月200時間超「常軌を逸する」残業… うつ病発症の末に「退職扱い」受けた社員の“逆転”
長時間労働を控えよう!という流れが急速に進んでいます。今年の4月からは中小企業でも残業時間が60時間を超えた場合の割増率が1.5倍になりますが、この流れは過去に長時間労働でうつ病になってしまった方が大勢いるからです。
今回はその中の事件を1つ解説します。裁判所が「 常軌を逸するほどの残業時間 」と断罪した事件です(アイフル(旧ライフ)事件:大阪高裁 H24.12.13)。
残業時間がバグっています。社員のXさんは 月200時間を超える残業 が原因でうつ病になってしまいました。Xさんが休職していたところ、約3年後、会社はXさんに退職通知をしました。
そこでXさんが訴訟を提起。結果はXさんの勝訴でした。裁判所は損害賠償請求やバックペイなどを認めました。以下、詳しく解説します(弁護士・林 孝匡)。
事件の概要
会社は個人向け融資やクレジットカード事業を営んでいました(ライフ)。Xさんは昭和36年生まれの男性です。ライフには昭和59年に入社しました。
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▼生き地獄のような働き方
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平成14年4月、コールセンター課に配属されました(おそらく38歳)。その課が扱っていた業務は破産案件や弁護士介入案件で、Xさんは弁護士と交渉などを行っていました。課のメンバーは、係長(直属の上司)、Xさん、3名の正社員、数名のパートタイマーです。あとで出てきますが、この係長は「身体がもたない」と判断して退職しています。後述するとおり生き地獄のような長時間労働だったからでしょう。
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▼うつ病になってしまう
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7月4日、Xさんは突然めまいに襲われたため会社を欠勤しました。病院に行ったところ「うつ状態」と診断されました。直近2か月で 月200時間を超える残業 をしていたことが原因だと思います。Xさんはこの日から出勤していません。そして8月ごろ「抑うつ神経症」と診断されました。
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▼退職扱いの通知
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Xさんは、めまいに襲われた平成14年7月4日〜平成17年10月31日まで約3年3か月間、欠勤しています。会社は、平成17年10月31日、休職期間が終了したとしてXさんを 退職扱い にしました。これは 解雇 のようなものです。
Xさんは11月に労災を申請し、翌年の平成18年8月には労災が下りています。
その後、平成19年12月にXさんは訴訟を提起しました。Xさんの請求は多岐に亘りますが、主な主張は「 退職扱いは無効 である」「会社が 安全配慮義務に違反したから損害賠償請求 する」というものです。
裁判所の判断
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▼退職扱いは無効
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裁判所は「退職扱いは無効」と判断しました。 仕事が原因で病気になった場合、治るまでは解雇しちゃダメ だからです。根拠は以下の条文です。
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労働基準法 39条1項
使用者は、労働者が
業務上
負傷し、又は
疾病にかかり療養のために休業する期間
〜は、
解雇してはならない
。ただし〜
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■「業務上の疾病」って何?
「業務上の疾病」とは、仕事と相当因果関係にある疾病のことを言います。相当因果関係とザックリいえば【それだけの仕事してたら病むよね】と判断できるくらいの関係です。
■本件
それを前提に裁判所は「相当因果関係があるから業務上の疾病ね」と認定しました。主な理由は「Xさんは
常軌を逸した長時間労働
に従事していた」というもの。下記をご覧ください。ヤバイですから。
〈時間外労働※月間〉
・平成14年4月 158時間18分
・同年5月 203時間54分
・同年6月 241時間27分
「業務上の疾病」なので退職取り扱いは無効となりました。そうなると、とんでもない衝撃が会社に襲い掛かります。それはバックペイというものです。
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▼衝撃のバックペイ
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バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。今回のケースでは 約4年6か月分の給料が支払われる ことになりました(H19.12.1〜H24.7.26まで月額約34万円)。
Q.
転職した場合に「バックペイ」は、もらえませんよね?
A.
安心してください。転職してたとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
本件では、給料の他に、退職給付精算金:約66万円、企業年金拠出金:約86万円の支払いを命じました。
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▼ 安全配慮義務違反
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お次は会社の体制について。裁判所はザックリ「会社さんさぁ〜常軌を逸してる長時間労働に気づいてたよね」として、会社の安全配慮義務違反を認めました。
■会社が配慮すべきこと
これは電通事件で示されています(社員さんが自死に追い込まれた事件です)。
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使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っ ていると解するのが相当である(最高裁 H12.3.24)
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■本件
これを前提にして裁判所は「
常軌を逸するほどの長時間労働を会社は十分に把握できた
」と認定しました。具体的には以下の事実を基に認定。
- Xさんは早朝から深夜まで働いていた
- そのことを上司の係長は認識していた
- ライフはわざと(故意に)労働時間を把握しなかった
- ライフはコールセンター課に産業医を選任せず(労働安全衛生法違反)
- Xさんは「人員補充してほしい」と要請したがライフは受け入れず
- 係長自身「身体がもたない」と判断して退職する有様
それにもかかわらず、Xさんの業務量を適切に調整するなどの配慮をしなかったとして安全配慮義務違反を認定しました。
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▼ 認められた金額の内訳
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細かいところは省いて、幹だけを示しますね。
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賃金ないし賃金相当損害金
約304万円 + H19.12.1以降、月額約34万円(これがバックペイ) -
賞与相当の損害金
約556万円 -
退職給付精算金
約66万円 -
企業年金拠出金
約86万円 -
家賃など
約115万円 -
治療費
約25万円 -
慰謝料
200万円 -
弁護士費用
120万円
最後に
Xさんのようにうつ病になる方だけでなく、自死を選んでしまった事件も多数あります。もし心身に不調を感じていれば、 いのちSOS にお電話して下さい。
今年の4月からは残業時間が60時間を超えれば残業代が1.5倍となります。 こちら の記事も合わせてご覧ください
今回は以上です。これからも働く人に向けてお届けします。
【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
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