経理部から「清掃スタッフ」へ異動“提案”… 「うつ病発症」の社員を追い詰めた“退職強要”の中身
悪魔の二者択一。
「この部署に異動してよ」
「イヤなら辞めるしかないね」
異動の時期です。上記のような迫り方されてませんか? 経験に見合わない部署への異動をチラつかせて、退職を迫ってくるやり方です。
今回はそんな迫り方をされた事件を解説します。裁判所は「違法な退職強要だ。慰謝料30万円を払え」と命じました。以下、くわしく解説します(エターナルキャスト事件:東京地裁 H29.3.13)(弁護士・林 孝匡)。
どんな事件か
会社は居宅介護支援などを行っていました。Xさんは経理業務を担当(入社当時49歳くらい)。約1年8か月で退職に追い込まれてしまいました。
Xさんは経理処理に間違いが多いなど仕事の覚えが良くなかったようです。別の従業員が補助したり確認するようになったんですが、その後も改善が見られず。
精神的に追い詰められていったのか、仕事中に過呼吸状態になることもあり、応接室で横になって休憩することもありました。
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▼精神的に不安定な状態に
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入社して半年後くらいから業務量が増えていき、めまい、ふるえの症状が出るようになりました。そこで診察を受けました。
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▼経理の主担当から外される
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それ以降もいろいろとミスが重なり、会社はXさんを経理の主担当から外し、経理の補助と電話対応業務するよう命じました。
社長はもうXさんに見切りをつけていたのかもしれません。Xさんに対して「経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ」と言い放ちました。
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▼労働局&弁護士へ駆け込む
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Xさんが動きます。まずは労働局にあっせんの申し立てをしました。しかし会社は参加せず。なのでXさんは弁護士に交渉を依頼しました。弁護士は会社に「退職強要をやめなさい、経理業務に戻しなさい」と要求しました。
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▼社長がブチギレる
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すると社長がブチギレます。以下の言葉などをXさんに放ちました。
- 「弁護士通じて言いやがってよ。何でてめえの口で言わないんだよ」
- 「俺はあんたを許さない。別に経理の仕事をしたいならすればいい。絶対ミスるな。失敗したら損害請求する」
- 「経理の仕事できないだろう。できない奴に経理の仕事をやらせるのか。他の会社を受けてみろ」
- 「みんなおまえを最悪って言ってたぞ。みんなを敵に回したんだぞ。ばかなことをしたな。それで人生駄目にするんだ」
- 「おいアホ。なんなんだよその言い方は。てめえのせいでこうなってんだぞ」
- 「こんなレベルでは、小学生の方がまし」
こんな暴言を浴びせながら、壁に向かってペットボトルを投げつけたりしました。社長の部下2名もXさんに対し「今後仕事で重大なミスをしたときは責任をとって退職する」という内容の承諾書の作成を強要しました。
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▼ムズイ仕事を振る
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嫌がらせも始まります。会社はXさんに対して、専門的な知識や経験が必要な難しい仕事を振りました。そしてこんな言葉を。
- 「君はミスが多いので経理の仕事は任せられない。今回のことで能力が欠けていることも分かったので本社に仕事はない。」
- 「何ができるのか、1時間で考えろ」
- 「他社で経理をすることは考えないのか」
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▼清掃の仕事を提案する
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Xさんはこの会社に入る前も経理の仕事をしていたんです。経理の力を買われて入社したのですが、会社が【清掃スタッフ】への異動をチラつかせます。
- 「掃除スタッフでいいのですか。嫌だったら違う道を考えた方がいいのではないか」
- 「弊社としては、Xさんの出してきた結果を踏まえて、掃除スタッフを命じる。パート契約。将来設計を考えて、こんなのはやってられないというのであれば、辞めてもらうのも構わない」
などと述べて、パート社員として清掃業務に従事するか、退職するかの選択を迫り、Xさんを退職に追い込もうとしました。
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▼うつ病と診断される
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翌日病院にいったところうつ病と診断されました。
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▼休職命令 → 自動退職
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会社はXさんに対して3か月の休職命令を出しました。3か月後、Xさんは自動的に退職となりました。以下の就業規則に基づく措置です。
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従業員が、次の各号のいずれかに該当するに至ったときは退職とし、次の各号に定める事由に応じて、それぞれ定められた日を退職の日とする。
(3)休職期間が満了しても休職事由が消滅しないとき期間満了の日
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Xさんの主張
Xさんは訴訟を提起。主な主張は「この会社の社員であることを認めてください(地位確認)」「退職強要を受けたので損害賠償請求をします」というもの。
裁判所の判断
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▼退職強要について
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裁判所は「以下の退職強要は違法。慰謝料30万円を払え」と命じました。
- 上記の社長のブチギレ
- ムズイ仕事を振って辞めさせにかかる
- 清掃の仕事を提案する
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▼休職期間が終了したらゼッタイに退職?
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裁判所は「休職期間が終了したことを理由とした退職は無効」と判断しました。「うつ病は【業務上】発生してるよね、だから自動退職はダメ〜」ってことです。下記条文に書かれています。
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労働基準法19条
使用者は、労働者が【業務上】負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。(以下略)
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裁判所は「社長らの退職強要でうつ病が悪化し仕事ができなくなった。これは【業務上】の疾病だ。なので自動退職はダメ。Xさんは会社の社員であることを認めます」と判断しました。
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▼衝撃のバックペイ
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自動退職または解雇が無効となれば会社に衝撃が襲いかかります。バックペイというものです。バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。
今回のケースではザックリ、約2年4か月分の給料の支払いを命じました(平成26年11月〜平成29年3月)。もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
最後に
今回の事件では配転命令までは出されませんでしたが、【嫌がらせ目的】での配転命令は無効です(東亜ペイント事件:最高裁 S61.7.14)。もし嫌がらせで配転されそうなら社外の労働組合か弁護士に相談してみましょう。
あと、診断書、チョー大事です。心に不調を感じ始めたら病院に行って診断書をとっておきましょう。さらにブチギレ上司と面談するときは録音必須です。【録音+診断書】であなたの請求が認められる可能性が高まります。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1
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