強風で“落ち葉”や“瓦”が飛来し自宅に被害… 誰を訴えればいいの?
寒さが少しずつ弱まり、花粉症の人にとっては涙ぐましい季節が到来している。風に運ばれてやってくる厄介者といえば、この時期であれば断然花粉となるだろうが、一年を通して考えるとそればかりではない。
たとえば冬には近隣の林や街路樹などから大量の落ち葉が舞い込んでくる。台風シーズンには、デンジャラスな大物が飛んでくることも。洗濯物程度なら笑って済ませられるところだが、SNSでは大量の落ち葉の処理に手間取った、強風で看板、瓦やブルーシートなどが飛んできた、ガラスが割れるなど被害を受けたといった報告もある。
こうした大小さまざまな物が自宅の庭などに“飛んできて”実害が出た場合、その処理や修理にかかる費用の支払いなどの責任はどこにあるのだろうか。
落ち葉などは我慢できる範囲なら請求は難しい
たとえば新緑の季節、青々としげった若葉は目の保養となるが、これらは冬になると大量の落ち葉となって舞い降りてくる。手に届く範囲は定期的なケアで対応できるとしても、いつの間にか雨どいが詰まり、不具合や破損につながることも。損害が発生した場合、修理などにかかった費用を木の持ち主に請求できないのか。一般民事の調停や訴訟を多く扱っている大竹惇之弁護士に話を聞いた。
「落ち葉や木の実がどこから飛んできたかが特定できる場合は、国家賠償法の事例があります。国の管理する河川の堤防上に生えるケヤキの落ち葉が、受忍限度内であるならば違法ではないとした判例です(最判61.7.14)。この判例を私人間の場合にも適用できるとするならば、被害が受忍限度を超える場合は、雨どいの修理代などの損害賠償請求ができると考えられますね」(大竹弁護士)
『受忍限度』というのは、社会通念上、我慢ができる範囲。手間がかかるとは言え、大量の落ち葉を集めて捨てる程度であれば、受忍限度内となるようだ。しかも、ここまではあくまでも木の持ち主を特定できた場合の話で「落ち葉などがどこから飛んできたものなのか、木の所有者が不明であれば、損害賠償の請求は難しいでしょう」と大竹弁護士は補足する。
強風で飛ばされた大物による被害は?
台風の猛烈な風やいきなりの突風は、布団や看板、瓦などさまざまなものを舞いあげる。落ち葉が数で攻めてくるのに対し、これらは一発でガラスが割れるなど、家屋や車が破損することもある。ふだんは考えられないような強風が吹いたとなれば、仕方ない面もありそうだが、持ち主に弁償してもらうことは可能だろうか。
大竹弁護士は、飛んでくる前の保管状態が重要だと説明する。
「民法717条1項は“土地の工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う”としています。したがって瓦がはがれていたのに放置していた場合や、ブルーシートを飛ばないように固定していなかった場合などには瑕疵が認められ、損害賠償を請求できるでしょう。
一方で、所有者の瓦やブルーシートなどの設置に瑕疵がないこともあります。通常の悪天候ならば吹き飛ばないくらいの安全性は確保していたものの、予測できないほどの強風で飛んで行ってしまったような場合です。こういったケースでは、損害賠償請求できない可能性があります」(同)
台風では、自宅から何かが飛んでいく可能性もある。よそ様に迷惑をかけないためにも、台風前などには吹けば飛ぶような置き方をしているものがないか、気をつける必要がありそうだ。
ところで、飛来物によって家屋などが被害を受けたとしても、その持ち主が特定できないこともあるだろう。そんな場合も含め、処理の費用などが泣き寝入りにならずに済むよう、取れる対策はあるのだろうか。
「暴風で飛んできたものが家の窓ガラスなどを破壊した場合には、火災保険等により補償されることがあります。また、車が傷ついた場合には車両保険によって補償される場合もあります。もしもの場合に備えることも大切です。普段から雨戸をつけておいたり、車にはカバーをかけておいたりするなどの対策を講じることも有効といえるでしょう」(同)
飛んできたものは勝手に捨てちゃダメ!
被害を受けた場合も含め、実際に何かが飛んできたときは、まずどう処理すればいいのだろうか。
「持ち主がわかる場合にはまずその人に連絡します。持ち主がわからない場合には警察に連絡をしましょう。やってはいけないのは、飛来してきたものを勝手に処分してしまうことです。遺失物横領罪に問われる可能性すらあるので、注意してください」
持ち主がわからないからといって、うっかり捨ててしまうとアウトになる恐れも。自ら処理はせず、警察に任せた方がよさそうだ。
最後に番外編となるが、風が運ぶというよりは、もっと高いところから落ちてくる物もある。飛行機からの落下物や宇宙からの隕石(いんせき)がそれだ。こうした想定外の落下物によって家屋が被害を受けた場合は、誰か救ってくれるのだろうか。
「飛行機からの落下物であれば、航空会社に損害賠償請求できる可能性があります。航空会社を特定できない場合には、航空機落下物被害救済支援制度も存在しますよ。一方、隕石の場合は、保険で対応するほかないでしょうね」(同)
ちなみに、国土交通省によると、航空機到着後の点検で航空機の部品がなくなっていることが確認された「部品欠落」は、2021年度の場合、1064個が報告されている。隕石に遭遇する確率はグンと低くなりそうだが、最近では2020年に千葉県習志野市や船橋市に落下したケースも。
花粉症にマスクや薬が役立つように、飛来物や想定外の落下物にも打つ手はある。落ち葉のように毎年飛んでくるものもあれば、ごくまれに飛んでくるものもあるだけに、自分がどこまで備えるかは、風が穏やかな日に一考しておくといいかもしれない。
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