「非常階段でハイハイ」幼児に親は戦慄…子どもの「危険行動」“合理的な”予防策とは
今年8〜9月に相次いで発生した子どもの失踪事件を受けて「人ごとではない」と感じた保護者は多いのではないだろうか。
子どもに関する事故や事件が発生すると、必ずといっていいほど「保護者がちゃんと見ていれば…」という声が聞こえてくる。しかし、日常生活を送る上で四六時中、子どもから目を離さずにいることは現実的ではないだろう。
コンタクトレンズのマネをしてスパンコールを…
自宅や保育園・幼稚園からの失踪に限らず、幼児が一瞬の隙に“危険行動”に出て周囲の大人をヒヤリとさせる場面は日常にあふれている。以下は、編集部に寄せられた体験談だ。
- 流しの下の扉を開けて包丁を取り出し、刃の部分をしゃぶろうとしていた(1歳、女児)
- 洗面所の下の扉内に入れていた漂白剤のふたを自分で開けてなめてしまった(1歳、女児)
- 空気の入れ替えのために玄関ドアを少し開けていたところ、その隙間から脱走。非常用の階段までハイハイで進み、階段を下りようとしていた(1歳、女児)
- オムツを取り換えている最中に身をよじって逃げ出し、網戸を開けて家の外に飛び出した(2歳、女児)
- 棚の高いところにしまってあったタバコを取り出してかじってしまった(3歳、女児)
- 駐車場で急に走りだしたため、とっさに腕をつかもうとしたが、それを避けるように通路の真ん中へ走っていってしまった(3歳、男児)
- 保育園の帰り道、手に持っていた葉っぱが強風で飛んでいってしまい、追いかけようと道路へ飛び出した(3歳、男児)
- 仏壇の香炉をひっくり返してしまい、灰まみれになった(4歳、女児)
- コンタクトレンズのマネをしてスパンコールを目の中に入れてしまった(4歳、女児)
- 近所に住んでいた祖父母の家に1人でお泊まりした翌朝、黙って帰宅した(5歳、女児)
いずれも「別の場所で家事をしていた」「トイレに行っていた」「つないでいた手を振りほどかれてしまった」など、埋めることが難しい“少しの隙間”で発生した出来事だったという。幼児を育てる保護者の多くが経験する瞬間といっても良いだろう。
「落ち着きがない=発達障害」ではない
子どもが「危険行動に出る要因」について、佐久総合病院佐久医療センター小児科医長で、子育てにまつわる情報を医療目線で発信するプロジェクト「教えて!ドクター」を運営する坂本昌彦さんは、「子どもの探索行動」「危険に対する理解」を指摘する。
「生後5か月を過ぎると、子どもはモノを手にして口に入れ、味や硬さ、においを確認して学んでいく『探索行動』を始めます。これは、子どもの発達段階として“ごく自然”なことです。
歩けるようになれば、おのずと行動範囲も広がりますから、探索行動を繰り返して自分の世界をどんどん広げていくことになります。しかし裏を返せば、それだけ『事故のリスク』も高まるということです。
1〜2歳頃までは、好奇心が強い一方で危険予知能力が育っておらず、車や刃物が『危ない』と言い聞かせても、理解することはなかなか難しいです。3〜5歳頃には理解力も徐々に育ってきますが、行動の結果まで予測することはできません」(坂本さん)
また「行動に落ち着きがない」というと、発達障害の一種である「ADHD」を思い浮かべるかもしれないが、坂本さんは「安易に結びつけるべきではない」と言う。
「発達障害は明確に線引きできるものではなく、発達に問題がなくても好奇心の強いお子さんはたくさんいます。
ADHDなどがあると、たしかに飛び出しの“リスク”などは増えることがありますが、そうでなくても事故のリスクがなくなるわけではありません。発達特性のあるなしの尺度ではなく、個々のお子さんの行動様式をしっかり観察することが大事です」(坂本さん)
すべての事故を防ぐ必要はない
「保護者はどうしても『すべてのケガを防がないといけない』と必死になってしまうかもしれませんが、子どもは小さなケガを通して成長していくものなので、その必要はありませんし、また不可能です。それよりも、後戻りできない大きな事故を防ぐことが大事です。
たとえば転ぶのは本当に一瞬で、すぐ後ろを歩いていてもとっさに支えられないことは少なくないですが、高いところから落ちるのを防ぐための予防策は立てられます」(坂本さん)
大きな事故を予防するためには、成長過程でそれが起きやすいタイミングを知ることも有用だという。
「寝返りができるようになれば、転倒や転落する可能性が出てきますし、ハイハイするようになれば、何かを触ってケガやヤケドをするリスクが高まります。また探索行動が始まれば、誤飲も増えていきます。さらには歩き始めると、子どもだけでお風呂に近づいて溺れてしまう事故が起こりやすくなってきます」(坂本さん)
以下は坂本さんに聞いた、幼児期に発生しやすい事故ごとの特徴だ。
- 転落、転倒
もっとも多い事故。子どもは頭が大きいため頭部をぶつけやすく、ケガの40%は頭や顔とされている。2歳未満は0.9m以上、2歳以上は1.5m以上から転落した場合にケガをするリスクが高くなる。また、乳児の頭部打撲はベビー用品に関連するものが多いため、抱っこひもを装着する際は必ずソファに座るなどの対策が必要。
- のどを突く事故
60〜70%が歯ブラシによるもの。一般的には小学生くらいの子どもがくわえたまま走りまわって事故になると思われがちだが、実際は75%が1〜2歳の事故。普段は親が磨いていたとしても、歯磨きを始めるタイミングで配達員が来たため机の上に置きっぱなしにしてしまったり、上の子にならって自分で磨こうとしたときなどに事故が起きやすい。
- 異物誤飲
ボタン電池、磁石、高吸収性樹脂などの誤飲が多い。落ちているものを拾って口に入れてしまうと思われることが多いが、40%以上のケースは自分でふたを開けて取り出している。ネジでしか開けられない製品にするなどの対策が有効。
- 気道異物
1〜2歳に多く、70%以上が豆類によるもの。ブドウやミニトマトで窒息することもあるため、食べさせるときは4等分にする。
子育ては「親の目が離れる」もの
1歳以上の子どもの死亡原因でもっとも多いのは「不慮の事故」で、その内訳として多いのは交通事故、窒息、溺水、転倒転落だという。しかし坂本さんは「多くは防ぐことができるものです」と言う。
「ただし、予防策は『目を離すな』など実効性の低いものではいけません。そもそも子育ては『目が離れるもの』なので、目が離れても大きな事故につながらないような対策を考えることが重要です」(坂本さん)
予防策において柱となる、保護者が意識すべき考えが「3つのE」(教育:Education、製品開発:Engineering、法制化:Enforcement)だ。
- 教育(Education)
交通事故:ヘルメット装着、チャイルドシート装着
転落:柵を設置、抱っこひもはソファで着脱、ベランダに子どもを出さない
異物誤飲:豆まきは袋入りにする、乳幼児に豆類を食べさせるのを控える
溺水:ライフジャケット着用、入浴時以外はお風呂に水をためない
熱傷:キッチンに子どもを入れない、熱い飲み物を子どもの届くところに置かない
- 製品開発(Engineering)
交通事故:足が巻き込まれない自転車の開発
転落:エアコン室外機は足台にならない場所に設置、窓に安全柵を設置
異物誤飲:ボタン電池を使用した器具は簡単に開けられないもの(ネジでしか開けられないものなど)にする、チャイルドプルーフ製品の開発
溺水:プールには柵をつける、浴室に施錠、海やプールに監視員を配置
熱傷:キッチンガードの設置、低い場所に炊飯器やポットを置かない、子どもが着火できないライターの開発、給湯温度の設定を50度以下にする、カーテンや寝具を難燃性に
- 法制化(Enforcement)
シートベルトやチャイルドシートの義務化、飲酒運転の厳罰化、など
「製品開発」や「法制化」については、自らアクションを起こすことが難しくても、積極的に情報を集めることで予防策として取り入れることができるだろう。
「子どもの成長スピードはすさまじく、登れなかったところへ急に登れるようになるなど、昨日までの対策で大丈夫だったことが今日は効かなくなることがよくあります。『まさか』が起こるということを前提に『3つのE』を組み合わせた対策を考えることが大事です」(坂本さん)
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。