広域強盗事件“ルフィ”と接点があった「お笑い芸人」 過去の“逮捕歴”扱うのは「人権侵害」にあたる?
人気芸人Kが思わぬところで名前があがり、ピンチに陥っている。
昨年から全国で10件以上発生している一連の連続強盗事件で、警視庁は9日までに、フィリピンから強制送還された特殊詐欺グループの4人の男を、いずれも移送中の機内に同乗していた捜査員が、特殊詐欺事件に関与した窃盗の疑いで逮捕した。
日本中が注目するこの事件。容疑者のうち誰かが、人気アニメ「ワンピース」の主人公からとった”ルフィ”のコードネームを使用していた主犯格であるとして捜査を進める方針だ。
しかし、この容疑者のうちの1人のW容疑者が起こした事件に関係したとして、”ヤンチャ時代”の過去が報じられてしまったのが、人気芸人Kである。
過去の逮捕歴報道に「人権侵害」の申し立て
詳細を報じた写真週刊誌「FLASH」によれば、北海道出身のW容疑者の”下っぱ”だった男が、W容疑者から「以前、札幌で窃盗をやって逮捕されたけど、そのときに俺に使われて共犯者として捕まったのが、あのK(編集部注=記事では実名)なんだ」と聞かされていたという。
2012年にW容疑者が札幌市中央区のマンションの一室から、現金1000万円の入った金庫を盗んで逮捕された件で、当時、飲食店に勤めていたデビュー前のKも逮捕されたという。
「Kは2019年放送のテレビ番組でもこの事件について話しています。この事件では、本人は不起訴になりましたが、それ以前にも、『週刊文春』に2011年11月に女子高生に売春のあっせんをしていたとして、逮捕歴があることを報じられました。この時も罰金刑で済んだようです」(週刊誌記者)
“元ホストのチャラ男”として売っているKだが、話題の事件の主犯格との接点を蒸し返され、センセーショナルに報じられてしまった訳だ。
「文春に逮捕歴を書かれたときは、所属事務所は『人権侵害』であるとして、『日本弁護士協会』に救済申し立てをしました。当時は”禊(みそぎ)は済んでいる”として受け入れられていたが、今回はSNS上で、心配の声と非難の声が同時に巻き起こり、大騒ぎになっています」(週刊誌記者)
「プライバシー権」の原点とは
不起訴になったことで、終わったはずの逮捕歴を報じられてしまうことは「人権侵害」にあたらないのか。犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう答えた。
「憲法の観点から厳密に言うと、人権侵害=すぐに問題というわけではなくて、『侵害はしているけどその侵害が正当化される』という類型が多数あります。プライバシー権は原点に返ると、the right to be let alone(1人でほうっておいてもらう権利)とも言われており、公開を望まない事実を公開されることによりプライバシー権への侵害はあります。それが正当なのかというところが議論の対象でしょうね」
一方、さるテレビ局関係者はこう話す。
「昨年の24時間テレビでKはマラソンランナーを務めましたが、その時点で、過去の事件についても公にしており、”更生した”という演出ができた。しかし、今回は、テレビ局は難しい対応を迫られることになっている。過去の罪について、終わった話とは言え、話題がホットすぎるため、スポンサーが嫌がるリスクは拭いきれません」
実際、イベントでのトークショーが中止になったり、CMキャラクターを務める動画が公式サイト上で非公開になるなど、Kの仕事への影響は出始めているのだが、こうした企業スポンサーの対応は、人権侵害と言えないか。杉山弁護士の話。
「これは当然ですよ。スポンサーは人権として仕事を提供しているわけではなく、自社のイメージアップなどのために、多額の報酬を払ってタレントを起用しています。犯罪というワードと自社を結び付けられたくないのも、少しでも良いイメージに資する人間を使うのにお金を払いたいのも当たり前です」(杉山弁護士)
報道関係者の「姿勢」も問われる
ちなみに、一般人の場合でも、何かで逮捕された場合、警察発表により実名で報道され、その後、不起訴になってもその事実は報道されないという事態はよくある話。こうしたマスコミの姿勢について、杉山弁護士は、「かなり否定的」だと言う。
「逮捕は捜査の入り口に過ぎず、警察はあくまで公平な立場ではなく、追及する側であり、わかっていることなんてほとんどない方が通常です。せめて自身で事件について警察以外からも調査したものだけが、捜査段階で報道する資格があります。
『警察が言っているからおおむね正確だろうし、間違っていても法的責任を取ることがないのでいいや』とそのまま発表を垂れ流す行為は悪質です。このような報道側の怠惰な姿勢は、捜査機関にも餌付けのように利用され、冤罪(えんざい)事件では、しばしばその背景に、警察と報道との共犯関係も見られてきているところです」
報道機関にとってはいささか耳の痛い話だろうが、Kの場合にも、それは当てはまるだろうか。
「基本的に、やはり評価は慎重であるべきですが、逮捕の事実自体は隠し難いところなどが、一般人とは異なるところだとは思います。特にコンプライアンスの観点からは、前述のスポンサーの問題などのように、直ちに着手しなければイメージへの被害が生じ続けるケースもあるので、少なくとも仕事面に影響が出てくるのは回避し難いところもあります」
つまり、Kはテレビで活躍するお笑い芸人という”半公人”であるため、報道には意味があるという考え方も成立する訳だ。杉山弁護士はこうまとめる。
「Kが過去のその件での逮捕において、20日ではなく10日の釈放から不起訴で終わっているなら、早々に違法ではないという扱いになったのかもしれませんし、現状でKを本件について『ルフィ』の共犯者と扱う根拠はないと思います。スポンサー側としては、そもそもの過去の人間関係自体が今後もリスクとして意識されるでしょうけど、私がとやかく言うところではないなと思っています」
いずれにせよ、騒動はまだ収束が見えない。今後、Kの露出はどうなっていくのかは、気になるところだ。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。