「社員食堂で無銭飲食」「遅刻、ミス連発…」“問題”社員の「解雇」はやりすぎ? 裁判所が下した判断は…
ヘヘッ…これくらいならバレないだろう…と会社でチョロまかしをやっている方はいませんか? それを1つの理由として解雇された事件を紹介します。
会社側
「社内食堂で無銭飲食してますよね?」
Xさん
「誰が食べたか分からないですよね」
シラを切るも証拠を突きつけられて観念。いろいろな業務ミスも積もり積もっていたため、会社は最終的にXさんを解雇。
Xさんは「この解雇は無効です」などと訴訟を提起。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「解雇はOKです。これ詐欺じゃん。あと仕事のミスや遅刻が多すぎだから」
以下、分かりやすく解説します(学校法人埼玉医科大学事件:千葉地裁 R3.5.26)(弁護士・林 孝匡)
※判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話風でお届けします
事件の当事者
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▼ 会社
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・病院や総合医療センターを運営
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▼ Xさん
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・医療ソーシャルワーカーとして働く
(精神保健福祉士の資格あり)
・女性(47歳くらい)
・勤めて11年目
どんな事件か
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▼ 9年近くも休職
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無銭飲食事件が発生する前のことです。Xさんが働き始めて1年半くらいたった頃。「職員から嫌がらせを受け自律神経失調症になった」として休職します。
休職期間は…9年間!
その間も会社は給料を保証していました(判決文から金額は分からず)。ふつうは給料でないんですけどね(ノーワークノーペイ)。この会社やさし。
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▼ 復職
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約9年を経て、Xさんは精神科ソーシャルワーカーとして復職します。
その後は、仕事で色々とミスがあったようです。
・外来書類の単純なチェックミス
・遅刻
・相談室にカギをかけなかった
患者の個人情報があるから施錠する決まりだった
・統計作業のやり直しを命じたられても従わず、園芸作業に参加
・他のワーカーに告げずに30分席を離れたりなど
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▼ 無銭飲食事件
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Xさんは食堂で無銭飲食をします。方法は【プリペイドカードに1食だけ検印して2食べる】という腹ペコっぷり。その数、少なくとも13回。
職員の誰かが会社にチクったようです。その後、食堂の運営を受託していた会社はXさんの無銭飲食の様子を録画。その会社の社長がXさんを問い詰めます。
社長
「(無銭飲食の)投書があったのですが」
Xさん
「誰が食べたか分からないですよね」
Xさんは証拠を突きつけられるまで罪を認めませんでした。
会社はXさんに20日の出勤停止処分を出しました。就業規則の「不正不義の行為をして教職員としての体面を汚したとき」という条項に基づく処分です。
ーーー 裁判所さん、この処分はOKですか?
裁判所
「OKですね。これ詐欺罪にあたりますから。Xさんは無銭飲食を認めようとはせず、認めた後も、プリペイドカードに2回検印することを初めて知ったとか、検印しづらかったなど、自分以外に責任を転嫁するような不合理な弁解に終始しており、真摯に反省していたとはいえないからです」
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▼ 異動
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その後、Xさんは異動を命じられます。患者対応や金銭の取り扱いをしない部署です。ミスなどが多かったので異動を命じられたのでしょう。
異動先でもXさんはミスをしてしまいます。ザッと挙げると以下のとおり。
・封筒作業で手指を切ったまま続け27枚の封筒を汚した
その他、基本的な作業ができなかった
・1時間10分遅刻(体調不良とのこと)
連絡したのは始業開始時刻の40分後
そのほかも遅刻あり
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▼ USBメモリを失くす
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Xさんは教員の出張届けのデータが保存されていたUSBメモリを失くしてしまいます。会社との関係が悪化したようで、朝礼でXさんは「異動の内示を受けた」と発言します。異動命令が出ていないのに。
そこで会社は再び、Xさんに20日の出勤停止処分を出しました。
ーーー 裁判所さん、この処分はOKですか?
裁判所
「OKですね。XさんがUSBを適切な方法で管理していたとはいえず、失くしたことに気づいてからも翌日まで報告しなかったことなどからすれば、情報の取り扱いを軽視していると言わざるを得ないからです」
解雇
Xさんの出勤停止期間中に会社は「これからどうしようか」と考えましたが、これまでのXさんの勤務態度や能力からすれば配置できる部署がないと判断し、Xさんを解雇しました。
ーーー 裁判所さん、この解雇はどうですか?
裁判所
「解雇もOKです。順を追って説明しましょう」
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▼解雇事由にあたる
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裁判所
「まずXさんがやってきたことを見れば以下の解雇事由にあたります」
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解雇事由(by 就業規則)
就業状況、技能能率が著しく不良で就業に適さず、また、上達の見込みがないと認めたとき
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■ 理由
・長期休職から復帰したあと、わずか4か月で3回の遅刻
・その後も何度も遅刻
・相談室にカギをかけ忘れる
・無銭飲食
・書類の管理などでミス
・30分の離席
・封筒などの単純作業でも多くのミス
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▼ 解雇はやりすぎ?(相当性)
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解雇事由にあたるとしても「それやりすぎじゃね?(相当性ナシ)」と判断されれば解雇できません。ダブルチェックです。首キリがOKかは慎重に判断されます。
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労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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ーーー 解雇の相当性は、どうですか?
裁判所
「相当性もありますね(解雇はやりすぎではないってこと)理由は以下のとおりです」
■ 理由
・Xさんは無銭飲食を反省しているようには見えない
・1発目の出勤停止処分を受けたあとも遅刻を繰り返す
・自分の腕時計の時刻からすると遅刻していないと弁解
・USBの紛失についても反省しているように見えない
・精神科ソーシャルワーカー以外の業務をする意欲が欠如している
・Xさんの勤務態度の改善は期待できない
・働いていない9年以上の間も給料を保証していた
というわけで、解雇はOKとなりました。裁判所の【解雇OKかな天秤】に乗せる材料がこれくらい積み重なると解雇がOKになることもありますね。
1発解雇じゃなく出勤停止処分も挟んでて【ライトな処分から】という王道の手順も踏んでますし。
ほかの裁判例
1発解雇がダメ〜となった事件を1つ紹介します(デンタルシステムズ事件:大阪地裁 R4.1.28)。
コロナ中に営業さんを解雇した事件です。会社は「キミ、営業成績わるいから解雇ね」と実行。裁判所はザックリ以下の理由で「解雇はダメ」と判断。
■ 理由
・コロナで対面営業できなかったのに
・ガンバッて3件受注したじゃん
・これから伸びるかもじゃん
・上司も応援してたじゃん
ちょっと仕事ができないくらいでの1発解雇なら裁判所が「解雇ダメ〜」とすることが多いです。改善できるかもしれないじゃん、他の部署を検討した? などを裁判所は見るからです。
さいごに
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▼ 相談するところ
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解雇を匂わされている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
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