埼京線で痴漢&サウナで自慰行為を見せつけられ…男性「性被害」は女性と同様に保護される?
ジャニーズ事務所の前社長・ジャニー喜多川氏(2019年没)による少年への性加害が世間の耳目を集める中、女性に限らず、男性の性被害者への視点が定着しつつある。
先月23日には、JR埼京線の車内で、数分間にわたって男子高校生(16)を痴漢したとして、埼玉県新座市の団体職員A(56)と同県上尾市のアルバイトB(44)が強制わいせつの疑いで、警視庁板橋署に逮捕された。
AとBは2月16日夜、帰宅客で混み合うJR埼京線の下り車両に乗り込み、男子高校生を前後で挟んで、胸を触り、下着の中に手を入れて男性器をもてあそんだ。
「痴漢の情報サイトには”埼京線の先頭車両で待ってる”などと書かれた虚偽の書き込みがなされています。痴漢の被害者は圧倒的に女性の方が多いが、まれに男性もいます。この男子高校生は、身動きの取れない車内で、体重90キロ近くあるA、そしてBに陵辱され、恐怖で声も出せなかったようです。その後、ショックで埼京線に乗れなくなったというから、気の毒な話です」(夕刊紙記者)
人知れず悩み”泣き寝入り”が多い理由
今回、AとBは「強制わいせつ」容疑で逮捕されたが、それは男女間に限らず、同性間でも成立する。長年、性被害者を支援する活動を行ってきた青木千恵子弁護士の解説。
「『強制わいせつ罪』は、2017年7月の刑法改正以前から、男性同士でも犯罪が成立します。性別に関係なく、性的羞恥心を害するような『わいせつ行為』の被害を受けることがあるためです。一方、2017年の法改正により、『強制性交等罪』も男性同士でも成立するようになりました。改正前は、女性だけが被害者となる規定でしたが、膣(ちつ)以外に肛門や口への強制挿入も処罰の対象となったことに伴って、被害者の性別に限定がなくなりました」
以前は”女性器への挿入の有無”が「強制性交」のポイントとなっていたため、被害者が男性の場合、「強制わいせつ」でしか扱えないというケースがあったと青木弁護士は話す。
一方、性被害の被害者は他人に言うこともできず、人知れず悩み”泣き寝入り”することが多いのも特徴。その後、トラウマ(心的外傷)を抱えてしまうことも多い。今回のように被害者が男性の場合、その傾向はさらに強まるようだ。
「性被害に遭った女性へは『そんな服装をしているのが悪い』という批判がされたり、被害者が男性の場合、『なんで抵抗できなかったのか?』という批判が起きることもあります。性犯罪は、どのような場合でも加害者が一方的に悪く、責められるべきなのに、被害者が責められているように感じてしまうことも泣き寝入りの一因になっています。
男性が男性に被害を受ける性被害の場合、この傾向はより顕著になります。私が支援したある被害男性は、友人から『お前は体格が良いのに、抵抗できなかったのか』と言われてショックだったと話してくれました。犯罪の被害に遭ったとき、恐怖や驚愕(きょうがく)で身体が凍り付いたようになってしまい、物理的な抵抗が難しくなってしまうことは、性別問わずよく見受けられる現象です。
先日、衆議院を通過した刑法改正法案は、物理的な抵抗が難しい場合への配慮が明文化されていますが、法改正を機に、『被害者は物理的抵抗をするはず』という思い込みがなくなっていけばと思っています」(青木弁護士)
男性浴場内のサウナで…
今回の埼京線の痴漢は、同性への性的嗜好(しこう)を持つ男性が加害者となったケースだが、LGBTQ(性的少数者)を巡るこうした性犯罪はたびたび起きている。
先月27日には、サウナの個室で自慰行為をした男性会社員C(35)が公然わいせつの疑いで三重県鈴鹿署に逮捕されている。
Cは27日午後8時頃、鈴鹿市内にあるスーパー銭湯の男性浴場内のサウナで、複数の男性を前に、自ら男性器を見せながら、射精にいたったという。
「男女や性的嗜好は関係なく、不特定または多数の人が見る可能性のある場所における自慰行為は『公然わいせつ』として処罰の対象になります。いつ人が通るか分からない公道での自慰行為は公然わいせつに当たりますが、他人が入ってこない個室で自慰行為を見せ合う行為は公然わいせつに当たりません。ただし、個室でも大人数がいる場合は公然わいせつに当たります」(青木弁護士)
Cがどういう性的嗜好を持っていたのかは定かではないが、思い出されるのは、”心が女なら、身体的な性別は男でも女湯に入れるか騒動”だ。これについても青木弁護士に聞いてみると…。
「女性専用とされている場所に身体的には男性である方が立ち入ると、管理者の意思に反した侵入に当たり、『建造物侵入罪』が成立する可能性があるといえます。実際に、女装姿の男性が女性風呂の脱衣場に侵入して逮捕される事案は散見されます。その多くは女装して女湯に入るなど、のぞきや盗撮目的の犯行です。”心は女”などという言い訳は通用しない事案です」
「無防備な状態」で異性と接触したくない人への配慮も必要
青木弁護士は、「個人的な見解ですが、入浴施設や更衣室など、同性の人しかいないと信頼して性的に無防備になる場所では、身体的な性に合わせて行動するべきだと考えます」と言う。その理由については、こう続ける。
「一つは、防犯上の観点です。現実問題として、痴漢や盗撮をはじめとする性犯罪は、異性間で起きる比率が圧倒的に高い。”心は女”を言い訳にする犯罪を防ぐために、身体的な性に合わせて利用してもらう方が良いと考えています。
二つ目は、異性の身体を見たくない人の権利を守るという観点です。特に、異性の裸体を見ることに強い精神的苦痛を感じる性犯罪被害者にとっては、とても切実な問題になります。身体と心の性が一致しない方への配慮も必要ですが、無防備な状態で異性と接触したくない人への配慮も忘れないでほしいと思っています」
翻って、サウナの中でリラックスしていた男性たちは、いきなり見たくもない他人の自慰行為を見せつけられ、さぞ驚き、不快に思ったことだろう。ある意味、この男性たちも”性被害”を受けたと見ることもできそうだ。
今国会では、LGBTQの理解増進法案が採決されたが、さまざまな性的志向を持つ者への理解や権利保護と同時に、さまざまな性被害者へ理解や支援もさらに必要な社会になってくるだろう。
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