女子アスリート“性的”「盗撮被害」の深刻度…「撮影罪」成立は被害防止策となる?
相変わらずアスリートへの盗撮被害が後を絶たない。5月16日には、駅伝大会で女子選手の下半身を執拗(しつよう)に撮影したとして、京都市立小学校の男性教諭(39)が、京都府迷惑行為等防止条例違反で地検に略式起訴された。この教諭は停職3か月の懲戒処分となり、同日付で依願退職した。
市教委によると、教諭は今年1月15日、市内で開催された全国都道府県対抗女子駅伝で女子選手が走る姿などを写真撮影したとして、3月に略式起訴され、京都簡裁が罰金30万円の略式命令を出した。
「性的な視点」線引きの難しさも議論に
アスリートの透けたユニホームや下半身などの局部を狙った盗撮被害は、かねてより問題となっており、これまで「迷惑防止条例違反」などで摘発されてきたが、条例は自治体によって対象行為や罰則が異なっていた。
そうした問題を解消しようと、日本オリンピック委員会(JOC)など7団体が共同声明を発表。性的部位や下着を盗撮する行為を全国一律で取り締まる「性的姿態撮影罪」を新設する法案が今国会に提出されている。
その素案の総則の第一条では、「この法律は、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することを目的とする」とある。
法案は今夏の成立を目指しているが、問題はその”線引き”の難しさだ。
「そもそも着衣の上からの撮影であり、性的な視点とそうでない視点の線引きの難しさが議論になっています。それについて、5月15日に開催されたシンポジウムでは、弁護士などが、バレーボール元女子日本代表の大山加奈さんらが『着衣の上からの撮影だから問題がないとは、到底言えない。線引きが難しいからといって法規制を諦めてはいけない』と訴えています。アスリートにとっては切実な問題なのです」(夕刊紙記者)
加熱する会場での“ターゲット”撮影が禁止になるも…
こうした盗撮被害、実は歴史が長く、かつては、専門の投稿雑誌が存在していたほど。ターゲットとなるのは、肌の露出が多かったり、ボディーラインにはりついたユニホームを着用している水泳、体操、新体操、フィギュアスケートなどの選手が主だった。
しかし、その状況が変わったのが、2000年代半ば頃、当時、”ビーチの妖精”と称されたビーチバレーの〈浅尾美和〉の登場からだったという。さるグラビア雑誌関係者はこう話す。
「ビキニスタイルのビーチバレーのユニホームと本人の美貌もあいまって、”アスリートモノ”は一気に人気になりました。浅尾美和の写真を載せると確実に売り上げが上がりましたね。しかし、控室での着替えシーンやロングショットで股間のどアップを撮影するなどヒートアップしていき、2007年には、日本ビーチバレー連盟は、観客個人により撮影を禁止してしまいました。
われわれ、一般週刊誌などにもまずパスが出なくなってしまい、撮影できるのは、大手メディアやスポーツ専門メディアのカメラマンだけとなってしまいました」
しかし、この関係者によれば、そこにも裏はあったという。
「これも昔からありましたが、大手メディアのカメラマンがこっそり裏で写真を回してくるんですよ。もちろんバレれば出禁です。でもやってる人は複数いましたね。さらに今は、スマホのカメラが高性能化して、誰でも望遠や連射で撮影ができるようになった。撮ろうと思えば、素人でもいくらでも撮れる訳です」
それで運営側とのイタチごっこは続いていたというが、浅田真央選手などが人気だったフィギュアスケートの世界でも同じような状況だったという。今回の法整備について、犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう話す。
「アスリートは、見られることには同意していているものの、そうした悪意のある撮影については許容していない場合もあるという話ですので、撮影行為自体を絶対に問題と言えるような撮影罪の話とは少し異なるように思いますね。それこそ、現場をどのように管理するかという問題ではないでしょうか」
つまり、やはり”線引き”の難しさが存在するようだ。
「競技に集中できない」選手の悲痛な訴え
“第二の浅尾美和””新・ビーチの妖精”と言われた元ビーチバレー選手だった坂口佳穗さん(27)は、現役選手だった2021年、WEBサイト「4yeas.」のインタビューで、アスリートなの性的目線での撮影についてこう答えている。
「犯罪に近い行為はやめてほしいと言っているのに、どうしたら伝わるんだろうって思います。悪質かそうじゃないかの線引きを分かってもらいたいのですが…。競技に集中できないような撮影の仕方だったり、悪質な画像をネットに無断でアップしたりするのは断じて許せません。
一方、会場でファンの方と一緒に撮影した写真や応援が伝わってくるような投稿はうれしいので、その線引きをより明確にした方がいいですね。会場では全て撮影禁止、ファンサービスの時間を設けて写真撮影するというのも、ひとつの方法かもしれません」
さて、アスリートへの「撮影罪」はどういう決着を見るか。今後の展開に注目だ。
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