盗撮動画「100億円市場」で広がる悪質手口…「トイレ 盗撮」検索キーワードで暴かれる“犯人視点”とは
盗撮の検挙件数が急増している。警察庁の統計によると、2021年の検挙件数は5019件で、1930件だった2011年から10年で約2.6倍に。盗撮に使用された道具はスマートフォン・携帯電話が8割近くを占めたことから「スマートフォンの普及による急増」と報じられた。
しかし、20年以上にわたり盗撮犯罪の撲滅に取り組む「全国盗撮犯罪防止ネットワーク」代表の平松直哉さんは「(統計は)氷山の一角にすぎない」と表情を曇らせる。
直径1ミリのレンズで4K動画が撮れる
たしかに、スマートフォンには夜間撮影や画像補正にも対応した高性能のカメラ機能、大容量のメモリー、5Gによる通信速度、Wi-Fi機能、長時間の動画撮影機能と、平松さんによれば「盗撮に適した条件がすべてそろっている」という。
「ネットオークションや盗撮系の会員制サイトなどでは、スマートフォンをさらに改造(いわゆる“魔改造”)したものが販売されています。今年2月に京都府警に逮捕された40代の男(マニアの間では“カリスマ撮り師”と言われ、約12年の間に盗撮動画で1億5000万円以上を売り上げたとされる)も“魔改造”されたスマートフォンを使用していました」(平松さん)
しかし、20年以上にわたり盗撮犯罪と向き合ってきた平松さんたちがもっとも恐れているのは「基盤ユニット型カメラ」の存在だという。
「統計上、盗撮に使われた道具としてスマートフォン・携帯電話の割合が多くなっているのは、誰もが持ち歩いているツールであり、撮影しているところを現行犯逮捕されているから。基盤ユニット型カメラを含む小型カメラは、設置してしまえば大容量のSDカードやWi-Fiでクラウドに保存して後日回収することができるため、犯行が特定しづらい(逮捕されていない)というだけの話です。
基盤ユニット型カメラは、直径1ミリ程度のレンズで4K動画を撮影できるほどの高画質であることに加え、長時間録画・録音も可能です。圧倒的にコンパクトであることから、汚物入れ、芳香剤のキャップ、換気口、コンセント、ネジなど、さまざまな形に変えて設置されているという脅威があります」(平松さん)
「これらは大手通販サイトでも簡単に、しかも安いものなら2000〜3000円程度で、高くても2〜3万円程度で購入可能です。みなさんが普段使っている通販サイトで『超小型カメラ』『スパイカメラ』『基盤型カメラ』などと検索すれば、盗撮に悪用されるカメラが驚くほどたくさん出てきますよ」(平松さん)
盗撮から身を守るためにできることは?
一般的に、盗撮カメラが設置されていないかを確認する方法としては
- 盗撮カメラから発信されている赤外線をスマートフォンのインカメラで探す
- 盗撮カメラを探知するスマートフォンのアプリを使う(レンズに反応するもの、Wi-Fiに反応するものなどがある)
といった方法が紹介されている。
しかし、平松さんは「カメラ性能が向上したことで、最近はトイレの個室のようにある程度暗い場所でも、赤外線なしで撮影できるカメラが増えています。またアプリを使うにしても、先ほどお話しした『基盤ユニット型カメラ』はレンズの直径が1ミリほどしかなく、あらゆる場所に設置できてしまうため、個人がトイレを使う度に毎回くまなくチェックするのには、限界があるのではないでしょうか」と言う。
「盗撮の手口は驚異的に“進化”を続けていて、対策もどんどん難しくなってきています。それに対して私たちがまずできるのは『犯人の視点を知ること』です。
インターネットで『トイレ 盗撮』と検索すれば、あらゆる“犯人視点”の画像が出てくるかと思いますが、まずはここで、盗撮の手口とカメラの設置場所がよくわかるよう、盗撮カメラの目線で撮影された写真や、盗撮カメラが隠されやすい場所の一例を見ていただければと思います」(平松さん)
トイレ盗撮は「顔もセットで撮られる」
日本における盗撮動画の市場は「100億円規模」と言われているという。
「盗撮被害に『私は大丈夫』はあり得ません。いろいろなところに性的嗜好があるため、すべてが商品になってしまうのです。
トイレ盗撮では通常、カメラを3〜4台設置して、①どういう顔の人が ②どんな姿や表情で ③どんなものを出すのかを撮影しようとします。洗面台にカメラが設置されているなど、顔がしっかりと撮影されてしまうケースも珍しくありませんが、動画や画像が一度ネット上に流出すれば、『デジタルタトゥー』として半永久的に残ってしまいます」(平松さん)
現在、日本には盗撮行為を直接的に取り締まる法律はなく、軽犯罪法違反、迷惑防止条例違反、不法侵入罪、児童ポルノ規制法違反など、事件の内容によって既存の法律をなんとか当てはめ取り締まっている状況だ。
盗撮が急増する中、法制審議会は今年2月、盗撮を含む性犯罪への対処を目的とした法整備として「撮影罪」の新設を含む要綱案を取りまとめた。これによれば、性的な部位やわいせつ行為を盗撮した人には「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」、撮影したデータを不特定もしくは多数の者に提供した人には「5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金」が科されるなどするという。
これには一定の評価がありながらも、平松さんが指摘するように検挙できている数はあくまで氷山の一角であり、基盤ユニット型カメラなどカメラそのものの発見が難しいケースも数多くあると見られている。
「盗撮対策の根元は『撮らせないようにすること』です。本来であれば、駅や商業施設などへの『努力義務』なども盛り込んで、盗撮カメラのチェック体制を作ってもらえるようにするなどの対応も必要かと思います」(平松さん)
盗撮は非接触型の加害行為であり、被害者自身が被害に気付かないケースも多いことから「あまりに軽く見られている」と平松さんは憤る。
「何かのきっかけで被害に気付いてしまった方は、心に深い傷を刻まれて、それを一生背負って生きていかなければいけません。外出先でトイレに行けなくなるだけではなく、自傷行為をしたり、自ら命を絶とうするほど追い詰められてしまう方もいるのです。新設される撮影罪の罰則でも足りないと思います」(平松さん)
検索エンジンで「トイレ 盗撮」と検索すると、常人ならば間違いなく不愉快な気持ちになるような卑劣な画像があふれかえっている。平松さんも「“犯人の視点”を知ってほしい」と発信することには葛藤があったというが、巧妙な手口を目の当たりにするうち「身を守るためには、そこまでしないと無理だ」と思い至ったという。
「盗撮は、みなさんが考えているよりも、もっともっと身近にあります。まずは犯人の視点を知って『そこに何があるのか』を考えることが、最大のディフェンスになるのです」(平松さん)
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