ポストコロナで若年”立ちんぼ”激増中…新宿歌舞伎町「大久保”交縁”」危ない売春事情

中原 慶一

中原 慶一

ポストコロナで若年”立ちんぼ”激増中…新宿歌舞伎町「大久保”交縁”」危ない売春事情
平日の夜早い時間でも20人前後の女性が街頭に立つ(写真:弁護士JP編集部)

「1じゃダメ?」
「1はムリ。1.5からなんで」
「じゃあ1.5で」
「ホテル代4000円かかるけどいい?」
「それは大丈夫」

40代のサラリーマン風の男と、フリフリの服を着た10代と思しき少女が暗がりの中で値段交渉していた。

時刻は午後10時。5月末の金曜日。新宿歌舞伎町2丁目にある、大久保公園と「都立大久保病院」「東京都健康プラザ ハイジア」を挟んだ100メートルほどの通りには、2、3メートルごとにスマホの画面を見ながら道沿いにぼんやりと20代に思しき女性たちが並んでいた。いわゆる「立ちんぼ」と言われる“売春婦”たちだ。

大久保病院方面に”交縁女子”が並ぶ(弁護士JP編集部)

「相場は1万5000円から2万円くらい」

通りの周辺も合わせるとその数およそ50人。一方、それを値踏みしながら、回遊している男たちはざっと100人近くはいるだろうか。

冒頭で交渉成立したふたりは歩き始めた。密かに後をつけてみると、歌舞伎町2丁目のバッティングセンター方面に向かい、付近の「REST 4000円」と看板に書かれたラブホテルに入って行った。

歌舞伎町の事情に詳しい夕刊紙記者は話す。

「今、週末の夜ともなれば、あの付近は”立ちんぼ”のメッカとして異様な熱気に包まれています。だいたい相場は、1万5000円から2万円くらいで、女性が売春しています。昨年、ツイッターで、この付近の様子を『大久保”交縁(こうえん)”』と表記して、情報発信した人が現われ、ネット上で『今日は○○がいる』などと情報交換がされるようになりました。コロナの収束が見えてきた年明け頃から、さらにその数はさらに増え、今年2月にテレビ番組の『サンデージャポン』(TBS系)が、こうした”交縁女子”の特集を放送したことから、その存在が広く知られるようになりました」

病院前に立つ女性に次々と声がかかる(弁護士JP編集部)

店のツケの支払いをさせるため

しかし”交縁女子”は、かつてのように、暴力団による管理された立ちんぼではなく、そのほとんどはホストにハマった素人の女性たちだという。水商売や風俗で働けない18歳未満の未成年も多く、手っ取り早くここで売春させられているようだ。

それを象徴するような事件が今年4月に起きている。

警視庁保安課は4月27日までに、新宿区歌舞伎町のホストクラブに在籍していたホストA(25)を、売春防止法違反の「教唆」の容疑で逮捕。Aは、女性客のBさん(23)を、そそのかし、店のツケの支払いをさせるために「立ちんぼ」をさせていた疑い。Bさんは、Aに会いたいがために客を取っていた。売春をそそのかす「教唆」で逮捕者が出たのは、実に60年ぶりのことだと言う。

背景には、スマホなどの通信機器やSNSの発達で、見張りをつけなくても、安易に「管理売春」ができるようになったこともあるようだ。

「立ちんぼ」は明確な違法行為

風営法など、”夜の街”の事情に詳しい、若林翔弁護士はこう話す。

「”立ちんぼ”という形態は、売春相手の勧誘、客待ちにあたります。これは売春防止法第5条の1、3項にあたる可能性があり、違反すれば『6カ月以下の懲役、または1万円以下の罰金』が課せられます。ポイントとしては、『公衆の目にふれる方法』で客待ちや勧誘などを行うということ。したがって、大久保公園周辺で売春の客待ちや勧誘をしている”立ちんぼ”は明白な違法行為となります。あまり報道はされていないようですが、あのあたりは、定期的に警察による摘発は入っています。SNSでカジュアルに喧伝されているようですが、女性が売春を目的に街頭に立つ行為は、リスキーというより違法行為そのものなのです」

“交縁女子”などと言っても、やっていることは明確な違法行為。マッチングアプリなどで、”パパ活”(という名の売春行為)などを行なっているケースとは法的には別の扱いとなる。

「”パパ活”は、罰則がある違法な行為ではありません。先ほどの売春防止法5条に即していえば、『公衆の目に触れる』ことがなければ、1対1の交渉は、たとえ金銭が発生していても、罪に問われることはありません。ただし、『公衆の目に触れる』掲示板版などで相手を募集したりする行為は違法ですし、いわゆる『援デリ』など出会い系サイトで売春をあっせんする行為なども当然違法となります」

ちなみに、こうした売春行為において、立ちんぼを買ったり、パパ活女子とコンタクトを取ったりする「買春側」には処罰はないという。

「売春防止法では売春、買春、双方について処罰の対象にはありません。したがって両者合意の上で、成人女性との間で買春行為を行ったとしても、それだけで刑事罰を受けることはまずありません」(若林弁護士)

ただし、両者の話の行き違いなどで、女性に対し無理矢理に性的な行為を行いトラブルに発展した場合などは、女性が捜査機関に被害届(性被害)を提出するというような異なった方向で刑事事件に発展するケースなどはあり得るという。

公園・病院周辺では定期的に警察による巡回が行われているようだ(弁護士JP編集部)

美人局・ぼったくりなどのトラブルも

一方で、買春行為自体には刑事罰はないと言っても、そこには大きなリスクが伴う。前出の夕刊紙記者はこう話す。

「立ちんぼの中には、未成年もいて、年齢を知らずにこれに手を出したら、児童買春・児童ポルノ禁止法違反となり一発アウト。また、マッチングアプリで知り合った家出少女と”援助交際”で関係を持ち、その少女が補導されて、携帯の履歴から芋づる式に買春していた男が逮捕される事例は後を絶ちません。

さらに、立ちんぼの中には、交渉が成立し、いざホテルに入ろうとした瞬間、”お前、未成年と何やってんだ!”と、女性とグルになった男性が恫喝してくる美人局も存在します。大抵は児童買春の発覚を恐れ、警察にも駆け込めず、泣く泣く大金を支払うためになります。君子、危きに近寄らずです」

今、歌舞伎町を歩くと、「マッチングアプリで知り合った女性と歌舞伎町出会い、”私の知っているいい店があるから”と言われ、その店に行くと、ぼったくりの店に連れていかれるなどのトラブルが多発しているので気をつけましょう」と注意喚起するアナウンスが流されているが、買春行為にも、人生を棒に振りかねない大きな罠が潜んでいるのだ。

事情を知らない外国人観光客なども異様な光景に目をとめていた(弁護士JP編集部)
かつての”メッカ”大久保公園の反対側の人はまばら(弁護士JP編集部)

「売春防止法」は現実にそぐわない!?

また、「売春防止法」自体が、66年前に制定されたものであり、現実にそぐわないという指摘もある。前出の若林弁護士が続ける。

「従来の『保護更生』、補導処分と収容保護を目的(ベース)とした売春防止法はやはり時代には即してはいないと思いますので、改正されていくのは必然かなと思います。今回の制定された新法『困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(新法)』(令和6年4月1日施行)の意義は大きいと思います。

さらに本来は、売春場所の提供行為やあっせんは処罰対象であるにもかかわらず、ソープランドのように売春を行っていることが公然の秘密となっているにも関わらず黙認されていて、警察が恣意的に、時折見せしめ的に摘発するといった、権力にとって都合の良い形の法律運用(解釈)となっていることも問題だと思っています」

立ちんぼに関しては、”交縁女子”などと軽い感覚で捉えているのは間違いだと言えるだろう。

今年のゴールデンウィーク、歌舞伎町のド真ん中に「東急歌舞伎町タワー」がオープンしたことに伴って、「トー横キッズ」と呼ばれる未成年の補導など浄化作戦が続く歌舞伎町。そのわずか1本道を隔てた場所で、売春をめぐる諸問題は渦巻いている。

取材協力弁護士

若林 翔 弁護士
若林 翔 弁護士

所属: グラディアトル法律事務所

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