入社前日の「内定辞退」はアウトorセーフ? 不義理と“見なされない”基準とは
コロナ禍の中、2023年卒の就活生は求人ではやや「売り手市場」とも言われ、企業の採用意欲も高まっているようです。したがって、優秀な求職者は、次々と「内定」をゲットすることができそうですが、面倒な面もありそうです。
例えば、企業Aの採用試験で「内定」をもらったが、第一希望の企業Bからも内定をもらい、Aに辞退を伝えたいが大丈夫だろうか、など。心配される方も多いのか、先日ツイッターでも「内定辞退」がトレンド入りしていました。
今回の記事では、
「内定を辞退したいんですが...」
「辞退したら損害賠償請求されるのでしょうか?」
などの疑問にお答えします。
過去の裁判例も解説しますね(弁護士・林 孝匡)。
内定辞退は原則OK
これが大前提なんです。内定辞退は原則OKです。なぜなら民法に書いてあるからです。
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民法627条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
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なので、「内定を辞退させてください」と伝えて2週間たてば、無事“白紙”に戻ります。
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▼法律ばなし
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ななめ読みでOKです。少し難しい話をしますと、内定が出た段階で『労働契約』が成立しています。「始期付解約権留保付労働契約」というジュゲムジュゲム契約です。私はかまずに言えたことがありません(大日本印刷事件:最高裁S54.7.20)。
で、労働契約って、あなた(労働者)から自由に解消を申し入れることができます。それを定めたのが上の民法627条です。
Q.
え?会社の承諾がいるんじゃないんですか?
A.
いりません。恋愛と一緒で、一方的に別れを告げるだけでOKです。
損害賠償請求されるケース(超レア)
ただ、会社は「たまったもんじゃない!」と感じています。多大な採用コストがかかってますから。募集活動、選考作業、内定式、入社前の研修などで、お金も時間も使っています。零細企業の場合、辞退されたらまた新たに採用をかけなきゃダメですし。
それを考慮してか、裁判所は【チョー不義理すぎる辞退はダメ】という傾向の判断をしています。ひとつ裁判例をザックリ紹介します。結果は「この内定辞退はOK」となりましたが。
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▼ 東京地裁 H24.12.28
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広告代理店から内定をもらったXさんのお話です。Xさんは6月に内定をもらい翌年の4月1日から勤務する予定でした。しかし、入社前日の3月31日に内定を辞退。お、ちょっとヤバイかほりがしますが、裁判所は「この内定辞退はOK」と判断。理由はザックリ以下のとおりです。
■前提
内定辞退が著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り、損害賠償請求できる。
■今回のケース
- 内定辞退をしたのはいろいろな理由あり
内定後の3回の研修で、課長から辛辣(しんらつ)な発言を浴びせられていた。「4月1日からはとりあえず1人で営業に出てもらいますけど、あなたは仕事をとってこれないから」など数多く。 - Xさんは、いろいろと悩んでいた。内定辞退が入社日の直前までズレこんだことを重く見るのは、社会経験の乏しいXさんにとっていささか酷
- 3月上旬にはXさんは弁護士を立てて書面を送っていた(事案の概要および法的問題点を検討中との内容が記載されたもの)
さすがに何の理由もナシに、入社前日に辞退すれば“アウト”だと思いますが、今回のケースはいろいろと事情があったので、前日辞退でもOKとなりました。内定辞退をする場合は、なるべく早めに「何らかの理由」を挙げて申し出ることをオススメします。
内定辞退したら違約金?
Q.
「内定を辞退したら、違約金を支払う」という書面にサインしたのですが…
A.
安心してください。そんな書面は無効です。クソ紙です。労働基準法16条違反なので。
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使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
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会社が内定「取り消し」する場合
逆に、会社が「チミ、内定取消しね」とブッ込んでくることがあります。取り消された方からすれば「いやいや、他の会社に断り入れてるのに!」ですよね。
裁判所はザックリ「内定取り消しはカンタンにできないよ」とクギをさしています。内定取り消しできるのは以下のケースです(大日本印刷事件:最高裁 S54.7.20)。
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内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合
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何を言ってるか分からないと思うんですが、まあとにかく内定取り消しは難しいんです。解雇ってカナリ難しいんですが(労働契約法16条)、それに匹敵するくらいです。
この事件では会社が「君、グルーミーだから内定を取り消します」とブッ込んできました(グルーミーとは暗い印象という意味らしいです。ヘンな横文字使うなよ)。裁判所は「そんな理由で内定取り消しちゃダメ〜」と判断しました。
最後に
- 内定を辞退するのは原則OK
- チョー不義理すぎる辞退はダメ
を押さえていただければと思います。まあ普通に辞退してて負けることはないと思います。念のため、なるべく早めに何らかの理由を挙げて内定辞退するようにしましょう。
もし内定辞退が認められずトラブルになった場合は、労働局に相談してみましょう。
これからも働く人に向けて知恵をお届けします。ではまたお会いしましょう!
【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
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