「娘の悔しさ、無念を晴らす」金融マルチ被害で命を絶った女性の遺族、勧誘者らを提訴
詐欺的な投資勧誘の被害を受けて自死した川上穂野香さん=当時(22)=の遺族らが、勧誘者ら3人に計約1200万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。訴状は郵送で提出され、11月2日に東京都内で会見が行われた。
穂野香さんは、20年8月に大学の同級生らに、金融商品「ジェンコ」を「月利、ボーナスが6%」「ポンジやマルチではない」などと勧誘され、150万円を借り入れて出資したが、配当などは一度も得られなかった。
母親や交際相手に被害を相談し、同級生らに元本の返金を求めていた穂野香さんは、同年10月「投資被害の件で沢山迷惑をかけ、心配をかけてしまってごめんなさい」と遺書を残し命を絶った。
遺族らは、穂野香さんを勧誘した同級生ら2人と、投資グループのリーダー格であった男の計3人を相手取って提訴した。
「娘の悔しさ、無念を晴らすことだけを考えてきた」
会見で、原告である穂野香さんの母親・川上佐永子さん(55)は、「娘が亡くなった日からずっと後悔しています。ここ(提訴)まで、やっとこれたなという思い。今日まで、娘の悔しさ、無念を晴らすことだけを考えてきました。娘も応援してくれていると思います」と言葉を絞り出した。
顔と名前を出して取材に応じたことについては、「娘は亡くなる前に、自分以外の被害者の方のことも心配していました。世間には、巧妙な投資詐欺にだまされる側が悪いと考える方もいらっしゃる。娘の思いと、ひとりでも多くの方に、悪質な詐欺について理解していただくために、顔も名前も公表して訴えさせていただきました」と述べた。
代理人の杉山雅浩弁護士は、通常、詐欺行為への損害賠償請求は因果関係を証明するのが難しいとしつつ、「今回は遺書がありますので、因果関係を立証できると考え提訴に至りました」と説明。
賠償金額については、「(穂野香さんが支払った)お金を返してもらって終わりでは遺族の気持ちは収まりきらないと考え、精神的苦痛への慰謝料約1000万円も求めます」と語った。
すでに刑事裁判でも有罪判決
金融商品「ジェンコ」をめぐっては、金融商品を取引する事業者の登録がないのに出資を募ったとして、昨年11月、警視庁が投資グループを摘発。「金融商品取引法違反(無登録営業)」で男女7人が逮捕されている。投資グループでは「ジュビリーエース」「ジェンコ」などの金融商品をうたい、全国でセミナーを開いて集客。およそ650億円が違法に集められたとみられる。
今回提訴した3人のうち、投資グループのリーダー格の男と穂野香さんの勧誘に関わったひとりはこの時にも逮捕・起訴(略式起訴を含む)され、いずれも有罪判決を受けている。
「ジュビリーエース」「ジェンコ」などは、紹介した人がサイトの登録や収益を上げた場合に、勧誘者が“配当”を得られるいわゆる「マルチ商法」の手口で出資者を募り、規模を拡大。しかし、昨年の秋には配当金や出資金の出金ができなくなり、トラブルが表面化していた。
穂野香さん「育ててくれてありがとう」
記者から生前の穂野香さんについて尋ねられた佐永子さんは、「小さい時から手紙をよく書いてくれました。反抗期には、私とケンカしたあと、反省しているという内容の手紙をくれたことも。家には何通も手紙が残っています。相手の気持ちを考えられる優しい子でした」と振り返った。
穂野香さんからの最後の手紙となってしまった遺書も、佐永子さんに向けて書かれたもので、「22年間、ずっと私を育ててくれてありがとう」という感謝の言葉が添えられていた。
穂野香さんの遺(のこ)したメッセージから、裁判所が「詐欺」と「自死」の因果関係についてどのように判断するのか、その行方に注目したい。
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