【2023年法改正】中小企業にも適用「残業60時間超」“割増賃金率”の引き上げとは?

林 孝匡

林 孝匡

【2023年法改正】中小企業にも適用「残業60時間超」“割増賃金率”の引き上げとは?
正社員に限らず全ての労働者が適用の対象に(artswai / PIXTA)

「残業時間が月60時間を超えている...」
「同情するなら、もっとカネをくれ!」

モーレツビジネスマンの残業代が増えます。
割増率が上がるんです。
マシマシなのです!1.25倍 →1.5倍

今までは、残業時間が60時間を超えた場合の割増率は1.25倍だったんですが・・・2023年4月からは1.5倍になります。

大企業に勤めている方はすでに1.5倍なんですが、2023年4月からは中小企業にも1.5倍制度が適用されます。すなわち、全モーレツサラリーマンに1.5倍制度が適用されるんです。 制度の概要を解説します(弁護士・林 孝匡)。

何が変わったのか

図で示すと以下のとおりです。

(出典:厚生労働省)

2023年4月1日から、月60時間超えの残業をした場合、1.5倍の残業代(=50%割増)をいただけることになります。これで、ようやく全企業に適用されることになります。

労働基準法改正によって2010年から大企業には適用されていたのですが、中小企業は免除されていたんです。「残業代を払いまくったら経営がきびしいっしょ」ってことです。

しかし、おなさけ期間は終了となります。13年の時を経て、2023年4月1日から中小企業にも適用されることになりました。

適用対象は全ての労働者です。正社員だけでなく、有期雇用の方、派遣社員、パートタイマー、バイトなど、全ての労働者が月60時間超えの残業をした場合、1.5倍の残業代を請求できます。

残業代の計算方法

こちらも図示しますね。

以下の、激務坂 昇 さん(仮名・37歳)のケースを見てみましょう。

(出典:厚生労働省)

■白色部分
 23日まで結構、残業してますね〜。
 でもこれは通常の残業代です。
 60時間までは1.25倍の残業代となります。

■緑色部分
 24日からは残業時間が60時間を超えることになります。
 なので、残業代が1.5倍となります。

■ 赤色部分
 激務坂さんの会社は、日曜日を法定休日としています。
 ここは、残業代が1.35倍となります(労基法37②・割増賃金令)

白と赤は今まで通りなので、月60時間を超える緑部分が大きな変更になります。

残業代を請求する【以外】の方法

残業が月60時間を超えた部分については、1.5倍の残業代を請求する以外にも、超過時間数に25%をかけた時間分を有給休暇として取得する方法があります(※ ただし、労使協定が締結されている場合に限ります)。

たとえば、残業が月80時間だった場合、
1)まず、60時間までの分の残業代については1.25倍の金額を頂けます。
2)次に、60時間を超えた残りの20時間分については、1.5倍で計算した額を残業代として頂くこともできますし、20時間に25%をかけた5時間分を有給休暇として取得することもできます(労使協定が結ばれていれば)。

すなわち、カネをもらうか休むかを選べます。
詳しくは厚生労働省の資料をご覧ください。

2023年4月1日以降、労使協定というものを確認しておきましょう。労使協定が結ばれていれば、以下の4項目が定められています。

  • 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  • 代替休暇の単位
  • 代替休暇を与えることができる期間
  • 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

これを見て、残業代を請求するか休暇をもらうかを決めましょう。

深夜労働との関係

1.75倍の残業代をいただけます。月60時間を超える残業を、深夜22:00~5:00の時間帯にしていれば1.75倍になります。

25%(深夜労働)+50%(60時間超えの残業)=75%となるからです。

休日労働との関係

60時間の残業時間を超えた後に、法定休日(だいたい日曜日)に出勤した場合、1.3倍しか頂けません・・・。これは何故でしょうね。1.5倍くれよって感じです。

ただし、上記は法定休日のケースです。

会社が指定した休日(法定外休日)に出勤した場合は、キチンと1.5倍の残業代を頂けます。

就業規則をチェック

2023年4月1日以降、就業規則をチェックしておきましょう。
以下のように変更されていることが多いと思います。

1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。

時間外労働45時間以下・・・25%
時間外労働45時間超~60時間以下・・35%
時間外労働60時間超・・・・・50%

まぁ、就業規則が変更されてなくても残業代は請求できるのでご安心を。
変更されてなければ「この会社、法令遵守するつもりないな」という危険信号です。

最後に

今回は、残業代割増率の変更についてお届けしました。

この改正の目的は、あなたの長時間労働をなるべく抑えることにあります。
「残業代かさむなぁ〜、なるべく残業させないでおこう」と企業に思ってもらうための改正です。

残業時間が60時間を超えた場合、1.5倍の残業代をいただけることを押さえておいてください。

ただ、お金を頂いても健康を壊したら元も子もないので、ストレスのかからない働き方をお祈りしています。



【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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