「何も変わらない」 “パワハラ”の労災申請をためらう労働者の“絶望”心理

弁護士JP編集部

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「何も変わらない」 “パワハラ”の労災申請をためらう労働者の“絶望”心理
「職場のメンタルヘルス・ハラスメントほっとライン」主催者による記者会見(10月5日 霞が関/弁護士JP編集部)

長時間労働やハラスメントによる労災申請が増えている。厚生労働省によると、2021年度の請求件数は2346件で、前年度比295件の増加となった。

コロナ禍でメンタル不調を訴える人も増加する中、「会社には相談できる人がいない」「相談窓口はあっても信用できない」といった不安を抱える人たちが無料で電話相談できる「職場のメンタルヘルス・ハラスメントほっとライン」が、10月9日~10日(※)に全国各地で開催される。

(※)一部例外地域あり。開催概要は記事末尾に記載

ほっとラインに対応するのは、労災認定や労使交渉の専門スタッフ。医師や弁護士に相談する前段階として、現在抱えている悩みや不安について気軽に相談することができる。

会社の相談窓口は「情報が筒抜けになりそうで怖い」

ほっとラインを主催するのは「全国労働安全衛生センター連絡会議」。1990年に労災被害者やその家族、労働者・市民が主体となり設立された団体で、安全で健康的な職場・社会の実現を目的に、日頃から労災に関する相談事例や職場における対策の情報共有、行政への提言などを行っている。

主催者の一人、川本浩之さん(神奈川労災職業病センター)は「いわゆる『パワハラ防止法』によって、中小企業にもパワハラ相談窓口の設置が義務化されましたが、実際には従業員側が『会社の窓口に相談しても何も変わらない』『情報が筒抜けになりそうで怖い』と感じ、利用をためらったという声が多く聞かれます」と指摘する。

「行政やNPOが運営する相談窓口は全国各地にありますが、実際には知人、友人、家族への相談に留まり、そこへたどり着く人はごく限られていると感じます。今回のほっとラインは、公的な相談窓口も数多くあることを知って、活用していただくための一つのきっかけになればと思っています」(神奈川労災職業病センター・川本さん)

労災申請には外部のサポートが不可欠

メンタルヘルスだけではなく、労災申請の観点からも、外部機関に早い段階で相談することは重要な意味を持つ。労災申請には、給付内容ごとに2年または5年の“時効”が存在するからだ。

労災申請の“時効”(厚生労働省「7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」より)

「メンタル不調で悩まれる方は、体調も非常に悪くなることが多いので、自力で申請したいと思ってもなかなかできないのが現状です。労災申請によって給付金を受けられることになれば、本人が療養生活をする上でも大きな安心材料となります。そういう意味でも、外部のサポートは必要なので、早めに相談してほしいです」(神奈川労災職業病センター・川本さん)

相談先の選択肢は一つではない

外部の窓口に相談したことで、復職への道が開けた事例もある。

三菱電機の研究所で働いていたHさんは、過重労働、パワハラ被害によりうつ病を発症し、休職を余儀なくされた。さらには、労災請求中に休職期間満了で解雇を予告されたという。

いったんは会社の労働組合に相談したものの、「仕方がない」の一点張りだったため、脱退して外部のユニオンに加入。団体交渉によって、労災認定と解雇撤回が実現した。また職場改善や配置転換も要求したことで、現在は8年ぶりの復職に向けて前進しているという。

Hさんは自身の経験を振り返り「勇気を持って相談した先(Hさんの場合は会社の労働組合)で『パワハラじゃない』と言われるかもしれません。でも、相談先の選択肢はたくさんあるので、自分に合った場所が見つかるまで、根気強く相談してほしいです」と語った。

「職場のメンタルヘルス・ハラスメントほっとライン」は、北海道・東京・神奈川・山梨・名古屋・大阪・京都・兵庫・岡山・広島・福岡で開催される。

「これ以外の地域に自宅や職場がある場合も、とにかくお近くのところでいいので、まずは電話していただきたいです。お話を伺った上で、適切な窓口をご案内できればと思います」(神奈川労災職業病センター・川本さん)

■各地の「ほっとライン」日程と受付電話番号

・北海道(札幌地域労組)
10月11日(火)~12日(水)電話011-756-7790

・東京(東京労働安全衛生センター)
10月10日(月・祝)電話:03-3683-9765

・神奈川(神奈川労災職業病センターなど)
10月9日(日)~10日(月・祝)電話:045-573-4289

・山梨(山梨ユニオン)
10月9日(日)~10日(月・祝)電話:055-287-8113

・名古屋(名古屋労災職業病研究会など)
10月10日(月・祝)~11日(火)電話:052-837-7420

・大阪(関西労働者安全センター)
10月9日(日)~10日(月・祝)電話:06-6476-8220

・京都(きょうとユニオン)
10月10日(日)電話:075-691-6191

・兵庫(ひょうご労働安全衛生センターなど)
10月9日(日)~10日(月・祝)電話:078-382-2118

・岡山(おかやま労働安全センタ―など)
10月9日(日)電話:086-266-8008

・広島(スクラムユニオン・ひろしま)
10月8日(土)~9日(日)電話:082-264-2310

・福岡(連合福岡ユニオン)
10月11日(火)~12日(水)10:00~19:00 電話:092-273-2114

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