ピコ太郎を提訴!? アップル社が「ペンパイナッポーアッポーペン」に異議申し立てを行ったワケ

弁護士JP編集部

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ピコ太郎を提訴!? アップル社が「ペンパイナッポーアッポーペン」に異議申し立てを行ったワケ
ピコ太郎にかみついていたアップルのクレーム内容がなんとも低次元?(PIKOTAROピコ太郎OFFICIAL CHANNELより)

あのマーク見たことある、あの名前知っている。企業が自社の商品やサービスを、他社のものと識別・区別するためのマークやネーミング。それらは「商標」と呼ばれ、特許庁に商標登録すれば、その保護にお墨付きをもらうことができる。

しかし、たとえ商標登録されていても、実は常に有効な権利とはなり得ない。そもそも商標登録には、いついかなる場面でもそのマークやネーミング自体を独占できる効果はない。

このように商標制度には誤解が多く、それを逆手にとって、過剰な権利主張をする者も後を絶たない。商標権の中には「エセ商標権」も紛れているケースがあり、それを知らないと理不尽なクレームをつけられても反撃できずに泣き寝入りするリスクがあるのだ。

「エセ商標権事件簿」(友利昴著)は、こうした商標にまつわる紛争の中でも、とくに”トンデモ”な事件を集めた一冊だ。

第1回では、大ブレイクしたピコ太郎に降りかかった、世界的メガ企業につけられたまさかの”言いがかり”、「ペンパイナッポーアッポーペン事件」を取り上げる。(全8回)

※ この記事は友利昴氏の書籍『エセ商標権事件簿』(パブリブ)より一部抜粋・再構成しています。

りんごのみならず、世界中のりんごは俺のもの!

カリフォルニアのある法律事務所が、「Find a Trademark Bully」 (商標いじめの犯人を捜せ:https://register.trademarkia.com/opposition/opposition-brand.aspx:)というサイトを運営している。米国で、他人の商標出願に異議申立をしかけた権利者のランキングを発表しているのだ。

異議申立制度自体は、便乗ブランドを排除するために必要な制度だが、件数があまりに多過ぎれば「商標いじめ」の可能性があるというわけだ。そのランキングによれば、歴代いじめ件数の第2位に君臨するのが、テック・ジャイアンツの雄、アップルである(表1)。

アップルが特に腐心しているのは、「アップル」という商標の独占だ。日本の子どもでも、最初に覚える英単語はpenかappleかのどちらかといったところで、このうえなく平易でありふれた単語だ。

アップルが各国で異議申立をした商標(左:EU、右上:イタリア、右下:米国)

「アップル」が電子機器やウェブサービスにおいて有名ブランドなのは誰もが認めるだろうが、それでも、ありふれた果物の名前の独占に固執し過ぎれば、商標いじめともいわれよう。何せ、近年その対象はりんごに留まらず、洋梨風のロゴマークや、「PINEAPPLE」(パイナップル)、「BANANA PAY」(バナナ・ペイ)にまで及んでいるからである。果物全部オマエのものか!? 

あの大ヒット曲はアップルのテーマ曲だとカン違いされてけしからん!?

日本においても、アップルは「商標いじめっ子」の称号に恥じない事件を起こしている。レコード会社のエイベックスが商標登録した「ペンパイナッポーアッポーペン」に対し、「アップルの商品だと誤解される」「アップルに便乗する意図で採用されている」などと主張して、異議申立を行ったのだ。

「ペンパイナッポーアッポーペン」といえば、2016年に世界を席巻した、ご存じピコ太郎の楽曲名。曲にのせて、ピコ太郎がりんごとパイナップルをペンで刺すジェスチャーでダンスする映像がYouTubeで公開されると、ジャスティン・ビーバーがこれをフックアップしたことをきっかけに大ヒット。再生回数は5五億回以上、2016年の新語・流行語大賞トップテン入り、レコード大賞や有線大賞でも特別賞などを受賞し、一大ムーブメントとなった。

最近でも、東京都「Sushi Tech Tokyo」、ネスレ「キットカット」、星野リゾート「ネコマウンテン」、サントリー「ジムビーム アップル」(いずれも2024年)など、各種CMや広報動画に引っぱりだこの人気曲だ。

しかし、のべ5億人以上のリスナーのうち、これまでこの曲をアップルのテーマソングと勘違いしたり、アップルに便乗してけしからんと思った人が世界にどれほどいるだろうか。

「ペンパイナッポーアッポーペン」の元ネタはApple Pencil!?

「いるわけないだろ!」と素朴に思うが、アップルの主張を聞こう。アップルによれば、引っかかったのは後半の「アッポーペン」の部分らしい。この部分が、アップルの周知著名なブランド名である「アップル」や「Apple Pay」「Apple Pencil」と混同されるというのだ。

さらに、ピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」が発表される一年前にApple Pencilが発売されているという時系列に着目し、同曲の作詞の着想はこの「Apple Pencil」であり、アップルの商品をもじることで笑いのネタにしたと指摘している。

あまつさえ、「アップル」が「コミックソングの歌詞の一部」に使用されることにより、商標のイメージが毀損されると主張したのである。

特許庁はアップルの主張を一蹴

どう考えてもムリヤリ過ぎるこじつけだ。ここまでくると、アップル社は、アップルの本来の意味である「りんご」を忘れており、アップルと名の付くものはすべて同社のブランドの影響を受けていると思い込んでいるのではないかと疑ってしまう。

そのうち、聖書のアダムとイヴを描いた宗教画にも「当社のブランドを禁断の果実扱いしている」とクレームをつけ、パン屋に怒鳴り込んで「『アップルパイ』は『Apple Pay』から着想された便乗商品だ」などと言い出すかもしれない。

この異議申立は、特許庁によって全面的に退けられた。ピコ太郎の楽曲「ペンパイナッポーアッポーペン」がよく知られていることを踏まえれば、人々は、そこから「アッポー」ないし「アッポーペン」部分のみを単独で抜き出して意識することもないし、あまつさえ、それらを「アップル」ブランドや、「ApplePay」「ApplePencil」と混同することはないと判断されている。

またアップル社に便乗する意図があった証拠も見いだせないと一蹴されている。当然の判断といえよう。

Siriが歌ってくれた「ペンパイナッポーアッポーペン」の替え歌

ところで、アップルの販売するiPhoneなどに搭載されている人工知能ソフトのSiriに「ペンパイナッポーアッポーペン」と話しかけると、何度かに一回の割合で、「I have a Suica. I have an iPhone. Mmm...Apple Pay!」などと、替え歌を歌ってくれた(上図)。なんと、便乗だと主張した「ペンパイナッポーアッポーペン」に、自分は堂々と便乗しているのである。理解に苦しむ身勝手さといえよう。

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

エセ商標権事件簿:商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ

友利 昴(著)
パブリブ

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