星野源「キリンビール」CM“放映中止”に「過敏反応では?」の声も…法律違反“だけではない”問題点
5月9日から放映スタートしたキリンビール「淡麗グリーンラベル」の新CMがわずか数日で放映中止となった。CMは星野源さんと多部未華子さんの初共演で注目されたが、草原に置かれた鳥かごから2羽のセキセイインコが飛び立つシーンが、一部の愛鳥家たちからTwitterなどで「不適切」と指摘されていた。
いったん放映が中止されたテレビCMだが、現在は当該シーンを削除した“修正版”の放映が再開されている。またキリンビールは週刊女性PRIMEの取材に対し「ご心配をおかけしたお客様には、深くお詫びいたします」と回答したという。
愛鳥家たちを“戦慄”させたもの
「かごの鳥」という言葉があるように、鳥かごは昔から“自由を束縛する象徴”としてとらえられてきたことから、創作物における“自由の象徴”として、鳥が放たれるシーンが描かれることも珍しくはなかった。
しかし、今回「淡麗グリーンラベル」のCMを見た愛鳥家たちからは、実際にセキセイインコを放鳥すれば「餓死してしまう」「肉食獣に捕食される」といった指摘があがっていた。
一方、キリンビールがCMの放映を中止し謝罪したことについては、「いちいち大変な世の中だな」「演出でしょ!?」「表現の自由なんかないですね」「現実と作り物の区別もつかないか」といった“CM擁護派”の声も目立っていた。
「懲役1年」「罰金100万円」の罪にあたる?
「過敏だ」といった声もあがってはいたが、飼い鳥を屋外に放つ行為は動物愛護法の「遺棄」にあたり、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される(※)。また、放鳥したのが他人の飼い鳥だった場合は、器物損壊罪にも問われる可能性が出てくる。
(※)動物の愛護及び管理に関する法律(以下、動物愛護法)第44条3項:愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する
飼い鳥の保護活動に取り組む「認定NPO法人TSUBASA」の監事や「バードライフアドバイザー認定講座」の講師を務める青木敦子弁護士は「制作側がやりたかった演出は理解できる」とした上で、以下を指摘する。
「当該のCMでは、俳優さんたちが直接的に鳥を放った様子が描かれたわけではなく、屋外に置かれた鳥かごから自然にセキセイインコが飛び立っているということで、何ら問題がないように感じた方もいるかもしれません。
しかし、環境省は動物愛護法第44条3項の『遺棄』の定義を『移転又は置き去りにして場所的に離隔することにより、当該愛護動物の生命・身体を危険にさらす行為』(環境省『愛護動物の遺棄の考え方について』より)としています。すなわち、鳥かごを屋外に置いて飼い鳥をわざと逃がした場合は『遺棄』したと評価され、『犯罪』になってしまうのです。
なお、開け放たれた鳥かごから飼い鳥が勝手に出たから『遺棄』に当たらないのでは? という疑問もあるかと思いますが、逃がすためにわざと飼い鳥が鳥かごから屋外に出られるような状態に置いたこと自体を『遺棄』と捉えるので結論は変わりません。
これがもとから屋外にいる野鳥が人為的に設置された鳥かごから自由に出たり入ったりするのであれば問題ありませんが、“セキセイインコ=飼い鳥”というイメージが定着している日本においては、セキセイインコが鳥かごから屋外に出るという情景も、見ようによっては、まるで俳優さんたちがわざと飼い鳥を逃がしたようにも見えてしまいます。
キリンビールがCM放映を中止したのも、精査した結果『飼い鳥をわざと屋外に放つ行為は犯罪行為にあたる』との判断に至ったからではないかと想像されます」(青木弁護士)
ペットを「自然に帰してはいけない」ワケ
動物愛護法第7条4項には、飼い主の責任として「終生飼養義務」(動物がその命を終えるまで適切に飼養すること)が明記されている。
「野生動物の保護活動などにおいても、自然に帰すには獣医師など専門家がチームを組むように、いったん人間の庇護に入った動物は、簡単には自然に戻ることができません。
今回の騒動をめぐっては『過敏では』という声も多く見受けられたようですが、“かごの鳥=悪”というイメージもあるので、『本来であれば野生に』という考え自体は素朴な感情だと思うんです。
しかし、いったん飼育下に入った動物を屋外に放つというのは、逆に残酷なことをしていることになります。こと鳥においては、自由に空を飛び回るイメージがありますが、実際に飼い鳥を屋外に放てば、簡単に命を落としてしまう。こういった知識が、今後浸透していけばいいなと思います」(青木弁護士)
今、“炎上”した理由とは
「鳥をかごから放つ」という演出は、これまでもさほど珍しいものではなかったように思えるが、このタイミングで炎上に至った背景について、青木弁護士は「SNSの発展」「社会の変化」を指摘する。
「SNSで愛鳥家どうしの情報交換が活発になったのと同時に、飼い鳥が迷子になってしまった場合の悲惨な状況も知られるようになりました。『放つ怖さ』を実感しているだけに、どうしても敏感になってしまうのだと思います。
また社会的には、これまで弱い立場とされてきた存在に焦点があてられるようになってきたことが影響していると考えられます。たとえば今、子どもを露骨にたたくようなシーンがCMで流れたら炎上すると思いますが、それと同じように、動物の扱いについても意識が高まってきているのではないでしょうか」(青木弁護士)
「過敏だ」と片づけてしまえばそれまでだが、自分にとっての“大切な何か”に配慮の足りない演出がされた場合、次に「不適切だ」と声をあげるのは自分かもしれない。多様性が重視される今、“他人の言い分”を批判するよりもまず、その背景にあるものを見極める必要があるだろう。
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