「夜勤ができないなら…」看護師に“退職強要” 追い込まれても“絶対に”「退職届」を出してはいけないワケ
「キミ、辞めるしかないよね」
「退職届を出してくれないかな」
「ねぇ」
「おい!」
「はよ!!」
これを退職強要と言います。違法です。先日、看護師の女性が病院を訴えたニュースがありました。上記の文言は架空ですが、看護師さんは病院から【退職を強要された】と主張しています。
報道によると、看護師さんは夜勤の免除を申し入れたようです。理由は夫が転勤して単身赴任となり小学生の子どもの面倒を見る必要があったというもの。
すると病院は「夜勤ができないなら常勤雇用はできない。パート契約になる」として、退職届を出すよう催促し続けたようです。
過去の同種裁判では、ほぼ軟禁状態で何時間も追い込んだ事例があります。今回の裁判での焦点は【説得の手段や方法が社会通念上相当と認められる範囲を超えていたのか】だと思います。
退職強要と退職勧奨の違いや過去の裁判例などもお伝えします(弁護士・林 孝匡)。
退職勧奨とは
退職勧奨とはカンタンにいえば「ユー、辞める気ない?」と持ちかけることです。こういったライトなものであれば合法です。法律的には【合意解約の申入れ】と言います。恋愛でいうところの「別れてほしいんだけど」みたいなものです。
こう切り出されたら恋愛なら別れるしかないんですが、会社は別。従業員には【退職しない自由】があります。
従業員と会社とは労働契約で結ばれているので、従業員が「ヤダ、辞めたくない」と言えば会社が一方的に切ることはできないんです。
一方的に切る場合は解雇という手段を選びます。しかし解雇すると会社はリスク大なんです。従業員が「解雇は無効だ!」と弁護士事務所に駆け込んで訴訟を提起すると会社が負ける可能性が高いからです。
退職強要
というわけで、会社は何とか退職届をゲットしようとゴリッゴリに追い込んでいきます。【自分から辞める】という退職届さえゲットすれば会社はほぼ勝ちだからです。このゴリッゴリの追い込みを退職強要と言います。違法です。
Q.
どんなものが退職強要になるんですか?
A.
コレをしたら強要になるという具体的な基準はないんです。裁判所が示している一般的判断基準は【説得の手段や方法が社会通念上相当と認められる範囲を超え、労働者の自由な意思形成を不当に妨げたよるような態様でされた場合】は違法というものです。
過去の裁判例
ゴリッゴリの追い込みには色んな種類があります。下記、すべて違法です。
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▼ いじめ、嫌がらせ
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■ エール・フランス事件:東京高裁 H8.3.27
複数の上役が従業員に対して暴力を振るうなどのいじめを繰り返す。無意味な仕事を割り当てる嫌がらせをし、孤立化もさせて追い込む。
■ 国際信販事件一東京地裁 H14.7.9
激務に追い込む。上司たちは助け舟を出さない。「1日中、机の前に座っているように」との指示を出す。ホワイトボードに【永久欠勤】と書くイジメ。
詳しくはコチラ(私のブログです。事件を詳しく解説しています)。
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▼人事上の措置(降格、転勤など)
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■ 新和産業事件:大阪高裁 H25.4.25 社長が課長のことを嫌っていた。そこで「営業成績が悪い」として退職勧奨を繰り返し、倉庫係へ降格させる嫌がらせ(給料が半額に...) 。
といった感じで、会社は目ぇバッキバキで追い込んできます。従業員からの退職届をゲットするためには手段を選びません。
退職届を出してしまうと
Q.
追い込みに耐えきれず、退職届を出してしまうとどうなるんでしょうか?
A.
会社に復職できない可能性が高いです。退職届を出したことで辞職または合意解約と【ほぼ】認定されるからです。
Q.
ほぼ?
A.
例外的ケースですが、【錯誤または脅迫】との理由で退職が無効になり、復職できることもあります。
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▼ 錯誤(=勘違い)
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■ 昭和電線電機事件:横浜地裁川崎支部 H16. 5.28
退職願を提出しなければ解雇にすると言われたケース。
■ 富士ゼロックス事件:東京地裁 H23.3.30
自主退職しなければ懲戒解雇にすると言われたケース。
■ ピジョン事件:東京地裁 H27.7.15
休職中の方が会社から配転命令を受けた。通勤に5時間もかかる無効な配転命令。それに応じなければ職場に復帰できないと信じ込んで自ら退職した。退職は無効。
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▼ 脅迫
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■ ニシムラ事件:大阪地裁 S61.10.17
会社から「許可していないおやつを購入したことが横領罪にあたる。退職しなければ懲戒解雇や告訴も考えている」と脅迫されて退職届を出したケース。
上記は例外的ですね。退職届を出しちゃうと基本、職場には戻れないと考えてください。
最後に
なので、ゴリッゴリの退職強要を受け始めたら早い段階で労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
退職強要を受けている状況を録音するのも手です。今回のニュースの看護師さんのように勤め先を訴える時には絶大な力を発揮します。裁判では言った言わないの水掛け論になるので録音は最強です。
Q.
私が書いたメモや日記は証拠になるんでしょうか?
A.
一応証拠になりますがチョ〜弱いです。録音がピストルだとすれば日記は、水鉄砲です。ちょいと相手を濡らすことはできるけど...レベルです。ベストはピストルで撃って、さらに水鉄砲でトドメですね。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
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