年末年始の「炊き出し」にも“物価高騰”の影響… 生活困窮者・路上生活者と「支援団体」それぞれが直面している“現実”とは
年末年始を家族や友人と共に楽しく過ごす人も多いだろう。
この時期には多くの公的機関が閉庁(休業)する。生活保護やホームレス自立支援センター利用のための窓口となる福祉事務所なども閉庁するため、生活困窮者(こんきゅうしゃ)や路上生活者は公的な相談先を利用できない状況になる。
例年、年末年始には全国各地で民間団体が炊き出しや生活場所の提供などを行い、生活困窮者・路上生活者を支えている。だが、昨今の物価高騰は、困っている人々の生活やそれを支えるための活動にも影響を及ぼしている。
都内では都庁前・池袋などで支援活動を実施
東京都内では認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」や特定非営利活動法人「TENOHASHI」などの団体が、年末年始にも支援活動を行う。
「もやい」は、新型コロナウイルスが流行した2020年以降、週2回の相談活動を続けている。火曜日に新宿区内の事務所で11時から17時まで、土曜日には新宿都庁前で14時から14時45分まで相談を受け付けており、都庁前では食料品の配布も行っている(14時から配布、無くなり次第終了)。
年末年始も、土曜日である12月28日や1月4日には、通常通り食料品の配布と相談会が開催される予定。
加えて、12月30日(月)と1月2日(木)には「もやい」ホームページ上のチャットサービスから相談を受け付けて、必要に応じて現地に赴く「駆けつけ支援」を実施する。受付時間は15時から21時まで。
「TENOHASHI」は2003年の結成以来、月2回の炊き出し(第2・第4土曜日)、週1回の夜回り・おにぎり配りなどを通じ、路上生活者や生活困窮者への支援や生活・医療相談などを実施し続けてきた。
そして、年末年始に例年行われている「池袋越年越冬活動」が、今年も開催される。場所は豊島区立東池袋中央公園。日付は12月28日(土)、12月31日(火)、1月2日(木)。17時から生活相談・医療相談を実施し、18時までに列に並んだ人に弁当を配布する。
また、1月1日(水)の 21時30分から、池袋駅周辺の路上生活者を訪ね、支援情報の提供と相談、おにぎり・パンの配布を行う「夜回り」を実施。さらに、1月4日(土曜日) の10時30分からは、東池袋中央公園で衣類や日用品、雑貨を配布する予定だ。
都内では上記の2団体のほかにも「年越し大人食堂2025」(新宿区西早稲田)などの取り組みが行われる。また、都外の全国各地でも、例年、年末年始にはNPO法人などによる炊き出しや支援活動が行われている。
物価高騰により「ギリギリ」で生活していた人々が転落している
2022年以降、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う小麦・石油価格の世界的な高騰や、円安などが原因で物価が上がり続けている。
物価高騰は、生活困窮者や路上生活者を直撃している。「もやい」事務局長の加藤歩さんによると、食料配布に並ぶ人の数はコロナ禍の頃よりも大幅に増えているという。
「2020年には100人ほどであったのに比べて、最近では多い日には800を超える人が並びます。
すべての人の背景を把握しているわけではありませんが、2020~2021年には住まいのない人が多く並んでいたのに対して、最近では、家賃や水道光熱費を支払うために食費を切り詰める必要があって、食料を受け取りにくる人が多いよう思われます」(加藤さん)
これまで家賃などは払い続けていたが貯金はできない「ギリギリ」の生活を過ごしてきた人々が、物価高騰によって日々の生活費をまかなうことができなくなり、困窮状態や路上生活の状態に陥っているという。
また、「TENOHASHI」相談員の幸田良佑さんも「物価高騰による不安から、少しでも生活費を抑えようと炊き出しを利用される方が増えていると考えています」と語った。
そして、物価高騰は支援団体の活動にも影響を及ぼす。「TENOHASHI」では、配布する弁当を従来の金額で調達することが難しくなったという。また、「もやい」も光熱費の値上がりにより、出費が増えている。
「小規模な支援団体の場合、活動を継続できないほどの影響が出ていると思われます」(加藤さん)
生活保護費の引き上げ500円は「スズメの涙」
生活保護や年金で暮らしている人々にとっても、物価高騰の影響は大きい。
12月17日には政府が生活保護費を1人当たり月500円程度増額する方針であることが報道されたが、この報道を受けて「いのちのとりで裁判全国アクション」や一般社団法人「つくろい東京ファンド」を含む複数の団体が合同で緊急声明「500円(0.7%)ではスズメの涙だ!ケチ臭いことはやめて、13%以上の大幅な生活扶助基準の引き上げを!」を発表した。
「例えば、都市部の単身高齢者の月額生活扶助費7万2000円なら、必要な引き上げ額は月9400円以上である。しかし、月500円だと引き上げ率はわずか0.7%。これではスズメの涙であり、余りに少なすぎる。
同様に物価高に苦しむ諸外国は2022年、2023年と大幅に生活保護基準を引き上げている。2年続けて12%ずつ引き上げたドイツ、同様に9%ずつ引き上げたスウェーデン、7%、14%と引き上げた韓国と比べても、わずか0.7%の引き上げ率とは、日本は、どこまでケチ臭い国に成り下がるのだろうか」(声明から)
幸田さんは、年末年始の閉庁期間には困窮者や路上生活者の宿泊場所を「TENOHASHI」のような民間支援団体が費用を持ち出しながら提供している現状がある、と指摘。「福祉事務所を臨時開所するなどして、年末年始の空白期間を埋める努力を行政には強くお願いしたいところです」と語る。
また、加藤さんは「制度をすぐに変えることは難しいが…」と前置きしたうえで、日々の生活に苦しんでいる人々にとって現在は「待ったなし」の状況だと表現する。
「家賃や光熱費を払う必要がある人々にとっては、食料支援だけでは追いつきません。行政による、緊急的な現金給付が必要だと考えます」(加藤さん)
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
“生きづらさ”抱え被害者意識が増幅、女性を「敵」と見なし攻撃する事態も…「弱者男性」が“闇落ち”せずに苦悩を訴える方法とは
2024年12月25日 09:58
-
「生活保護世帯の子」も“大学”へ行けて「バイト」もできる…近年充実した「公的サポート」の中身とは【行政書士解説】
2024年12月22日 09:28
-
DV男から逃げた19歳女性、“所持金数百円”で「生活保護」申請も… 社会復帰への「一歩」を踏み出すまでに味わった「困難」とは【行政書士解説】
2024年12月15日 08:58