無罪判決の男性、警察庁で自らのDNA型データ抹消を確認 「現状で考え得る最善策」弁護団は評価も法整備訴える
逮捕・起訴後に、裁判で無罪となった奥田恭正さんが7日、弁護団とともに警察庁を訪問。奥田さん側は同庁で保管されていた、DNA型などのデータの抹消とその確認を求めており、この日、これらのデータが削除済みであることが表示された、警察庁のパソコン画面のコピーが示されたという。
奥田さんらは同日、都内で会見。警察庁の対応について「現状で考え得る最善策をとってもらったのではないか」と評価した。
昨年8月にデータ削除を命じる高裁判決、国は上告断念
奥田さんは高層マンションの建設反対運動でリーダーを務めており、その際に工事現場で現場監督ともみ合いになり、暴行罪で2016年10月に逮捕・起訴されていた。
しかし、2018年11月に名古屋地裁が無罪判決を下し、同判決が確定。
奥田さんは国に対し、事件の捜査で採取されたDNA型や指紋、顔写真などのデータの抹消を求めた訴訟を起こし、2022年には名古屋地裁が、2024年8月には名古屋高裁がそれぞれ、警察庁側にデータの削除を命じる判決を下していた。
警察庁の露木康浩長官は判決を受け、上告しない旨をコメント。最高裁での判断を仰ぐことなく、二審・名古屋高裁判決が確定した。
警察庁は文書などで説明も…弁護側「抹消、断定できない」
高裁判決後、警察庁側は上告期限よりも前に、データを削除したことを文書にて奥田さんに通知していた。
しかし、奥田さん側は、送られてきた文書がたったの1枚であったことや、抹消したという事実のみが記載されていたことから、警察庁の姿勢に反発。
10月には警察庁の担当者2人が説明のため、奥田さんの元を訪れたものの、奥田さん側はこの段階でも「本当にデータが抹消されたかは断定できない」として、奥田さんが警察庁に赴いて直接確認することを申し入れしていた。
「DNAの取り扱い、国会で議論しルール定めるべき」
この日会見に出席した弁護団の國田(くにた)武二郎弁護士は「国は当然最高裁まで上告すると思っていた」と裁判について振り返りつつ、次のようにコメントした。
「国側が上告し、最高裁できちんとした判断を受けられれば、DNA型データ等の運用に関する立法化を進め、現状の運用に歯止めをかけることができるのではないかと思っていました。
確かに、DNA型などのデータは、警察の捜査において優位性、利便性、便利性があります。
しかし、それだけにやはりDNAを取得する際の条件や、取得後の保管条件、抹消する場合の規定を、警察庁の内部規則だけで処理するのは問題があるのではないでしょうか。
現に、ドイツや韓国、台湾、イギリスなど諸外国では保管方法や削除に関して、法律で定めており、日本においても立法化が必要だと思います」
また、弁護団の中谷雄二弁護士も法整備の必要性について、以下のように訴えた。
「DNAや顔写真、指紋について、裁判になり、判決に応じて警察庁がデータを抹消したケースは本件が初めてだそうです。
DNAには、自分自身も知らないような情報も含まれていて、究極のプライバシー情報とも呼ばれています。
こうした情報を、無罪になった人が、警察に抹消してほしいと思うのは当然のことですし、警察が内部規則で取り扱っているままでいいのか、というのがこの問題の本質です。
今回、判決でデータを削除しろ、という命令が出ましたが、削除の仕方についての規定などはどこにもありません。
だからこそ、民主主義国家なのであれば、当然国会で議論してルールを定めるべきだとわれわれは主張していますし、今回の奥田さんの行動は立法化に向け、前例を作ったことになり、大変意義があったと思います」
さらに、会見では立憲民主党の国会議員が、通常国会でこの問題について取り上げる方針であることが弁護団の塚田聡子弁護士から明かされた。
「先日、奥田さんと一緒に、議員の方との打ち合わせを実施しました。
データを抹消する際の手続きや第三者委員会の設置など、無罪となった人が納得できる体制を整えるためには、立法化が必要だという趣旨の質問をするということで、本件が立法化の後押しになればと思います」
「目の前でデータ抹消確認できれば、それが一番」
この日、奥田さんは会見で「自分自身が前例になるのは嫌だった」として、次のようにコメントした。
「実際に上告期限前に、データを抹消したとの連絡がきたときは、自分が裁判で勝ち取ったデータ抹消を、事前の通告なしで実施され、ふざけるなという気持ちがわいてきて、正直すごく腹が立ちました。
その後、実際に警察庁で、データを抹消した部署のトップの方が来た時には、『できる限りのことはしたつもりだ』と言われ、ここで自分が納得すれば終わりかなという気持ちにもなりました。
しかしそれでは、自分自身が前例になってしまいます。警察が、次に無罪を勝ち取った人に対しても、自分と同じように扱えば大丈夫だと思うようなことはどうしても避けたいと思いました。
今回、警察庁にはできる限りのことはやっていただいたと思いますが、もし、次に無罪を勝ち取った人が出てきた場合は、実際に目の前で、データの抹消を確認できるようになれば、それが一番ではないでしょうか」
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
「パワハラというには生ぬるい、過酷な仕打ち」従業員が会社に損害賠償を請求 屋外の“お立ち台”、 “追い出し部屋”の学習などで「さらしもの」
2024年12月26日 15:20
-
「ハラスメントのない職場環境を」生協のスーパーでパート女性自死、和解成立で遺族側が会見
2024年12月26日 13:33
-
現役自衛官セクハラ訴訟 公益通報後に「二次被害」「昇任までに12年」“不利益取り扱い”か
2024年12月24日 15:36