元自衛官女性「セクハラ」告発で5人が懲戒免職処分も…自衛隊は“身内に甘い”のか?
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国を守っていただいて本当に感謝しているのですが、部下の女性も守ってあげてほしいです。
元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが実名で告発していた複数の男性隊員から性暴力を受けた事件。
防衛省は、直接的に関与した5人を懲戒免職としました。
自衛隊では
セクハラが挨拶がわり
に行われていた可能性が高いです。
過去の裁判でも上司が「
あれは挨拶だった
」発言をしていた例があったからです。今回はその点も踏まえて解説します(弁護士・林 孝匡)。
ニュースの内容
まずは、ザッと報道の要約を。
元陸上自衛官(1等陸士)の五ノ井さんが複数の男性隊員から性暴力を受けました。 防衛省は五ノ井さんの被害申告をほぼ全面的に認め、直接的に関与した5人を懲戒免職としました(40代の1等陸曹1人、30代の2等陸曹1人、20代から30代の3等陸曹3人) 。
防衛省の調査では、概要以下のとおり認定されました。
- 5人は五ノ井さんの胸を触るなどした
- 演習場の宿泊施設で押し倒して性的な接触を行った
防衛省が懲戒処分を出してくれるまでの道のりは、険しかったようです。
五ノ井さんはまず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告したようですが、一課からは「セクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答されました。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出しましたが、結果は・・・不起訴処分。
五ノ井さんはYouTubeで“顔出し”して被害を告白、大問題に発展してようやくの懲戒処分でした。
自衛隊でのセクハラは日常茶飯事なのか?
報道によると五ノ井さんは「私が所属していた部隊ではコミュニケーションのようにセクハラがあった」「セクハラがコミュニケーションの一部のように感覚が麻痺していた」と述べており、自衛隊ではセクハラが日常茶飯事のように行われていた可能性があります。
過去の判決文からもセクハラが日常茶飯事であったと読みとれます。
下記は航空自衛隊での事件です。
この認定から読み取れるのは以下、
- 被告であるセクハラ上官【以外の】上官からもセクハラを受けていた
- セクハラは挨拶という認識が蔓延していた
- 自衛隊内でセクハラを訴えても焼石に水
ということです。
この事件は、男性上官が自分の地位を利用して非常勤隊員の女性に性的関係を強要したもので、880万円の損害賠償請求が認められています。女性がPTSDを発症するほどの強要でした。
被害女性がセクハラ被害を上司などに申し出ても、取り合ってくれないような状況だったようです。
今回の五ノ井さんの事件でも、報告を受けた上司の 【くさいものにフタ】 対応が際立っています。中隊長は、部下から五ノ井さんの様子がおかしいと報告されたのに十分な調査をしなかったようです。さらにその後も 五ノ井さん本人から 申告を受けたのに調査せず、直後に五ノ井さんが任務を離れて実家へ戻った理由について「家庭の事情」とだけ大隊長に報告していたようです。
自衛隊は身内に甘いのではないか
上記の航空自衛隊の裁判では880万円の損害賠償請求が認められました。
地裁では30万円だったのですが“大幅アップ”となりました。
高裁はザックリ、
- 約1年以上に わたり性的関係を強要された
- 上官は自己の欲望処理のために性的関係を求め続けた
- 被害女性に交際相手がいるのにその存在も無視した
- 心身の不調により職業訓練等を受けられず生活の危機に追いやられた
- いまだにPTSD症状に悩まされており
- 家事・育児など生活に多大な支障を来している
ことを理由としています。
ここからは、自衛隊って身内に甘くない? というお話を。
裁判所がこれだけの高額の賠償を認めたのに・・・ですよ。
その前の防衛省の処分は、たった【減給1か月10分の1】という懲戒処分。
処分の理由は「妻がありながら、原告に対し不意に抱き付きキスする行為に及ぶとともに、複数回性的関係を持つなど、不適切な異性関係を継続した」というものなのに。
処分、軽くないですか? シッペ1発みたいな処分は。
「性的関係を強要した」との認定ができなかったのかもしれませんが、『セクハラを挨拶』と考える輩(やから)がいる組織での認定なので、真摯(しんし)に調査したのかどうか。裁判所ではガッツリ性的関係の強要が認定されています。
氷山の一角
報道によると、防衛省や自衛隊でセクハラやパワハラに関する調査を行ったところ、およそ 2か月で1414件 もの被害の申し出があったようです。五ノ井さんの勇気ある行動が、日夜セクハラ上官に耐えている女性を立ち上がらせる可能性がありますね。
これだけ大問題になったので、さすがに防衛省は女性隊員に対して「防衛省セクハラホットライン」を積極的に周知していると思いますが、 過去の裁判での被害女性は知らなかったんです・・・。
防衛省がセクハラホットラインを積極的に周知していれば、被害を早く止められた可能性があります。
報道によると、示談交渉が進められているようですが、五ノ井さんが金額等に納得しなければ民事訴訟になる可能性もあります。
五ノ井さんは「世間が注目したから重い処分を下したと思われないように、これからはハラスメントに対する処分を厳格化することで、ハラスメントを根絶してほしいです」と述べています。自衛隊はパワハラ事件も多いですし、マジで変わってほしいですね。
【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
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