トー横キッズたちはどこへ? 「東急歌舞伎町タワー」開業日、目の当たりにした“光と影”
4月14日、国内随一の歓楽街である東京・歌舞伎町に地上48階、地下5階の複合施設「東急歌舞伎町タワー」がオープンした。
高層階に2つのホテル、中層階に映画館や劇場、低層階に飲食店やアミューズメント施設、地下にライブホールを備えた超大型のエンタメ複合施設。訪日客を見込み、羽田空港や成田空港との直通バスも乗り入れている。
その足元に広がるのが、いわゆる「トー横(※)」と呼ばれるエリア。いじめや虐待などによって生きづらさを抱える子どもたち(10代を中心に20代前半くらいの若者もいるとされる)が、居場所を求めて全国から集まる“たまり場”として、テレビやネットなどのメディアによって広く知られるようになった。
※ TOHOシネマズ 新宿(新宿東宝ビル)周辺を指す。東急歌舞伎町タワーはトー横の一角である「シネシティ広場」のそばに建てられた。
ここに集まる子どもたちは「トー横キッズ」と呼ばれ、性犯罪、違法薬物、オーバードーズなどの危険にさらされ社会問題となっていることは既知の事実。華やかなエンタメ施設開業の日、トー横はどのような姿となっているのか、現地に足を運んだ。
キッズたちはどこへ?
JR新宿駅方面から向かっていると、靖国通り沿いに立ち並ぶ雑居ビルの後ろに、高さ約225mの『東急歌舞伎町タワー』が見えてきた。超高層ビルのイメージが強い新宿だが、実は200mを超えるビルのほとんどがJR新宿駅の西側に林立している。東側に立つ東急歌舞伎町タワーは周囲でひときわ高く、暗い夜空にぼんやりと浮かび上がるその姿は、まさに“不夜城”そのものだ。
歌舞伎町のシンボルとも言える「歌舞伎町一番街アーチ」は、通常の赤いネオンが青色に。タワー開業に合わせて歌舞伎町一帯で開催しているイベント「KABUKICHO BLUE FESTIVAL」の一環で、4月27日までの期間限定だという。
アーチへ近づいてみると、ものすごい人、人、人。
リクルートスーツに身を包んだ新社会人や、大学生と見られる集団など若者も目立ったが、それ以上に印象的だったのは外国人観光客の多さ。英語や中国語はもとより、それ以外のさまざまな言語も飛び交う。アーチから歌舞伎町タワー前の「シネシティ広場」までは200メートルに満たない一本道だが、体感として5〜6割は外国人観光客だったように思う。
まっすぐ進んでいくと、右手に「TOHOシネマズ 新宿(新宿東宝ビル)」が見えてきた。いわゆる「トー横」に到着だ。
「トー横キッズ」たちは、普段ならTOHOシネマズ 新宿(新宿東宝ビル)横のスペースや、シネシティ広場に集まっている。しかしこの日は行き交う人々、待ち合わせの人々でごった返しており、キッズたちは見る影もなかった。
TOHOシネマズ 新宿(新宿東宝ビル)と東急歌舞伎町タワーの間にある「シネシティ広場」は柵で囲われ、オープニングイベントの会場となっていた。ホストクラブやガールズバーの呼び込みの人たちが、道路の反対側からその場所を遠巻きに眺めているのが印象的だった。
トー横キッズたちは、普段はTOHOシネマズ 新宿(新宿東宝ビル)の正面にも集まっているが、ここでも目にすることはなかった。
トー横キッズの“排除”がもたらすもの
いまやトー横キッズたちは「社会問題」とされており、東急歌舞伎町タワーの開業によって、トー横界隈が“浄化”されることに期待する声もある。しかし、歌舞伎町で未成年の保護活動に携わっていたAさんは「今回のトー横の閉鎖により、さらに状況は深刻化する」と危惧する。
「トー横に集まる子どもたちのほとんどは、家庭内での虐待などを背景にし、家に帰れない状況にある子どもたちです。頼れる大人が身近にいないことや、児童相談所の一時保護所も制限が多く安心して過ごせないこと、児童相談所に頼ったことでより状況が悪化した経験などから、大人を頼らずに、居場所や仲間を求めて集まってきています。
トー横では、一昨年の秋ごろから一斉補導が行われ、多くの未成年が補導されました。児童相談所につながった子もいましたが、『非行』とみなされ『指導』の対象として扱われた子や、虐待家庭から離れての生活を希望したにもかかわらず、受け皿がないことを理由に家に帰る選択をせざるを得かなかった子もいます。
その結果、大人への不信感と諦めだけが強くなり、根本的な彼らの状況は解決されないまま、またトー横に戻ってきたのです」(Aさん)
Aさんは、一斉補導により変わったことは「(キッズたちが)再度補導されることがないように身を隠すようになったこと」だという。
「結果的に、子どもたちはホテルやネットカフェ、知らない人の家、宿所付きの性売買業…密室でより危険な状況に身を置きながら、日々を過ごさざるを得なくなりました。今回のトー横の閉鎖により、さらにその状況は深刻化するだろうと考えています」(Aさん)
同じような痛みを抱えた仲間と出会えなくなれば、個別化、孤独化が進む。キッズたちが何らかの犯罪被害に遭ったとしても、ブラックボックス化していくのは想像に難くない。
「子どもたちの個別化、孤独化が進めば、アウトリーチなどにより子どもとつながろうとする支援団体ともつながりが持てなくなってしまいます。警察や行政は、そうした子どもたちが置かれた状況に対する支援の不足や不備にこそ真剣に取り組むべきですが、排除したことで見えなくし、『なかったこと』にしたいのだということが、こうした動きからもよくわかり、憤りを感じます。
子どもたちが路上に集まらざるを得ない状況をつくったのは、大人たちであり、今の社会なのです。そのことに目を向け、受け止め、排除するのではなく、子どもたちが安心して過ごせる環境づくりに早急に取り組んでほしいと思います」(Aさん)
※記事中の写真はすべて弁護士JP編集部撮影
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