特殊詐欺「来年も増え続ける」2024年の被害額は1059億円超…弁護士が指摘する“注意すべき新手口”の兆候とは

弁護士JP編集部

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特殊詐欺「来年も増え続ける」2024年の被害額は1059億円超…弁護士が指摘する“注意すべき新手口”の兆候とは
50代以上が餌食となったSNS型投資詐欺の被害は700億円を超えた(buritora / PIXTA)

2024年はSNSの偽広告からアプローチし、金銭をだまし取る「SNS型投資詐欺」が猛威を振るった。警察庁が12月に発表した同詐欺による被害額は747億7000万円となり、前年同期比で557億3000万円増、一気に3倍以上に膨れ上がった。SNS型ロマンス詐欺と合わせた特殊詐欺全体の被害額は1059億1000万円にものぼっている。

ホリエモンこと堀江貴文氏や実業家の前澤友作氏ら著名人をかたる広告につられ、詐欺被害に遭ったとする報道が4、5月にかけ、連日行われた。その手口はSNS内で同氏らの投資教室と銘打った内容の広告からLINEに誘導し、AIで生成したと思われる同氏らの音声で勧誘。信じ込ませたうえで、金銭をだまし取るというもの。

被害額「1億円以上」が79人も…なぜだまされる?

警察庁の最新の発表データによると、被害額は全体のうち5000万円以上1億円以下が222人、1億円以上が79人にのぼり、詐欺事案でも一人当たりの騙し取られた被害額が大きいことが特徴的だった。

詐欺被害額は年々大きくなっている(警察庁HPより)

第三者的にみれば、その手口には怪しさが充満する。なぜこれほどの人がだまされてしまったのか。詐欺事案で豊富な実績のある佐久間大地弁護士は次のように解説する。

「原因として考えられるのは次の3つです。

(1)幅広い世代へのSNSの普及、たとえば、昔は女の子が踊っているだけだったTikTokアプリが、今では、男女問わず50代以上の方にも普及しています。このことはTikTokのインサイト数値でわかります。

(2)世代問わず全体的に投資への関心の高まりもあります。NISA等の普及や、将来への不安から備えていかねばならない=投資という認識が強まった1年でした。

(3)物価の露骨な高騰、すなわち身近な商品の値段がどんどん上がっています。この点も将来への不安感を増大させ、冷静な判断能力を失わせた理由だと思われます」

シニア層の被害の割合が高い傾向は続いている(警察庁HPより)

被害者の年齢層の約70%が50代以上だったことを踏まえ、景気低迷による先行きの不安が、投資へ目を向けさせる中で、SNSの浸透という環境面の変化も加わり、だまされやすい素地が整っていたということだ。

被害回避のために

一方で、連日の報道で、世の中にある程度の警戒心も浸透した。それでもだまされる人が後を絶たないなか、特殊詐欺の被害に遭わないためにどんなことに注意していればいいのか。

「これは今年だけに言えることではないですが、詐欺師は手を替え品を変え、詐欺商材もどんどん変えて世の中に訴求します。時代が動いていく昨今、警戒心を持ち続ける必要があることは言うまでもありませんが、リアルにこだわるという視点が重要かもしれません。

全てがネットで完結できてしまう世の中にあって、自身の大事な財産を変動させる、簡単にいえば大金を払うシチュエーションの場合は必ずリアルに『会う』ことがまず重要かと思います。マルチや地面師等、リアルでも危険なものはありますが、全てを対処しようとしても対処しきれないので、まずはリアルに着目してみるというのはいいかもしれません」

誰にも会わずに大金を動かすことも容易になっているネット社会。だからこそ、特に金額が大きければ、そこに強い警戒心を持って、念のため電話で連絡してみる、会ってみるなど、当たり前のひと手間を惜しまないことが肝要になる。

2025年に注意すべき詐欺の兆候

もっとも、SNS型の投資詐欺への警戒心が強まる中で、新たな手口もまん延の兆候をみせているという。佐久間弁護士が続ける。

「最近増えつつあるのは、いわゆるタスクをこなせばお金がもらえるといったタスク詐欺です。これは会ったこともない人間の口座にお金を振り込むという点は特殊詐欺と共通ですが、副業に着目した点という意味では、若干投資とは異なるので新しい手口なのではないかと思います。回復可能性は銀行振込なので乏しいですし、タスクの内容を変えればさまざまなタスク詐欺ができてしまうので注意ですね。

次に、お金の支払い方では、暗号資産等で支払わせる、アップルカードのIDを抜き取る等の詐欺も増えています。昔からあるにはあったのですが、警察による規制が厳しくなる中、詐欺師側も考え、あとに残らない方法、追跡しにくい方向でお金を払わせるようになってきました。巧妙化しすぎており、非常に厄介だなと思います。

このように、予兆はありますので、来年も継続して詐欺の件数は増え続けるのではないかと予想しています」

弁護士からみた2024年の詐欺

消費者詐欺の解決に特化する形で、弁護士として単にトラブル解決を図るだけでなく、自らもSNSなどを駆使して、広くアンテナを張り、情報収集も行う佐久間弁護士。そんな立場からみた2024年はどのような1年だったのか。

「一歩進んだ年というイメージです。闇バイトやロマンス詐欺の影響が大きく、警察が少しずつ動き出したように思います。警察庁が各管轄の警察署宛てに特殊詐欺の検挙件数をあげるように伝えたという報道にも接し、警察内部も対応しようとする姿勢は見えてきました。

もっとも、まだまだ、副業詐欺は存在し、警察が追いつけていない部分も多くあります。こんなに治安の良い日本でも、警察はマンパワーの問題をよく言ってくるのが不思議です。採用難は警察も同じだとは思いますが…。

ただし、動き始めただけで、きちんと詐欺を減らせているわけではないので、2025年は結果が求められる年といって良いのではないでしょうか」

前半はSNS型投資詐欺の猛威が目についたが、後半にかけ、闇バイトの脅威が目立った2024年。両者がリンクしているという話もあり、悪人はどんな状況でもうごめき続け、わずかなスキも逃すまいと暗躍している。

「自分だけは騙されない」。今年は平穏だったとしても、2025年、被害に遭わないために少なくとも、そうした過信は捨て去り、常に警戒を怠らない。

世知辛い世の中だが、何事も自分事と考え、慎重に行動する。気が張り詰めてしまいそうだが、みすみす虎の子をだまし取られないためには、それくらい思い切った発想の転換と覚悟が必要といえそうだ。

取材協力弁護士

佐久間 大地 弁護士

佐久間 大地 弁護士

所属: 弁護士法人大地総合法律事務所

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