14億円窃盗事件で注目「貸金庫」に何が入っている? 探偵が解いた“秘密の引き出し”に隠された「謎」

和泉 慎一

和泉 慎一

14億円窃盗事件で注目「貸金庫」に何が入っている? 探偵が解いた“秘密の引き出し”に隠された「謎」
一般にはなじみのない貸金庫には怪しい側面も!?( mochi_maru / PIXTA)

三菱UFJ銀行で元行員が貸金庫から14億円を窃盗したという事件がありました。探偵業を長らくやっていると、仕事柄か「見られたくないものを隠す」場面に遭遇することも少なくありません。その意味で「貸金庫」はなにかと都合のいい隠し場所といえます。事件は大胆な犯行に思えますが、私にすれば元行員は「うまくやったな」という印象です。

見られたくない物を隠すのは裏を返せば、なにかしらやましいことがあるワケです。たとえば、税務署に見せたくない帳簿、不正で得たような現金、なにかの鍵…。金融機関の貸金庫は強固なセキュリティーによって「秘密」が守られ、悪事を働く人にも好都合な隠し場所になり得ます。行員が悪知恵を働かせない限りは…。(和泉 慎一:さっぽろ探偵事務所代表)

「貸金庫」が絡んだある事件の調査

素行調査の過程で、貸金庫に絡む事案がありました。守秘義務の範囲になるので、一部を変えながらになりますが、過去にあった事例をお話ししようと思います。

その前にもうひとつ補足しておきます。探偵というのは探偵業法で定められた「依頼者の権利行使を目的とした調査」とされており、意味もなく尾行はできません。仕事のほとんどは民事訴訟や示談のための証拠資料収集です。

刑事事件になると非常に難しく、専門の刑事さんが何年、何十年と修行と勉強をして追っていますので、私たちはとうてい足元にもおよばないことを付け加えておきます。

さて、話を戻します。とある詐欺事件の犯人を追っていた時です。この事件はポンジスキームの典型的な例で、投資という名目でお金を預かり、実際は金利支払いの運用に回す、いつか破綻する稚拙な仕組み。たとえば1000万円を預けると毎月30万円が戻ってくるという、いまの日本では考えられない高金利で投資ができる仕組みで誘う詐欺です。

冷静に考えれば怪しいとわかるのですが、それでも巧妙に仕組まれている事が多く、警察もなかなか逮捕に至らない事もあるようです。妙にリアルな作り話で、だまされてしまう人が多い詐欺と言えます。だまされる側は「うさんくさい」と一瞬は疑いながらも、都合の良い方向に考えるのは人の性。まんまとそのすきを突かれてしまうわけです。

なぜか貸金庫に立ち寄る調査対象

私は依頼を受け、その犯人(いえ、まだ逮捕されていないので容疑者、さらに手前の不審人物と呼べばいいのでしょうか)を追う事になりました。すると、不審人物が銀行の貸金庫に時折立ち寄る様子が確認できました。

「なんのために貸金庫に?」。私たちも不審人物が立ち寄る貸金庫の中身が気になります。一般市民の私たちが普段使用することのない、”特別感のある秘密の引き出し”。そこに不審人物の悪事解明につながる重要なヒントがあるのかもしれない…。

不審人物が貸金庫に行くときはほぼ手ぶらでした。なにかを持ち込む様子もありません。その後の行動も、資材置き場(レンタル倉庫)に作業着で行くだけ。謎は深まり、疑惑は膨らむばかりです。

この不審人物、愛人宅へ足しげく通い、百貨店でブランド物を買いこむものの、それ以外に怪しい行動も見受けられません。妻と子どももいる男性ですが、自宅には月に一度帰宅する程度。追っていてもその行動に変化はありませんでした。家庭も調査しましたが、至って普通。むしろ近隣では地味な方かもしれません。

しばらくは不審人物と愛人がいつも出掛ける様子を撮影する日々が続きましたが、よく観察しているとある事に気付きました。貸金庫に立ち寄る前後、資材置き場の行き来が必ずあり、かつ愛人宅の立ち寄りがあるのです。しかも、その後、作業服に着替え、別の場所に置いてある8人乗りのボックスカーで移動するのです。

「これ、貸金庫の鍵があるのが愛人宅で、資材置き場が”本筋”じゃないか?」

尾行した結果を整理していくと、やはり貸金庫でなにかしらの「鍵」を持ったうえで資材置き場へ向かう様子であることを確信。そのことを依頼者へ報告しました。

依頼者も不審人物がどこかに書類や脱税を目的として現金を隠しているという確信はあったようです。

不正の温床にもなり得る“秘密の引き出し”

依頼者は私たちの集めた情報などをもとに、果敢にも自分で不審人物に立ち向かいました。私も立ち会いましたが、依頼者は被害者リストを(どこで把握したのか私はわかりませんが)見せた上で、かつ被害者たちとのメッセージを不審人物に見せ、核心に迫っていきます。

すると、観念したのでしょう。不審人物はそれまでの強気の態度が一変。返金の意向を示しはじめました。そして、依頼者が出した多額のお金はその場で振り込まれ、返金されました。

意外にもあっさりと返金に応じたところをみるとやはり、あの資材置き場が隠し場所だったのだろうな、と思いつつも、真相はいまだ謎のままです。現金があの資材置き場の中に山積みだったのか、それとも…。

「貸金庫」と聞くと私はこの事案を思い出します。同時に不謹慎ですが、「貸金庫」にはまっとうな形で手にしていない金塊やお金などもたんまり保管されているのだろうな、という疑念が私の頭をよぎってしまいます。実際、貸金庫に不正資金が隠されている事例も報告されており、金融犯罪の温床になるとも指摘されています。

貸金庫ではありませんが、隠し場所で印象に残った話をもう一つ。

不倫の調査で依頼者と契約した後は「名刺と契約書はわからない場所に隠してくださいね!」とお伝えしています。

奥さんが「任せてください、土鍋に入れておきます!」と答えたのが、過去の隠し場所では印象に残りました。

隠し場所というのはなかなか奥が深いもので、隠しそうな場所よりも平凡な場所の方が案外、見つかりにくいものかもしれませんね。

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