「“労災”除外は時代錯誤」弁護士らも訴え 厚労省“家政婦”の働き方実態調査を開始

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「“労災”除外は時代錯誤」弁護士らも訴え 厚労省“家政婦”の働き方実態調査を開始
厚生労働省の職員に労基法改正を求める署名を手渡す支援者ら(11月9日 都内/弁護士JP編集部)

この2月から、厚生労働省が家政婦などの「家事使用人」の働き方を把握する実態調査を行っていることが、独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトなどから明らかになった。

国は現在、家事使用人について、個人間の契約により「家庭内」で働いているとして、事業者の指揮命令があった場合を除いて「労働基準法」を適用していない。

この規定により、家政婦兼介護ヘルパーとして住み込み勤務の末に亡くなった女性=当時68歳=の労災が認められず、遺族が国を訴えた裁判が現在東京高等裁判所で行われている。遺族と支援者らは、労働基準法の改正も求め、昨年11月9日に集めた署名約3万通を厚生労働省に提出した。

これらの動きを受けて、11月17日の参議院厚生労働委員会において、加藤勝信厚生労働大臣は家事使用人の実態調査の意向を示し、「調査結果を踏まえ、労働者の保護の観点から、どういった対応が必要なのか検討していきたい」と答弁していた。

裁判で原告代理人を務める指宿昭一弁護士は、今回の調査について「実態をみれば家事使用人が一般の労働者と変わらないことがわかるはずだ。しっかりと調査を行って、国は労働者を保護するための政策に反映してほしい」と語った。

家事使用人の働き方の実態が明らかになるのは60年ぶりとなる。

24時間×1週間=168時間拘束でも「過重業務とは認められない」

現在行われている家事使用人に対する労災の認定をめぐる裁判では、女性の「労働者性」が争点になっている。

女性は訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)で、家政婦兼介護ヘルパーとして、利用者宅に1週間住み込みで業務を行った末に亡くなった。遺族は業務による過労状態が死を招いたとして労災を申請したが、女性が「家事使用人」であるという理由で不支給となった。その後、審査請求、再審査請求も退けられ、遺族は2020年に国を相手に労災認定を求め提訴した。

昨年9月、東京地方裁判所(片野正樹裁判長)は、“ヘルパー”として行った介護業務についてのみ、事業者からの「指揮命令」があったとして労働者性を認めたが、一方の”家事部分”については「個人間の契約」であるとし認めなかった。判決では、介護と家事の業務時間を分け、介護業務を行った時間だけを算出し「過重業務だったとは認められない」と遺族らの訴えを退けた。

しかし遺族らによれば、女性の業務は食事の準備、買い物、清掃、2時間おきのおむつ替え、不定期におこる失禁への対応など家事と介護が混然一体になっており、時間で業務を区別することはできないはずだと訴え控訴した。

「妻は労働者ではないのでしょうか」

厚生労働省は介護保険サービスに関する通達(※)の中で「利用者本人分の料理と同居家族分の料理を同時に調理するといった、訪問介護と保険外サービスを同時一体的に提供することは認めない」としている。

(※)厚生労働省老健局「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(平成30年9月28日)

しかし、1月24日に東京高裁で行われた控訴審の意見陳述で、女性の夫(75)は女性の業務内容について「調理一つとっても、口に入れるものはすべてやわらかいペースト状にする。ご飯はミキサーにかける。会社から渡されたタイムスケジュール表には事細かく指示されていました。それに加え利用者の息子の食事の準備まで指示されていました」と述べ、「妻は(介護と家事)同時一体の仕事を“指示”されていました」と訴えた。

女性に事業者から支払われる賃金も、介護部分と家事部分の区別はなされていなかった。「妻は労働者ではないのでしょうか」という夫の問いかけに、司法はどう答えるのだろうか。裁判はWebでの争点整理などを経て、第2回の弁論が開かれる予定となっている(期日は未定)。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア