「総額30億円」女性に貢いだ“紀州のドン・ファン”が死後に遺した2つの“訴訟”
「紀州のドン・ファン」として知られた和歌山県の資産家・野崎幸助氏。その突然の死をめぐっては殺人の疑いももたれ、元妻の裁判が行われたが、12月12日和歌山地裁は無罪判決を言い渡した。本記事では、外から見えるドン・ファンと元妻の華やかな結婚生活の裏で何が起きていたのか、野崎家の元家政婦が回想する。
最終回は、野崎氏の死が残した2つの「法廷争い」に迫る(全5回)。
※ この記事は「紀州のドン・ファン」の家政婦・木下純代氏による著作『家政婦は見た! 紀州のドン・ファンと妻と7人のパパ活女子』(双葉社、2021年)より一部抜粋・構成。
ドン・ファンが残した遺言書 遺産をめぐる骨肉の争い
お酒や梅干しの販売業、不動産事業、金貸しなど多彩なビジネスを展開していたドン・ファンは、総額50億円とも言われる莫大な資産を作りました。当然、気になるのはその遺産の行方です。
ドン・ファンが亡くなったあと、手書きの「遺書」が見つかりました。短い一文ですので、ここで全文をご紹介しましょう。
〈いごん
個人の全財産を田辺市にキフする
アンカーアプリコの清算をたのム
平成25年2月8日
野崎幸助 ××××殿〉
この遺言書は、ドン・ファンの知人が預かっていました。「アンカー」と「アプリコ」というのは、いずれもドン・ファンが経営していた会社の名前です。
報道によると、2019年9月に田辺市は、約13億5000万円にのぼるとされる遺産を、寄付として受け入れる方針を明らかにしています。とはいえ、妻であるサエちゃん(仮名)は、このうち半額を相続できる権利があります。
一方、ドン・ファンの遺族は「この遺言書は無効だ」と裁判所に申し立てており、莫大な財産の行方はまだ決まっていません。
私がドン・ファンから聞いたところによると、彼は7人兄弟の子だくさん一家で、三男として生まれました。上の兄弟とは、ほとんど絶縁状態だと言います。
「ワシはあいつらから、ものすごくいじめられて……、さんざん嫌な思いをしてきた。あいつらだけは、絶対許さん。あいつらには一銭もやりたくない!」
あくまで、ドン・ファンの言い分ですし、彼の言い分ばかりをすべて信じるわけにはいきませんが、忌々しい様子で、いつも親族の悪口を言っていました。仲が悪い親族に財産を相続するくらいなら、慣れ親しんだ田辺市に財産をドーン!と寄付し、田辺に骨を埋めようと思ったのだと理解しています。
もちろん、遺言書の真偽をめぐるこうした争いは、家政婦である私には一切関係のない話ですが……。ドン・ファンが残した遺産の行方については、裁判所の判断を冷静に待ちたいものです。
※編集部注
2024年6月21日、和歌山地方裁判所は遺言書を有効とする判決を言い渡したが、親族側は7月3日、判決を不服として大阪高裁に控訴した。
ドン・ファンの若妻のその後
紀州のドン・ファンが急死したのは、2018年5月24日のことです。それから3年以上にわたって、死の真相をめぐって洪水のような報道がなされてきました。
急死から約3年が経過した2021年4月28日、事態は大きく動きます。この日、サエちゃんが殺人と覚醒剤取締法違反(使用)の容疑で和歌山県警に逮捕されたのです。5月19日には、和歌山地検に起訴されました。
〈捜査関係者によると、県警が●●●●容疑者(※原文は実名)のスマートフォンの通信記録を調べたところ、事件前に覚醒剤について調べた形跡があったという。県警は●●容疑者(※原文は実名)が覚醒剤を入手したことを確認したといい、インターネットを通じて密売人とみられる人物と接触して購入したとみて、入手ルートの裏付けを進めている。〉(2021年4月29日付、朝日新聞)
今でも、ドン・ファンが突然死した日、何があったのか? 私にはうかがい知ることはできません――。この原稿を執筆している2021年12月現在、サエちゃんは容疑を全面否認し、黙秘を貫いているようです。
その日、私が外出した午後3時から7時までの密室の中で、サエちゃんとドン・ファンの間でどんなやり取りがあったのか? 最後の晩餐が、なぜキュウリやニンジンだったのか……。裁判を通じて、今後、真実が明らかになっていくのではないでしょうか。
4000人斬りを成し遂げ、女の子に総額30億円をつぎこんだ紀州のドン・ファンは、誰も予期せぬ形で波瀾万丈の生涯を終えました。
その死の真相は何だったのか? 最後の最後までドン・ファンに仕えきった家政婦として、今はただただ裁判の行方を見守ることしか私にはできません。
※編集部注
2024年12月12日和歌山地裁は、裁判員裁判の結果、元妻に無罪判決を言い渡した。判決では、元妻には殺害を「疑わせる事情」があったと認めたが、殺害したとするには「合理的な疑いが残る」と結論付けた。同月24日、和歌山地検は判決を不服として大阪高裁に控訴した。
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