休憩中も仕事が立て込み…飲食店店長が「未払い賃金」求めて提訴 ランチタイム、ディナータイムの間は“労働時間”にあたる?
店長 vs 社長
お好み焼き店で【店長が全然休憩できなかった事件】が起きた。
この店では、ランチタイムが終わった後、ディナータイムまで3時間閉店していたが、その間も店長はバタバタと働いていたのである。
店長が未払い賃金を求めて提訴したところ、裁判所は会社に対して「約2000万円を払え」、さらに“お仕置き”(付加金)として「約1400万円払え」とも命じている。(東京地裁 R3.3.4)
以下、事件の詳細だ。
事件の経緯
■ 当事者
会社は、広島風お好み焼き店の経営などを行っており、店長のXさんは正社員である。
■ 当初は関係が良好だった
社長(以下「Y社長」)がXさんの高校の先輩だったこともあり、入社当初は両者の関係は良好だった。
入社前、Y社長から「一緒にお好み焼き屋をやらないか?」と誘われたXさん。「現在、月給30万円です」と伝えたところ、Y社長が「月給35万円支払う」と言ったため、転職を決意した。
働き始めて約3年後には月給45万円となり、50万円になった時期もあった。
■ 関係が悪化か?
・長時間労働
飲食店の店長アルアルだ。月給の高さと比例するように、労働時間はカナリ長かった。たとえば、新店オープンの際には9時から22時まで働くことが多く、お店の中国進出に伴い出張した際には、9時から23時ころまで働くこともあった。
・休憩時間も働いていた
今回、問題となったのはコレだ。裁判でXさんは「社長の怒りを買わないように、本当は休憩をとっていなくても報告書には休憩時間を記載していた」と主張している。
Xさんはこの働き方に限界を感じたのであろう。約5年間働いたのち退職。高校の先輩でもあったY社長と裁判バトルに突入することになる。
■ 休憩できなかった
冒頭で述べたとおり、その店では、ランチタイムとディナータイムの間に3時間(14〜17時)の閉店時間があったのだが、店を閉じている間もXさんはバタバタと働いていた。このときXさんがしていた仕事は、主に以下のとおり。
・ディナーの仕込み
・配送される食材の受け取り
・不足食材の買い出し
・予約の受け付け
・電話対応
・シフト表の作成
・業者との打ち合わせ
・上記に加えて、月1回、全正社員が集められたミーティングが行われることもあった
涙ぐましいことに、店長が昼食をとるのは店のバックヤードだ。しかも電話の横に張り付きながら、着信があれば対応すべき状況に置かれていた。全然心が休まらない...。
裁判所の判断
Xさんの勝訴だ。
裁判所は、「ランチタイムとディナータイムの間の時間(14〜17時)も、Xさんが業務にあたっており、業務以外の理由で店舗を離れることができなかった。なのでこの時間は会社の指揮命令下にあったといえ労働時間にあたる」と判断した。
■ 社長の反論
Y社長は「14〜17時の3時間のうち2時間30分は休憩できた」旨反論したが、裁判所は「実際にいろんな仕事をしている、会社はXさんが仕事から離れられるような対策を講じていない、Xさん自身『社長の怒りを買わないように、本当は休憩をとっていなくても報告書には休憩時間を記載していた』と主張していることからすれば、報告書の記載に基づいて休憩時間を認定することは相当ではない」と一蹴している。
約2000万円もの請求が認められたのは、長時間労働、すなわちXさんが勤務実績報告書に記載した労働時間がおおむね認められたからである。
■ マメ知識
会社の指揮命令下にあれば労働時間になる。たとえタイムカードのようなものに「休憩時間」と書かれていようが、実際に会社の指揮命令下にあるならば、それはまぎれもない「労働時間」だ。
休憩時間のほかにも昨今、「着替え時間や手洗いの時間について賃金が支払われていない」として、従業員が声をあげるケースが増えている。
(参考)
スシローのアルバイト学生「未払い賃金」を要求… “着替え”の準備は「労働時間」に入るのか?
IKEA従業員「着替え時間」も賃金支給へ 厚労省「労働時間」と明記も“未払い”放置されてきたワケ
これらのトラブルも裁判所に持ち込まれれば、「会社の指揮命令下にあったのかどうか」が審理される。
■ その他のバトル
詳細は割愛するが、会社は「Xさんは管理監督者だった、弊社は固定残業代を採用している、変形労働制を採用しているのでXさんが主張するような残業代は発生しない」旨主張したが、すべて裁判所からはじかれている。
管理監督者と認定されれば残業代はもらえないのだが(労働基準法41条)飲食店の店長レベルで管理監督者と認定されることは、ほぼない。すなわち残業代はもらえる。
(参考)
“管理職”には「残業代を払わない」… 納得できず会社を訴え “912万円”ゲットの内訳
月100時間超の残業も「管理監督者だから」賃金なし… 退職後、裁判で「1500万円」回収した元課長の逆転劇
■ 付加金
ちなみに、裁判所は約2000万円に加えて約1400万円の支払いも命じている。いわば“お仕置き”であり、法律用語では「付加金」という(労働基準法114条)。今回、裁判所は以下の事情を考慮している。
・未払い賃金額が元本だけで1900万円もある
・Xさんは管理監督者ではない
・固定残業代の主張も認められない
・法違反の態様は悪質...etc
最後に
今回のような事件は、氷山の一角のさらに先端の鋭利部分だろう。飲食店の店長の中には、アルバイトを休憩に入らせた後も自らは休憩なしで働き、退勤のタイムカードを押した後に残務処理をしている人も少なくない。全国の店長のみなさま、どうか、身体と心が壊れる前に労働組合や弁護士に相談してください...。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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