「インテル、入ってる」を”無断使用”と多くの企業へクレームも…インテル社の”苦しすぎる主張”の中身

弁護士JP編集部

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「インテル、入ってる」を”無断使用”と多くの企業へクレームも…インテル社の”苦しすぎる主張”の中身
【図1】皆さんのパソコンにも貼ってあるかも。「インテル・インサイド」ロゴ

あのマーク見たことある、あの名前知っている。企業が自社の商品やサービスを、他社のものと識別・区別するためのマークやネーミング。それらは「商標」と呼ばれ、特許庁に商標登録すれば、その保護にお墨付きをもらうことができる。

しかし、たとえ商標登録されていても、実は常に有効な権利とはなり得ない。そもそも商標登録には、いついかなる場面でもそのマークやネーミング自体を独占できる効果はない。

このように商標制度には誤解が多く、それを逆手にとって、過剰な権利主張をする者も後を絶たない。商標権の中には「エセ商標権」も紛れているケースがあり、それを知らないと理不尽にも見えるクレームをつけられても反撃できずに泣き寝入りするリスクがあるのだ。

「エセ商標権事件簿」(友利昴著)は、こうした商標にまつわる紛争の中でも、とくに“トンデモ”な事件を集めた一冊だ。

第4回では、世界的半導体企業「インテル社」が多方面にクレームをつけた「インテル、入ってる」の“無断使用”事件を取り上げる。(全8回)

※ この記事は友利昴氏の書籍『エセ商標権事件簿』(パブリブ)より一部抜粋・再構成しています。

パソコンの部品メーカーの名前は、いかにして有名になったか

「ムダな努力」。その言葉の意味を強く実感させてくれる事件である。皆さんも、「Intel inside」と書かれた図1のようなロゴマークを、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。半導体メーカーのインテル社が製造するマイクロプロセッサが搭載されているパソコンにはこのシールが貼られている。パソコンのCMでも、メーカーを問わずエンドカットにこのロゴが表示されることが多い。

日本では「インテル、入ってる」とも表現されるこの「インテル・インサイド」は、「このパソコンにはインテルの製品が入っていますよ」ということを端的に伝えるメッセージなのである。この広告戦略のおかげで、「インテル」のブランド認知度はかなり高い。パソコンの部品メーカーの名前など、普通の一般消費者は誰も知らないことを考えると、驚異的なことだ。

どういうわけか「インサイド」の「無断」使用にキレまくる

ブランド認知度が高ければ、「インテル」にあやかろうとする不届きな輩もいるだろうが、これに対するインテル社の対抗策は興味深いものだった。なんと、「インサイド(inside)」という言葉を使うさまざまな事業者に対し、「インテルへの便乗行為で、誤認混同を招き、国際信義と公序良俗に反する」などというクレームを乱発しているのだ。そ、そっち!? 「インサイド」の方? 「インテル」の無断使用を取り締まれよ!

いや、おそらく「インテル」の無断使用も取り締まっているのだろうが、そんな露骨な便乗犯よりも、何の悪気もなく「インサイド」を採用する善良なメーカーの方がよっぽど多いので、「インサイドを使えるのはオレだけだ!」というムチャクチャなクレームの方が圧倒的に目立つのだ。

インテル社の主張の中身とは?

「インサイド」の語を含む商標を登録して、インテルから異議申立を受けた事業者は数多い。KDDI、シャープ、パナソニック電工、安川電機、スパイシーソフトなど、インテルと業界が近しい電子機器メーカーやテック系企業が多いが、花王の「ビューティインサイド」や、ワコールの「BODY SCIENCE INSIDE」など、まったく競合しない分野の大手企業まで、多岐にわたってターゲットにされている。

インテル社の言い分を聞こう。簡単にいえば「○○○インサイド」という「表現形式」は、インテル社の商品を示すブランドとして広く認識されているため、他社が同様の形式を使用すれば、「インテル社の商標が連想され、インテル社の商品であると誤認されるおそれがある」ということである。

これは苦しすぎる主張だ。「インサイド」は「内部、中に」という副詞でしかないし、「インテル・インサイド」の「インサイド」自体、まさにその副詞のニュアンスで使用されているものだ。そうである以上、「インテル・インサイド」のシールを何億枚貼ろうが、CMを何千万回放送しようが、そこからは「インテルが中に入っている」というメッセージしか受け取れないし、「中に入っている」の方をブランドだと思えるはずがない。

まるで「札束を束ねていた輪ゴムを盗まれました! 札束? それは無事です! でも、輪ゴムが!!」などと大騒ぎしているバカ富豪である。どうだっていいだろそっちは。高性能を謳うマイクロプロセッサのくせに、つくづく、ムダなことにリソースを使っていると思う。

背景は、単なるアイデアへの独占欲か

おそらく、インテル社の本音としては、真に「○○○インサイド」をブランドとして独占したいというより、「○○○インサイド」という形式のキャッチフレーズによって、「○○○」の認知度を高めるというアイデアを他社に使われるのが悔しいだけだろう。

実際、異議対象とされた商標のうち、例えばKDDIの「KDDI Module Inside」、安川電機の「GaN-Tech INSIDE」、MUJINの「MUJIN Inside」などは、電子機器などにおいて「自社の部品やテクノロジーが搭載されている」ことを示すためのロゴだ。これらは確かに、「インテル・インサイド」をヒントにした手法ではあるだろう。

左からKDDI、MUJIN、安川電機の商標。いずれもインテルからの異議申立を退けた。

自分の顧客に嫌われないのか心配だ

しかし、だからといって、これらのロゴを見たエンドユーザーが、「インテルが入っているんだな」「インテル社の商品かな」などと勘違いする可能性は皆無である。だって「インテル」って書いてないんだもの。そうである以上、インテル社にはなんの不利益ももたらさないし、もちろん法的にも正当である。当然、異議申立もことごとく退けられている。

それにしても、インテル社は、パソコンを何千台、何万台と購入しているであろう大企業を含め、こんなにも全方位に対してワケの分からないケンカを仕掛けて大丈夫なのだろうか? こんなことばっかりやっているから、近年はAMDやNVIDIAなどの競合に押されているのだ。このような姿勢をこれからも続けるならば、ますます「なんて失礼な会社だ!これからはインテル入ってないパソコンを調達しろ!」なんて話が加速するばかりだろう。

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

エセ商標権事件簿:商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ

友利 昴(著)
パブリブ

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