『死刑映画週間』開催 「戦争」「死刑」を巡る今こそ“見るべき”7作品

弁護士JP編集部

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『死刑映画週間』開催 「戦争」「死刑」を巡る今こそ“見るべき”7作品
上映作品より『チェチェンへようこそーゲイの粛清』©MadeGoodFilms.com

「死刑」をテーマとした映画7作品を上映する「第12回死刑映画週間」が、2月11日(土)〜17日(金)に東京・渋谷のミニシアター「ユーロスペース」で開催される。

“死刑肯定派”も「歓迎です」そのワケは…

死刑映画週間は、死刑廃止を訴える市民団体「フォーラム90」が2012年より開催している映画祭。毎日1回、上映終了後に映画監督、研究者、評論家ら、作品のテーマに沿ったゲストを迎え、トークショーも実施する。

主催者のひとり、可知 亮(かち りょう)さんは「いくら大きな声で『死刑廃止』と言っても、多くの人は自分事として考えづらい。映画を通すことで、身近な問題として考える糸口になれば」と語る。

訪れる人は、必ずしも「死刑廃止」に賛同しているとは限らない。しかし可知さんは、死刑に肯定的な意見を持つ人たちも「誤解を恐れずに言うならば、むしろ歓迎です」と言う。

「上映後のアンケートには毎年、本当にさまざまな意見が寄せられます。たとえ死刑肯定派だったとしても、アンケートに答えようと思うくらいなら、映画を通して“何か”を感じてくれたということ。

『映画を見て死刑廃止に賛同してね』と伝えたいのではなく、まずは『死刑』そのものや、日本において死刑が廃止されていないことについて考えるきっかけになればうれしいです」(可知さん)

今こそ“見るべき”7作品

12回目の開催となる今年のテーマは「国家と戦争犯罪と死刑」。ロシアによるウクライナ侵攻や、イランで髪を隠す布「ヒジャブ」の着用を巡って逮捕された女性が急死し、それをきっかけに抗議が続いている今こそ“見るべき”7作品が選ばれている。

「国家は、人の命を奪う手段である『戦争』『死刑』というふたつの権利を当然のように持っています。しかし戦争も死刑も『人を殺してはいけない』という“当たり前”のことをないがしろにしているという点においては同じです。

なぜ国家だけが人を殺す権利を持っているのか、国家が法の下に『やってはいけない』と言っていることを国家自身がやってもいいのかという問題提起が、作品を通して少しでも伝わればと思います」(前出・可知さん)

上映7作品は以下。

●白い牛のバラッド

監督・脚本=ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム(2020年/イラン、フランス/DCP/105分)©Backstory,LLC.All Rights Reserved.

夫を殺人罪で死刑に処せられた1年後、裁判所から冤罪だったと告げられた女性。担当判事に謝罪を求める中で夫の旧友という男性に出会い、やがて想像もしなかったような真実を知ることになる。

●海と毒薬

監督・脚本=熊井啓(1986年/日本/35ミリフィルム/123分)©滝島恵一郎

1945年5月、敗戦色濃い九州。撃墜されたB29搭乗員の米軍捕虜を生きたまま解剖する実験を行うという軍の命令、そして学部内で起こる教授らの権力闘争に翻弄される帝大医学部の若き研究生たちの葛藤を描く。

●愛は降る星のかなたに

監督=斎藤武市(1956年/日本/BD/94分)©日活

ソ連のスパイが日本で諜報活動などをした「ゾルゲ事件」に関わったとして、太平洋戦争の開戦直前に逮捕され死刑になったジャーナリスト・尾崎秀実(ほつみ)の人生を描く。

●悪は存在せず

監督・脚本=モハマド・ラスロフ(2020年/イラン、ドイツ、チェコ/BD/151分)©Film Boutique

日常を淡々とこなすかのように見える中年男性の職業が明かされる『悪は存在せず』ほか、死刑を取り巻く4作品のオムニバス。第70回ベルリン国際映画祭(2020年)で金熊賞受賞、第33回東京国際映画祭(同年)ワールドフォーカス部門上映作品。

●チェチェンへようこそーゲイの粛清

監督=デヴィッド・フランス(2020年/アメリカ/DCP/107分)©MadeGoodFilms.com

ロシア支配下・チェチェン共和国で国家が主導する“ゲイ狩り”から逃れるため国外脱出を試みる性的少数者たちと、彼らの救出を支援する活動家たちに焦点を当てたドキュメンタリー。命の危険にさらされた避難者にはフェイスダブル技術を用いて顔を変えることで、身元を保護しながら自らの経験を語ってもらうことを実現した。

●抗いー記録作家 林えいだい

監督=西嶋真司(2016年/日本/BD/100分)©RKB毎日放送

福岡県筑豊に渦巻く負の歴史を記録してきた作家・林えいだいを追うドキュメンタリー。太平洋戦争の終戦直前、朝鮮半島出身の特攻隊員・山本辰雄伍長が特攻機に放火したとして銃殺された事件について、民族差別による冤罪を疑った林は真相に迫ろうとする。

●顔のないヒトラーたち

監督=ジュリオ・リッチャレッリ(2014年/ドイツ/DCP/123分)© 2014 Claussen+Wöbke+Putz Filmproduktion GmbH / naked eye filmproduction GmbH & Co.KG

ナチスドイツへの歴史認識が大きく変わるきっかけとなったアウシュビッツ裁判(1963年)が始まるまでを描いた作品。多くのドイツ人が戦争の記憶を忘れかけていた1958年、担当検事は強制収容所の実態を知る証人探しを始めるが、当局の強い抵抗に苦戦する。

国際的には「死刑廃止」が潮流も…取り残される日本

国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によれば、2020年12月31日の時点で法律上・事実上(※1)死刑が廃止されている国は144カ国。日本を含む死刑存置国は55カ国であり、先進国ではアメリカと日本のみが、いまだに死刑を廃止していない。

(※1)死刑が10年以上執行されていない国などを「事実上」廃止としている

そのアメリカでも州レベルでは死刑廃止が進んでいる一方、日本においては廃止に対する国民の関心が低く、議論が進んでいないのが現状だ。

■第12回死刑映画週間「国家と戦争犯罪と死刑」
期間:2月11日(土)〜17日(金)
場所:ユーロスペース 東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3F
料金:一般1500円他
※上映スケジュールなど詳細はユーロスペースHPで要確認
http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000654

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