「大麻犯罪」6割が若者の“異常事態” 「大麻は安全」意識の“ヤバい”落とし穴とは
「『大麻乱用期』とも言える状況となった」。
大麻事犯として検挙された人の数が、7年連続で増加したことを受け、2021年6月25日に厚生労働省はコメントを出した。
令和2年に検挙された大麻事犯は5260人。そのうち6割以上となる3511人は30歳未満の若者だった。冒頭のコメント通り、大麻犯罪は増加の一途を辿りながら、今や若者の中では、「罪の意識」が軽い”麻薬”としてカジュアル化している一面すらある。
たとえば、「諸外国で大麻が解禁された」や、「大麻が医薬品として使われている」というニュースもネットなどを中心に多く流れている。さらに、大麻から抽出された精神作用を示さないカンナビジオール(通称CBD)を使用した食料品やアロマオイルなどが続々と発売されていることなどもあげられる。
また、ネットの情報などをもとに「大麻は安全だ」と主張し、大麻の合法化を推進する人々も少なくない。たとえば、自らを大麻アイドルと称し、大麻合法化を目標に活動する「ASA GIRLS」も10月1日にデビューしたばかりだ。
しかし、カジュアルに大麻情報に触れる若者や、合法化を推進する人々が訴える「大麻は安全」という主張は、果たしてどの程度の合理性があるのだろうか。
海外の大麻”解禁”理由と日本の事情
湘南医療大学薬学部教授の舩田正彦氏(神経薬理学)は、まず、「大麻の依存性」について次のように話す。
「薬物依存については、覚醒剤 ・コカイン・ヘロインといった、いわゆるハードドラッグに比べると大麻の依存性が”軽度”であることは事実です。しかし、依存につながる成分であるΔ9(デルタナイン)-テトラヒドロカンナビノール(通称THC)が含まれており、依存症になるリスクも当然ある。それを理解するところがスタート地点です」。
では、なぜ海外では嗜好(しこう)品としての大麻が解禁されたのか。舩田氏は幾つかの要因のうち、「大麻使用のまん延率と経済の問題」を指摘している。
アメリカやカナダでは、大麻の生涯経験率が40%を超えており、現行の大麻規制による取り締まり手法では、大麻使用に歯止めがかからない状況にあった。その上、違法行為として取り締まりの対象だった大麻の「売買」はブラックマーケットで行われ、反社会的な組織に資金が流れる構造が問題視されていた。
「そのため、アルコールやタバコのように、一定のルールの中で使用を認め、国(アメリカは州単位)の利益・税収につなげていくという発想から生まれた解禁への流れだったのです。誰でも自由に大麻を吸っているというイメージを持つ人がいますが、それは間違い。特に年齢制限があり、おおむね21歳以上でないと使用は認められていません。若い人が使うことは良くないとされているのが共通の認識、大前提です」(舩田氏)
嗜好(しこう)品として認めた背景には、成人使用のルールを規定し、若者の使用を禁じるという理由もあったという。
「アメリカの調査で、10歳代前半で大麻使用を開始すると、使用開始年齢が20歳以上の場合と比較して、大麻依存症に陥るリスクが5~7倍も高いことや、将来、覚醒剤やコカインといった強力な薬物の依存症になるリスクもあるといわれています。若年期からの大麻使用は多くの面でリスクが高いのです」(舩田氏)
9月29日、厚生労働省は、これまで「所持」を禁じていた大麻取締法において、「大麻使用罪」も創設する方針を固めた。日本では、年齢制限を設け使用を「解禁」する流れではなく、あくまでも「規制」を強める意向だ。
大麻成分に着目した医薬品への期待
しかしその一方で、国内でも大麻の医療利用については解禁が現実的になっている。
「医療用大麻」については、依存症に陥るリスクがないとされるカンナビジオール(CBD)を、難治性てんかんのけいれん発作を抑える医薬品として利用できることがわかり、研究が一気に進んだ。舩田氏は、「適切な大麻成分の医療利用拡大」に期待をこめる。
「難治性のてんかんで、これまでの医薬品では、発作を抑制し難いケースでも、CBD製剤が効果を示すことが分かっています。薬が効かない病気で、苦しんでいる患者さんにとって非常に重要な医薬品になることが予想されます。すでにアメリカやイギリス等ではCBD製剤が医薬品として承認されています。日本の患者さんのためにも、治療で使用できるように進めるべきだと思っています」
今後、「大麻成分の医療での利用」に向けては、大麻取締法の見直しが行われていくことになるが、特に舩田氏が注目しているのは「規制」のあり方だという。
現在、大麻は「部位規制」が用いられ、茎や種、葉といった部位によって規制が異なるが、これが変わる可能性もあるという。舩田氏は次のように予測する。
「大麻成分を医療用で利用するとなれば、使用した人の体内から大麻の成分を検出して判断する必要が出てきます。また、医薬品としてCBD成分を今後利用できる可能性も考えれば、依存成分であるTHCに着目した”成分規制”に変わっていくのではないか」
さらに、日本では古来より麻を神事に用い、繊維の原料としても利用されてきた歴史的背景を踏まえる必要があるとした上で続ける。
「文化としての大麻利用を維持していくことを考えても、適切な規制管理を考える必要があると思います」(舩田氏)
CBDは気軽に接種していい?
医薬品成分としても用いられることになるCBDは、冒頭でも触れたように、近年飲食料品や化粧品に用いられ、日常生活で目にすることが増えてきた。精神作用はないというが、注意すべきことはあるのだろうか。
現在流通しているものは、国内外の企業で一定の検査を通過したものということが前提だ。「しかし海外の調査では、CBD製品の中にTHCが混入していたという事例や、明示されているCBD量が含まれていなかった製品も報告されています。厳格な製品の安全性チェックが重要だと思います」(舩田氏)
また、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、妊娠中の人と若年層の使用に警告を出している。長期使用についても、どんな影響があるか明確になっていないため注意が必要だという。
「CBDはそれ自体が乱用される成分ではありませんが、海外の研究報告では鎮痛効果や不安を軽減するといった効果が報告されています。生体に対する影響は必ずあるということです。CBDを含む製品を摂取した後に体調がおかしくなったということがあれば、関係の医療機関や日本中毒情報センターなど専門機関へ相談するようにしてください」(舩田氏)
変わる「規制」と変えてはいけない「支援」
厚生労働省は、大麻使用罪の創設と大麻成分の医療利用について、来年の通常国会での法案提出を目指している。
大麻を取り巻く環境には、今後大きな変化が訪れるだろう。舩田氏は、最後にこのように語った。
「規制を強化することによって、薬物を使用させないという1次予防の対策をすることはもちろん大事です。加えて、薬物乱用を繰り返してしまう再乱用の予防に関する施策についても充実させていく必要があります。それから、依存症患者が社会復帰をするための支援も必須。公的関係機関が密に連携して、これらのバランスをとって、進めていただきたいと思います」
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