており、この制度が法律案の下書きになっています。
これまで、国会内では、空襲被害者をどのように認定するのかについて、議論が続いていました。名古屋市の制度では、市の職員や医師、そして空襲を研究している歴史の先生が加わることで、物的証拠や承認がなくても、空襲被害者本人の話が歴史的に正当であれば、事実認定するという仕組みになっています。
河村議員からは『名古屋市でできて、国でできないわけがない』『この法律を通すためなら全力をあげる』との言葉をいただいています。そのような面でも、名古屋市の例は参考になるのではないでしょうか。
この法律は予算を必要とするものですので、内閣の賛成が必要です。議連の平沢勝栄会長は、自民党の総裁選で石破首相を応援した理由について、首相が『空襲被害者支援をやる』と約束したことをあげています。首相も二枚舌ではないと思いますので、この約束をぜひ果たしてほしいです」
「受忍論の壁に少しでも風穴を」
同じく空襲連で、東京大空襲の犠牲者遺族の河合節子さんは「私たちにとって、戦争はまだ終結していない」と述べた。
「国が起こした戦争によって、民間人が被害を受けたことは明らかな事実です。
戦争の被害は国民が等しく負うべきであるという『受忍論』とよばれる考え方がありますが、実際には軍人・軍属には遺族年金や恩給が支払われていますから、民間人被害者との間では天と地ほどの差があります。
法律案の内容は十分ではないと思いますが、私たちの命も、もうわずかしか残されていません。
受忍論の壁に少しでも風穴を開け、空襲の実態調査を行い、後世に伝えることができれば、戦災孤児や遺族の心も救われるのではないでしょうか」(河合さん)
外国籍元BC級戦犯遺族らも法整備訴える
この日はほかにも、沖縄、南洋諸島、フィリピンでの戦闘による民間人被害の救済を訴える「民間戦争被害の補償を実現する沖縄県民の会」や、外国籍の元BC級戦犯やその遺族による「韓国・朝鮮人元BC級戦犯者『同進会』&『同進会』を応援する会」、 「シベリア抑留者支援・記録センター」が参加。
県民の会の顧問弁護士・瑞慶山茂氏は沖縄戦、南洋戦・フィリピン戦被害の国家賠償訴訟で弁護団長を務めた経験から、次のように訴えた。
「判決では旧日本軍による不法行為の事実等が認められたものの、補償については退けられました。
これを踏まえると、この問題を解決するためにはやはり、国会での議員立法が必要だと考えます。ただ、空襲連や議連で検討している法律案では、救済の対象となる被害が限定的であり、沖縄戦による民間被害者に対する救済が十分ではありません。
ぜひ、禍根を残さないためにも、よりよい法案にしていくよう検討していただきたい」
また、朝鮮半島出身の父が旧BC級戦犯だったという同心会の畠谷吉秋副会長は「なんとか立法による解決を実現してほしい」と訴える。
「父の仲間の多くはすでに亡くなってしまい、子どもの世代は、この問題を親から聞かされていない人も少なくありません。
それでも、このまま終わるのではなく、法案を通すことで親世代の名誉を回復してもらいたい」(畠谷副会長)
「日本人として恥ずかしく無責任」
あと半年で100歳になるという、シベリア抑留経験者の西倉勝さんは「シベリア抑留の正確な実態調査」と「台湾・韓国出身元抑留者への補償の早急な実施」を訴えた。
「シベリア抑留では、戦後60万人以上がソ連とモンゴルに拉致され、約1割が現地で亡くなりました。帰国できた50万人以上もほとんど亡くなり、存命中の体験者は全体の0.5%以下となっています。
6万人の犠牲者は、戦死者ではなく、飢えや寒さ、病気、労災で亡くなった人であり、本当は救えたはずの命でした。
国にはせめて、死亡者名簿の確定や遺骨収集など、実態調査を進めていただきたいです。
また、抑留された人の中には台湾や朝鮮半島の人もいました。彼らは当時日本人だったのにもかかわらず、戦後、日本政府からの補償を受けられていません。
こうした不条理、不作為の状態が続いているというのは日本人として恥ずかしく、無責任です。早期の立法措置や、シベリア特措法の改正によって解決してほしいと思います」(西倉さん)
戦争終結から80年が経とうとしている今、先の大戦で被害を受けた人に残された時間は限られているのが現実だ。実態調査により後世に戦争を伝承するとともに、見過ごされてきた課題を解決するためにも、国会での早急かつ丁寧な議論が期待される。
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