会社に促され「退職願」提出、「自己都合」扱いで退職金“大幅減”…元社員「損害賠償請求」に裁判所の判断は?
「なんで自己都合で処理されてるんだ…」
「もらえる金額が270万円も少なくなる…」
「退職を強要されたから会社都合のはずでしょ」
自己都合? それとも会社都合? をめぐるバトルです。
裁判所は「コレは会社都合だね。約270万円を払え」と命じました。
一般的に、会社は【社員の都合(自己都合)でプリズンブレイクした】という体裁を整えたいので、是が非でも退職届けをゲットしにきます(解雇して社員から訴えられたら負ける可能性が高いので)。
今回は〈退職届を出してしまった〉としても裁判所が「コレ、会社都合っしょ」と認定したケースです。
以下、判例を分かりやすくお届けします(ゴムノイナキ事件:大阪地裁 H19.6.15)(弁護士・林 孝匡)。
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
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▼ 会社
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・ゴム製品などの製造販売を行う会社
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▼ Xさん
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・得意先への商品の受発注などの仕事
・勤続16年
・45歳(退職時)
退職までの流れ
仕入先などからXさんにクレームが入っていたようです。クレームが入り始めてから約8か月でXさんは退職しました。Xさんの言い分によれば「退職に追い込まれた」という辞め方。
経緯を見ていきましょう。
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▼ こんなクレーム
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Xさんには以下のクレームが入っていました。
■ 仕入先などからのクレーム
・希望した納期に入荷されない
・何度、催促しても納期の回答がない
・取引先の担当者への言葉づかいが荒い
・期日に出荷されないなど
■ 社内からのクレーム
・責任転嫁する
・言い訳が多い
・受け入れ検査が遅すぎる など
会社はXさんに注意してきたんですが、Xさんの勤務態度は変わりませんでした。
上司3名はXさんと面談します。上司らは自己の問題点をXさんに挙げさせ、反省文を作成させました。内容はこんな感じです(判決文から一部抜粋)。
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・納期未回答については二度と起こしません
〜
・約束事は必ず守ります
〜
・2度とあいまいな返事は致しません
以上、11点について、今後深く反省し、二度と迷惑を おかけ致しません。もしこの様な事があった場合、 私自身の身のふり方を考えます。
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しかし、この後もXさんへのクレームが止まらなかったようです…。
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▼ そろそろヤベー
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反省文の提出から約4か月後、ふたたび上司との面談がありました。Xさんは上司から「反省文の11項目のうち守られていないものが多い」と厳しい指摘を受けました。
そして、上司らはXさんに対して「今後の身の振り方を考えるように」と告げ、Xさんは「進退を検討して3月までには回答します」と答えました。
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▼ タイムリミット
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3月末をすぎてもXさんは答えを出さなかったので、上司たちが動きます。上司らはXさんと面談しました。
Xさん
「やめます」
上司
「そうか、今後どうするのか」
Xさん
「私のことだから関係ないでしょ」
上司
「就職がなかなか決まらないのではと思い、言っただけだが。どこか良いとこを紹介してあげようかと思ったのに…」
Xさん
「今までやってきた仕事を利用した方がいいから、どこかあれば紹介してください」
その後、上司は退職願をプリントアウトしてXさんに手渡しました。
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▼ 退職願の提出
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翌日ころ、Xさんは上司から退職願を出すように催促されました。そこで、Xさんは退職願を作成しました。その退職願は空白部分を埋めるスタイルでした。理由は「一身上の都合」と記載して提出しました。
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▼ 前言、撤回!
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退職願を提出して、1か月半がすぎたころ。Xさんは退職したことを妻に打ち明けました。
…妻からブチギレられたのでしょうか。
Xさんは社長に対して「退職願を撤回したい」と求めました。が、かないませんでした。
自己都合として処理
ここがトラブルのタネです。会社は、会社都合ではなく、【自己都合】退職として処理しました。
会社は自己都合退職の場合の退職金を支払いました。ハローワークも自己都合の場合の基本手当を支給しました。
ーーー Xさん、どんな不満があるんですか?
Xさん
「私は自発的に退職願を書いていません」
「退職強要によって書かされました」
「なのでコレは会社都合です」
「自己都合にされると、もらえるお金が少ないんです」
ーーー 具体的には?
Xさん
「失業手当は、会社都合なら〈330日分〉いただけるのですが、自己都合にされたので〈180日分〉しかいただけませんでした(159万円も低い)」
「あと、自己都合にされたことで退職金も116万円低くなりました」
Xさんの請求
というわけで、Xさんは合計約275万円の損害賠償を請求しました。
〈内訳〉
失業手当の差額 約159万円
退職金の差額 116万円
裁判所の判断
裁判所
「Xさんの勝訴です」
「コレは会社都合ですね」
ーーー 理由は、どんなところでしょう?
裁判所
「以下の、3つなどですね」
==== 理由 ====
■ 退職願を提出した当時、Xさんの子どもらは学費などがかさむ年頃であったこと、住宅ローンも430万円以上残っている上、不景気でもあり、再就職先や独立の目途があるわけでもなかった。このような状況にあったXさんが、全く自発的に退職を申し出るとは考えがたい
■ 会社は、一向に改善されないXさんの業務態度に業を煮やし、Xさんに今後の身の振り方を考えるように告げ、暗に解雇の可能性をほのめかしながら退職を勧め、決断を促した結果、Xさんは解雇される前に退職する道を選んだものと考えるのが自然である
■ 会社は退職願を直ちに受領、翻意を促すことも、引き留めることも一切なかったことからして、Xさんの退職は会社にとって利益となるものであったと評価できる
というわけで裁判所は「会社都合だ」と認定。「なのに自己都合で処理してXさんが受ける金額が低くなった」として、会社に対して約275万円の損害賠償を命じました。
こぼれ話
Xさんは「退職強要に向けた嫌がらせをされた(罵声を浴びせられたり)」と主張したんですが、裁判所「そこまでは認定できない」と判断しました。
嫌がらせが認定されてたら、もっとスッと会社都合認定されてたと思います。
他の裁判例
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▼ 退職強要の裁判例
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過去に、〈こんな事件〉では退職強要されて慰謝料を勝ちとった社員さんがいます。
上司が「じゃあ書けよ、書けよ!退職願を」 「どっかへ行けよ。それで終わらすべよ」と退職を強要。「雑魚」「チンピラ」などの侮辱発言もあり慰謝料60万円。
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▼ 線引きはムズイ
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「チミ、退職した方がいいんじゃないかな」という退職勧奨と「テメエ辞めろや!」という退職強要があるんですが、こんなにハッキリ線引きできるケースは少ないです。
こちら(退職強要と退職勧奨の違い)も参考にしてみてください。
裁判官は、1つ1つの事実の積み重ねを見て「セーフな退職勧奨?or アウトな退職強要?」を判断します。退職をチラつかせ始められたら、面談を録音しましょう。
さいごに
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▼ 相談するところ
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「辞めたくないのに退職を勧めてくる。し、しつこい」と悩んでる方がいたら労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
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