被差別部落の「地名公表」差し止め判決確定まで8年…「立法的解決」による人権救済を原告・弁護団が訴え
被差別部落の地名リストを書籍として販売しようとし、インターネット上に同書籍のデータなどを掲載した出版社に対し、部落解放同盟らがデータ削除・書籍の出版差し止め、損害賠償を求めていた裁判で、12月4日、最高裁判所第三小法廷は原告側と出版社側の双方の上告を棄却。被告に削除・差止めと総額約550万円の損害賠償請求を命じた東京高裁判決が確定した。
原告側は10日に都内で会見。これまでの裁判の経緯を説明するとともに、司法制度による人権救済の限界と、今後の法整備の必要性を訴えた。
高裁判決「差別されない権利」の侵害認める
被告の出版社(神奈川県川崎市)は2016年2月、被差別部落の地名などが記載されていた戦前の資料を、復刻版として出版することを予告。同社はインターネット上でも部落解放同盟関係者の名前や住所を公開しており、同年4月に名前が公開されるなどした249人が訴訟を起こしていた。
一審・東京地裁判決と二審・東京高裁判決はいずれも出版社側による権利侵害を認め、賠償金についても認めるという結果ではあったものの、2つの判決には差がある。
2021年9月の東京地裁判決では、プライバシー権の侵害が、原告側に生じた被害の中心であると判断。損害賠償の支払いなどを命じたものの、原告側が求めていた、憲法13条、14条に由来する「差別されない権利」の侵害は認められなかった。
一方、2023年6月の東京高裁判決では「差別されない権利」の侵害を認め、賠償金額も地裁判決より増額。最高裁では原告側・出版社側双方の上告が棄却されており、高裁判決が確定した。
弁護団の河村健夫弁護士は一連の判決について、会見で次のように評価した。
「高裁判決は、部落差別の現状や、ネット上の部落差別の特質について詳細に分析したうえで、的確な判断が行われたという点で非常に見識の高い判決だと思う。
また、今回、双方の上告が棄却されたことで、最高裁としても東京高裁の判決を是としたということになります。
『差別されない権利』を人格権の内容として認める初の司法判断が最高裁でも是認されたという点において、高く評価したいと思います」
差止範囲については「厳しい批判」も
ただ、原告団・弁護団は他方で、判決に対する「厳しい批判」も行った。
出版社側の地名リストには41都府県の情報が記載されていたのに対し、地裁判決では差止の範囲を25都府県にとどめ、高裁判決では31都府県に拡大。
しかし残りの10県について、高裁はリストの出版は違法と判断しつつ、「原告がいない」ことを理由に差し止めの範囲から除外しており、原告団・弁護団は10日付の声明で「全国一律の出版差止を認めるべきであった」と改めて強調した。
弁護団「立法的解決が何よりも必要」
この日、会見に出席した部落解放同盟の赤井隆史書記長は「ネット上、SNS上での権利侵害が横行している」と指摘したうえで、本件判決の価値について、次のように述べた。
「本件は最高裁で判決が確定するまで、8年もかかりました。
今回は部落解放同盟で250人近い人数でまとまって裁判を起こしましたが、不当な権利侵害にあった人が、個人個人で8年間も裁判で争うのは相当無理があるのではないでしょうか。
そういう意味では『差別されない権利』を認め、守るための法律が必要だと思います。
情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が今年5月に成立し、来年の4月あたりから施行されるという話もあります。
同法に関する総務省のガイドライン案では、私生活の平穏をきたす投稿については、削除の対象になることが記されており、その説明の中で本件の高裁判決がそのまま引用されました。
今回の判決や、こうした動きを足掛かりに、なんとか国会の場で立法のための議論を進めてほしいです」(赤井書記長)
また、弁護団の指宿昭一弁護士も、立法による救済が必要だと訴えた。
「本訴訟では、被差別部落出身者が『自らの情報を明かされたくない』という理由で裁判を起こしているのに、裁判を起こせば、逆に原告の情報が世に出てしまうという矛盾を抱えていました。
また、今回、私自身は2、3年で裁判を終わらせるつもりでいたのですが、8年もかかってしまいました。全国の原告の方から、『日々被害をうけているのに、なぜ何年もかかるんだ』という言葉をかけられることがあり、とてもつらかったのを覚えています。
最高裁まで進んだことを踏まえても、8年かかったというのはそれだけ難しい裁判であったことを表すとともに、『今の司法制度ではどうしても時間を要してしまう』ことも浮き彫りになりました。やはり、立法的解決が何よりも必要ではないでしょうか」
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